和久井は、派遣なんかの単発の仕事が結構好きだ。以前やってみて面白かったのは、スーパーでポスレジのソフトを更新するというもの。消費税が内税表示になるという日の前日、閉店後にスーパーに入って、メインコンピュータと各レジのソフトを更新して、開店後、動作確認をして帰るのだが、なるほど、社会のシステムが変わると、こうして仕事が生まれるのだな、と思ったりした。深夜のスーパーに居続けというのも初体験だし。また、消費税の二重取りをした店がニュースになっていたが、どの会社が管理してシステムを更新したのだろう。私の店では、何度もいろんなチェックをさせられたぞ。

しかしこういうのは、期限があるからこそ面白いと思えるのであって、毎日そればかり、一生続く仕事だったら、大した感動もなかったことだろう。大抵のものはそうだけど、人は期限があると、メリハリができて頑張っちゃったりする。

『天は赤い河のほとり』(以下、『天河』)でも同じシステムが使われている。ナキア皇太后の呪いによって、現代から古代ヒッタイトにタイムスリップしたユーリは、『王家の紋章』(以下、『王家』)のキャロルよろしく、帰りたい帰りたいと繰り返す。そしてユーリが現代に帰るチャンスは、年に1度(くらい)あるらしい。その時期までだから、と、ユーリは戦争で頑張っちゃったり、カイル皇子とイチャイチャしたりする。これは上手い作りである。

期限が与えられれば、普段あんまり頑張れない人間でも、ガツガツやったりするものだ。出会った男女が、いきなり「一生添え」と言われたら結構考えちゃうけど、「とりあえず1年」とかだったら、試してみるのも悪くないというか、頑張れちゃうかもしれない。

で、結局2人の愛はどんどん深まり、「やっぱ帰らなくてもいいか」みたいなことになって(最初こだわっていた氷室くんのことは忘却の彼方らしい)、とうとう14巻目にしてユーリとカイルは結ばれるのである。ちなみにそれまで、2人は一緒にいるときには毎晩イチャイチャしながら眠っているので、これまたカイル皇子はよくぞ我慢なさったものである。この辺は、この作者お得意の「男は我慢」の展開だ。ちなみに、カイル皇子はわりとイケイケなので、ことあるごとにユーリを押し倒したりするのだが、そのたびに部下たちが「大変なんです!」みたいに乗り込んでくるのである。ノリとしては、寅さんのお決まりパターンのようだ。

ついでにユーリをつけ回すエジプトのラムセスも、ものすごく積極的にユーリに襲いかかり、読者を楽しませてくれるのだが、わりと軽い理由でストップしてくれる。少女漫画の男は本当にブレーキの利きが良くて。

『天河』は、ヒッタイトの歴史を結構調べてストーリーに組み込んでいるようで、これまたうまい。カイルことムルシリ二世は、ヒッタイトの隆盛をもたらした王なのだそうで、主人公はその后になれるんだから、夢のある話である。

そしてその150年後、突如としてヒッタイトの街は火災に遭い、消滅したのだそうだ。その辺のくだりは、『天河』ではさらりと述べるに留まっているが、私は知っているぞ。エジプトからさらってきたキャロルという女を取り返すために、メンフィスという王がやってきて燃やしたのだ。そこら辺は『王家』の5巻あたりに詳しいので読んでみるとよろしいかも。

『天河』は、少女漫画にしては戦闘シーンが多いので、男性読者も楽しめるかもしれない。が、途中で「宦官施術」シーンがあるので、どうだろう。女の私ですら想像するだけで手のひらが冷たくなるのだが、そこら辺がスルーできるなら、各所ちりばめられている萌えシーンで、男性キャラがユーリのどこら辺を触ってるかなど、参考にするとよいのではないでしょうか。おあとがよろしいようで。
<『天は赤い河のほとり』編 FIN>