世の中には、少女漫画みたいなヒーローなんて、いないんだよ! とは、まあ大抵の人は思っているに違いない。「いたらいいな」という女子は多いとしても。

『ハチミツとクローバー』に出てくる男の子たちは、スーパーヒーローではない。みんな普通……ではないかもしれないけど(森田くんとか)、魅力的な男子たちである。では、誰が、どんなふうに魅力的なのか。

まずは竹本くん。映画で櫻井翔がやってた役ですね。彼は、とても一途だし優しいし、ちょっとグダグダ悩んで自分探しの旅に出ちゃったり、切れ痔になったりしちゃったことを除けば、非常に好青年である。自転車で行けるところまで、っていうのは、男子の夢というか、憧れのようで、突然思い立ってチャリ旅行に出たという話を何人かから聞いたことがある。こうした彼の自分探しツアーは男子をはじめ、女子の胸を打ったに違いない。でもよく読んでみると、全然毒がなくて好青年なのに、主役級の中で唯一、誰からも好かれてないキャラだ。「いい人どまり」ってやつ? なんだかかわいそうだなあ。がんばってるのに。

そして変態第一級の森田くん。風呂には入らない、挙動不審。少女漫画では金持ってることくらいしかヒーローとしての素質はないんだけど、実際にいたらモテるだろうなと思う。なんでかって、ものすごく自由だからだ。大抵の人は、他人の目を気にして、自分を取り繕ってみたり、迎合してみたりするものだけど、森田くんにはそれが一切ない。龍馬のファンってすごく多いと思うけど、その理由は、彼が何にも縛られずに自由だからだと思う。そして森田くんにも同じ匂いがするのである。実際付き合って長くなると、不幸な気はするけど(マイペースだから)、「いいなあ」と思う女子は多そうだ。ものすごく才能あるらしいし。でも実は結構アンニュイな過去があったってところも、女心をくすぐりますね。普段笑って明るく振る舞っていても、心に何を抱えているかは、なかなか他人にはわからないものだよ。

あゆがずっと片思いしてるのが、真山。で、真山が好きなのが理花さん。理花さんは、ものすごくアンニュイではかなげな年上の女。事故で身体が少し不自由なんだけど、そういう人を好きだというのが、いいね、真山。自分の都合のいい女を好きになった、という感じがしないのが、いい。マンションの前でウロウロしてみたり、人のパソコンを勝手に覗いて見てみたり、やばいヤツがやったらかなりやばそうだけど、動機が割と純情だからセーフな感じ。チャンスはあってもいたずらしたりしないし、してもキス止まり。その辺、ちょっとフィクションが入ってる感じだけど、こんな年下に好かれたら楽しそうだよなあ。

そして、あゆのことが好きな野宮さん。真山の働くデザイン事務所の先輩。そば食べに行こうかと言っていきなり長野まで連れて行っちゃったりして、ちょっと強引で、電話口であゆが泣いてるような気がして、鳥取から車飛ばして帰ってきたりして、ちょっと一途で、ちょっと意地悪だけど、泣いてるあゆをホテルに連れて行っても、なんにもしない紳士である。

個室でベッドがあったり、女が裸だっていうのに手を出さない男っていうのは、少女漫画的には最上級に萌えである。イカニモなセッティングを整えておいて、そこでは食わず、思いあまったり、女の気持ちを待ってくれるというのは、とっても大切にされてる感がある。真山も、理花さんとあれこれチャンスを持ちながらも、「あわよくば」的に手を出さないのがよい。一方的にキスするときも、かなり「思いあまった」的な感じ。「あわよくば」を感じると、女はかなり引くんです。男的には恐らく一番狙いたい線だろうけど。

こうして読み返してみると、意外とロマンティックラブストーリーじゃなかったなあ。片思い程度でメソメソ泣く輩はいっぱい登場するけれど、スパイスがたくさん利いていて、小笑いできるストーリーだ。もしかしたら食わず嫌いかもしれないので、まだの人は試しにぜひ。どうしてもダメそうでも、10巻に収録されている短編だけはぜひ読んでみて、お願い。
<『ハチミツとクローバー』編 FIN>