昨日、乙女ゲーのプロットの打ち合わせをしているときに、監修役の男性が「ヒーローを脱がしてフンドシ姿にしたらどうか」と言うので、「どこのサブですか」と思ってしまった。じゃあパンツならいいのか、つけてなければいいのかというような話になったが、イマイチ参加者の女性ライターたちは引き気味であった。

女というのは、男の股間周りのことは、好きとか嫌いとかじゃなくて、「なるべく考えたくない」というのが本音である。男の体で萌えるのは、腕の筋とか、細い指先とか、鎖骨とか、シャープなあごの線とか、そんな骨っぽいところで充分なのだ。入り組んだ複雑な部分には興味がないのである。

で、フンドシ姿で思い出したので、今回は『伊賀のカバ丸』で。忍者モノって、間違いなく少年漫画のほうが人気である。少女漫画だと、『かん忍!!茜』、『こいつら100%伝説』、『世紀末てっぺんBOY』くらいしか知らないが、少年漫画にはドサドサ忍者モノがあるようである。白戸三平とか。

少女漫画の場合、忍者というと、超常能力者的な扱いになる。主人公を守るための都合のよい力。要は悪魔だろうが神だろうが魔法使いだろうが忍者だろうが、どれも役割は同じ「ドラえもん」なのである。

それにしても『伊賀のカバ丸』はおかしな話だ。ギャグマンガだからではない。ひとつめにおかしいのは、ヒロインである大久保麻衣の出番がやたら少ない。カバ丸が惚れるのが大久保麻衣なので、彼女は間違いなくヒロインのはずだが、大久保麻衣なしで話がじゃんじゃん進んだりするのだ。

その上、彼女の魅力のなさときたら尋常ではない。本来、少女漫画の主人公は、なんか努力したり、泣いたり叫んだりして、最後には立派な人になっているか、『王家の紋章』のキャロルみたいに、無尽蔵に男に好かれたりすることで話が成り立つのだが、大久保麻衣はそんなことでもない。平凡で取り柄もなくて(とは少女漫画の主人公によく使われるフレーズだけど)、本当につまらない女なのである。出番が少ないのも仕方がないな。

そして、間違いなくヒーローであるカバ丸。これが全然かっこよくないのだ。大久保麻衣曰く、「きたならしくて、ふけつっぽくて、あなたなんか大きらいよ!」だそうだ。汚らしくて不潔っぽいのかあ……。失格だな。男にしろ女にしろ、お洒落かどうかではなくて「清潔感」って一番のモテ要素だ。いくらお洒落でも清潔感がないと、モテないのである。

なのにカバ丸は、ものすごい大食らいで、ポリバケツをお弁当箱にしようとするし、すぐによだれは垂れるし、食った後に口の周りはキタナイし、画面からなんか臭ってきそうなくらいなのである。その上、山育ちの忍者だから、現代の(といっても80年代だけど)常識をまるで知らない。本当にガックリくるくらいヒーローらしくないのである。

まーでも、少女漫画に登場する男性たちが架空の動物だとしたら、カバ丸は現実の男子にこよなく近い。どうがんばっても体が大きいハンデもあって、女の目には現実の男子って、ガサツでふけつっぽく感じてしまうことが多い。男の子が使ったタオルって、なんか臭いしなあ。

それじゃあ、大久保麻衣はカバ丸のどんなところに惹かれていくのか。この、世にもつまらない主人公・大久保麻衣は、世にも面白いカバ丸を好きになっていくのだが、それはとても簡単なことだ。

カバ丸は「大久保麻衣以外はちっともかわいくねー」的なことを言い、どんな女にも見向きもしない。大久保麻衣が、うっとりと椿かなんかに見とれていると、カバ丸は手裏剣でその花をふと房、大久保麻衣の手元に落としてくれる。ホントにガサツな男が、女にこんなにスマートに花をやってくれるのか? と思ってしまうが、「男が花」ってのは女の萌えである。

とにかく、不潔っぽかろうが、ガサツっぽかろうが、自分のことを一筋に好きだったら、女はすんなり落ちるという、お手本的漫画なのであった。
<つづく>