人は、弱っているところにつけ込まれると弱い。
安月給で働いている時には、「副収入」「高給アルバイト」などにコロリと逝く。このままじゃ売れ残っちゃうわなんて思ってる時には、結婚詐欺やヒモ男に引っかかる。もっと身近な例で言うと、男で悩んでるとか、振られた直後とか、仕事や友達、家族のことで悩んでいる時に、男に助けてもらったら、もうメロメロだ。
少女漫画には、主人公の女がヒョウに変身しちゃって困っていたり、幽霊がバンバン出てきて困っていたり、突然水が恋しくなって困っていたりすると、必ずイイ男がやってきて助けてくれるという、垂涎モノがある。篠原千絵という漫画家の描くストーリーである。この人の話は、どれもつきつめれば骨子は同じなのだが、そこが女のツボをがっちりつかんでいるため、どれもこれも非常におもしろい。
今回はその中の『海の闇、月の影』を取り上げてみたいと思う。
主人公は、流風と流水。この二人はマナカナほどカワユイ双子である。双子だけあって、好きな人も同じ、県内随一のスプリンター・当麻先輩。そして、とあることから古代のウィルスに感染した双子は、物体を通り抜けられるという物理の法則ぶっちりぎの能力が身につく。それだけなら「ちょっとお得な感染」で済むところだが、困ったのは流水だ。なんだかものすごく残虐で、人をバンバン殺す悪者になってしまったのだ。しょっちゅう悪巧みをしている流水の顔は、ものすごい悪役顔で、まるでスケバン刑事の海槌レミのようである。
で、この流水、なんでこんな悪いことをするかというと、好きで好きで仕方がない、当麻先輩が欲しいから。ところがどっこい、この当麻先輩は、双子の流風とイチャイチャむんむんお付き合い中なのだ。簡単に言えば、双子の妹と自分の恋しい男がイチャイチャしやがるので、腹が立って暴れてる女に超人的な能力が備わっていた、という話。
自分の好きな男と自分の双子の姉妹が、自分の思いを知った上で目の前でイチャイチャムハムハしていたら、ウィルスに感染してなくとも気分が悪いだろう。だがこのカップル、なんだかんだ言い訳しては、二人の熱々ぶりを見せびらかす始末。
女ってのは残酷だからな。「好きだから仕方がないの」とか、大義名分があるかのようなエクスキューズをして、自分の優位を知らしめそうとする奴っているもんだ。当麻先輩も当麻先輩で、自分のせいでいさかいが起こってるんだから、さっさとほかの女にすりゃーいいものを。いい人ぶって実はひどい野郎だ。
とはいうものの、この話、少女のツボを突きまくったようで、連載も伸びに伸びて18巻。詳しい解説は、次回述べるといたしましょう。
<つづく>