ここ数年、漫画がドカドカと映像化されてきた。映像を作るのって、とにかく金がかかる。セットやら俳優の出演料やらは目に見える経費だとして、さらにスタイリスト、ヘアメイク、それら人材のスタッフ弁当から個室、移動代と、映画やらドラマやら作るのに目に見えない経費が莫大にかかる。

そうなると、ゼロからものを作って、売れなかったときのリスクを考えると、すでに知名度があって、「面白い」お墨付きをもらっている漫画という媒体からネタをもらってくるのは、リスクが少なく話も早かったのだろう。漫画ってのは、メディアの中で関わる人間が圧倒的に少なく、経費がかからない媒体だからな。そこで新しいチャレンジもしやすいのだ。

しかし、漫画の映像化で、できあがった作品を見てみると、明暗がハッキリ分かれたようだ。漫画の世界を上手に映像の世界へと変換することができれば、映像化作品もヒットする。いい例が『ベルサイユのばら』。これは宝塚では大成功したけど、映画は失笑ものの出来具合。女装のオスカル様というのは、宝塚そのもので、「おぉ」とか「ああぁぁ」とか、大仰な台詞は舞台化してもバッチリだったに違いない。だけど本物の外国人を使って映画っていうのは、なんだかオスカル様は異様にボインだったし(あんなのが練兵にいたら、そりゃ男はさかって大変だろ!)、まあいろいろ無理があったのでしょう。

最近の漫画原作を考えてみると、『のだめカンタービレ』『花より男子』『きみはペット』『NANA』などは大成功した。理由を考えてみると、『のだめカンタービレ』は、そもそもキャラが立っている話なので、上手にキャラを映像化すれば、漫画の面白さは変換できる。『花より男子』『きみはペット』『NANA』は、女萌えシチュエーションてんこ盛りのため、それらのシーンを盛り込めば、同じように女たちはドラマに萌えるはずだ。漫画の映像化は下手にアレンジを加えると、間違いなく面白くなくなるようだ。ちなみに『ガラスの仮面』はスポ根だから、アクロバティックな作りを再現すれば面白かろう。同作はキャラを重視して、俳優をそっくり似せた先駆けのドラマじゃないのかな。

では映像化が難しいのは、そもそもどんな漫画か。映像に上手に変換できないものだ。例えば『僕は妹に恋をする』は、Vシネならいいだろうけど、映画はきつそうだ。エロシーンを全部取っ払ったら、ものすごく薄味になりそうだからだ。双子の妹をとても大事にしているシスコン男子の話、みたいな……。あの漫画は、兄がやたらとサカっているからこそ話が進むわけで。

そして『ハチミツとクローバー』(以下、『ハチクロ』)。美大に通う男女が、軽く三角関係とかしながら、キャッキャやる話だ。ボロのアパートに住み、青春の食卓して、片思いに胸を痛くする。でも一番の魅力は、漫画ならではのテンポだったように思う。

派手な中年おばさんみたいなプードル・ミドリちゃんとか、はぐとあゆの美少女2人が醸し出す奇っ怪な料理とか、漫画で読むと面白いけど、これを映像化すると大したことにならなそうだと思う。漫画では、「もはーん」とか「ぷわーん」という擬音があるからギャグになってるわけで、ト書きでムードやテンポを表せない映像では、「料理が下手ですが、それが何か?」だろうな。

とはいえ、『ハチクロ』には青春、恋愛、モラトリアム、自分探し、小ネタギャグと、要素がふんだんにある楽しい漫画だった。故の大ヒットだったわけで、次回はそんなお話を。

で、ちなみに私は、『ハチクロ』10巻に収録されている短編が、実は本編よりも好きだ。ドラえもんのアイテムを使ってストーリーを作るという企画だったとかで、アイテムの使い方に少々疑問はあるものの、これがものすごくよい。あらすじを人に話しているだけで涙目になるという情けないことになっているのだが、短編なのでサクッといけるため、ぜひ読んでみていただきたい。
<つづく>