NHKの番組を見ていたら、ボーイズラブを愛する女性心理について、ファンや作家がこんなことを言っていた。
「男性同士の恋愛は、女の自分が絡まないことで、一歩引いて見られるところがいい」
なるほど。女が恋愛至上主義だということは、それに関しては熱い気持ちを持っており、なかなか冷静に対処できないものだ。男に振られれば天地もひっくり返るほど悲しいし、惚れた腫れたで大騒ぎ。セックスは人生がひっくり返るかもしれない行為であり、やはり冷静ではいられない。
でも、いちいち恋愛ごとでヤキモキしたくない、と思ってはいるのだ。小さなことでクヨクヨしないで、サッパリと明るく過ごせたら、どんなにいいだろう。だけど恋愛ものには興味がある、これをサッパリと楽しむ手段として、ボーイズラブというものが好まれるようなのだ。
このあたりについては異論のある方も多いかと思うが(私はめっぽうボーイズラブ系がダメなので)、恋愛をクールに大人に楽しみたい、という気持ちはわかる。男に振られたって、「ああそう、じゃあ、気が向いたらまたいらっしゃいね」とか笑って言いたいし、妊娠したって「子どものいる人生も楽しそうよね、え? 私一人で育てるわよ!」とか言い放ちたい。いちいち泣いたり叫んだりはしたくないのである。
女でありながら、クールに恋愛を楽しむためには、どんな条件が必要か。そのひとつが「金」である。使い切れないほどの金があったら、男と別れようが、子どもができようが、どんな男だろうが、ほとんど問題がない。女の場合、男と生活力というのが、割と切って離せないのだが、金さえあれば、男に絡む生活の悩み事はないわけだ。
『シャルトル公爵の愉しみ』は、そんな話だ。「公爵」だからもちろん金の心配はない。出てくるキャラクターみんな、かるーく悩んではいそうなんだけど、基本的には楽観的で変わり者で、恋愛でいちいちグダグダ言わない。セックスしようが妊娠しようが、「そういうこともあるかもね」みたいな感じで、みんな大丈夫。ものすごく痛快感が漂う作品だ。
主人公は莫大な金持ちのシャルトル公爵と、その妻になるヴィスタリア。そして息子のアンリや娘のアテネーなどだ。シャルトル公爵は女嫌い、ヴィスタリアは男に触られるとゲロを吐く男嫌いの美女好き、アンリは超天才のマイペースな浮気者、アテネーは超能力者と、まあ普通の人があまり出てこない。
作中、浮気もあるし、アンリの妻となる美女レオポルディーネは、シャルトル公爵を愛しているという、描こうと思えばヘヴィーになる要素も、脳天気に笑い飛ばしている。男が冷たいだのなんだのと、いちいちポロポロ泣く少女漫画にウンザリしている読者には、軽快に読めるストーリーなのではと思う。
そもそも名香智子の作品には、恋愛に対する重苦しさがない。『レディ・ギネヴィア』や『皇妃エリザベート』なども、ぶわんぶわん泣き叫ぶシーンがなくて、割とみんなあっさり。ギネヴィアは男言葉の変人だし、エリザベートも夫に愛人を斡旋する冷静さがある。ギネヴィアなんか、自分をレイプした相手と結婚したりしちゃうんだから(しかもレイプ後、ギネヴィアが言うのが「子どもができても、お前にはあげないからな!」)超越してるよな。
漫画のキャラ設定やストーリー展開というのは、その理由を考えてみると、結構面白いし、納得がいったりするものである。昔は、ヴィスタリアが女好き、というのがどうにも気持ち悪くてダメだったんだけど、今となってみると、その理由が何となくわかるのである。というわけで次回はそんなお話をしつつ。
<つづく>