この連載が始まって、5月で3年になる。なかなか長い連載になったものだ。最初にこのコラムを書いたとき、担当編集さんと「ぜんぶ手弁当でやっちゃおうか」という話になった。なぜか? お互い、「こんなコラム、作者が読んだら怒っちゃうかもしれないじゃん」という弱気な気持ちだったからだ。

少し前だけれども、『BLACK BIRD』を取り上げたら、作者の方がブログで紹介してくださり、怒るどころか楽しんで読んでいただけていることが判明した。事実を知るなり、担当編集と歓喜のハイタッチである。その後、漫画雑誌の編集さんとお話をしたら、「あのコラムは、きちんと読んでいることがわかるので好感が持てる」と言ってくださった。

そこで少し安心したので、そろそろ『天は赤い河のほとり』(以下、『天河』)でも取り上げてみようか。『天河』というと、避けて通れないのが『王家の紋章』(以下、『王家』)だ。いや、一応断っておくと、作者の篠原千絵の執筆作品は全部読んでいるし、かなり好きな漫画家の1人と言ってよい。最近は短編集を買うと、昔読んだことがあるヤツがかなりの確率で混じっていて悔しい思いをしているが……。

さて、似てる似てると言われている『天河』と『王家』だが、どこがと言うと、基本設定の「主人公が悪い女に呪いにかけられ、古代にタイムスリップするも、権力者と大恋愛になって、また他国の権力者からも好かれてさらわれたりして、なんやかんややるところ」だ。それに加えて、細かいスパイスがやはりかなり似ている。ミタンニ王国の人たちがなんとなく悪役っぽいところとか。

まあでも、古代を舞台にして、少女漫画のスパイスをぶちこんだら、そりゃ同じような話になるだろうなあ。例えば『王家』は、

1.「ヒロインはめちゃくちゃ平凡な女という設定」
2.「なのに権力者に好かれる」
3.「なのに権力を与えられる」
4.「それなのに複数の男からチヤホヤされる」

というような条件のもと、話が作られているが、これだけなら『炎のロマンス』も条件を満たしている。『NANA』だって、かなりの部分で当てはまる。少女漫画というのは、非常に少ない基礎条件の元に作られているのだ。

しかしこれだけ有名な『王家』と似た設定を発表するというのは、編集にしろ作者にしろ、ある程度覚悟があったはずだ。企画段階で似てることはわかるわけだから、それでもGOサインを出したのは、大手出版社ならではの強気なのか、法的に問題なしと踏んだのか。

『王家』の作者はかなり不快な気持ちであったようだが、恐らく『王家』を読んでエジプト考古学に興味を持った人と、『天河』を読んで古代トルコに興味を持った人、どちらが多いかといえば、間違いなく前者だろう。私も古代エジプトと聞くとなんだかワクワクしてしまうのは、吉村作治ではなくて『王家』のせいだ。『王家』作者はいっそ、「主人公がタイムスリップして古代に行っちゃって神になる話」をあと2、3、誰かに作ってもらい、「私は古代スリップものの創始者なのよ」とか胸を張っちゃえばいいのだ。

とはいえ、『天河』を読んでいて、「似てるなあ」と思うのは前半だけ。後半になるにつれ、作者お得意の謎解きが少々登場したりしてメリハリがある。よって、似てるとか似てないとか、それはネタとして楽しみつつ、両方読めばいいじゃん! という感じである。

で、『天河』でも『王家』でも見られた、アノシーン、次週はそんなことを少々。
<つづく>