「意地悪」と「指導」って、やるほうも受けるほうも判断が難しい。人を指導するに当たっては、少なくとも厳しいことを言わなければいけないことがある。しかし、それを意地悪と取る人もいるだろうし、逆に指導だといいながら弱さと私情を挟んで意地悪になっている人もいるものである。
『リアル・クローズ』では、かなり厳しいことをお互いに言い合うシーンがある。しかし、これらはすべて「意地悪」じゃないことがキーだ。誰も間違ったことを言っていないし、受けたほうも真摯に対応している。そのため、結果的にはものすごくいい関係が生まれている。理想の職場じゃないかな。
特に小西さんは、すごい。小顔で美人でスタイルよしセンスよし。ヤング・カジュアル売り場のメイン・チーフだ。そして、ものすごーく仕事ができる。上司となった絹恵の陰口を言う売り場店員に、「彼女を守り立てて売り上げるのが私たちの使命です!!」と指導する。そうそう、自分の立ち位置をしっかり把握して、何をすべきかを考えて実行するのも、仕事ができる人の条件ですわ。そうして部下を動かしておいて、独り言。「どんな出来の悪い上司でも使いようよ」。怖え! でも正解だよね。
まあぶっちゃけ、小西さんは絹恵が気に入らない。正社員だからといって、何もわからないくせに、のこのことヤング・カジュアル売り場にやってきて自分たちを支配する。契約社員の自分には与えられない特権をたくさん持っている。しかし、そうした本音を職場で小西さんが見せることはない。いとも易々と、絹恵に取り入ってみせるのだ。買い物に行けばサラリとプレゼントを買い渡し、「お姉さんと買い物に行くってこんな感じかな、と思いました」などと言う。ケンカする相手をしっかり選ぶのも、またデキる人間の必須条件だ。調査能力は抜群、様々な情報に自分の意見を付加して絹恵に見せる。絹恵の出る幕なしだ。かっこいい、かっこいいよ小西さん!
会社員生活において、スタート地点というのは、とても大事だ。つまり、新卒で正社員として入社したかどうか。もっと言えば、一般職か総合職か。正社員、総合職という地位さえあれば、チャンスは無数に与えられる。褒めればそこそこ頑張るという人はたくさんいるだろう。しかし契約・派遣となると、ボーナスなし、昇級なし、がんばってもがんばらなくても、何となく同じ。そこにやる気と熱意が生まれる人って、すごいと思う。スタート地点が恵まれているだけで、自分の特権に気づかずに人を見下してしまう人って、どれだけいるだろうか。
この話のいいところは、女子が心を通わしていくところだ。最初、絹恵を厳しく批判した凌さんは、今やすっかり絹恵の心の友だ。苦しいことがあると「おなかが空いたね」と言って飲みに連れ出してくれる。「どうしたの? 言ってみなよ」とかじゃなくて、「おなかが空いたね」ってのが粋でいいね。
絹恵や小西さんの場合、彼女たちの立ち位置が違うだけで、仕事に対する真摯な気持ちは同じ。だから、「話せばわかる」関係だった。2人が大げんかしそうになったところで、凌さんの取りなしにより、みんなでうち解け合う。いいな、こういうの。せっかく同じ言語を話しているのだから、とことん話して、とことん理解をし合うべきだよ。こういう女子関係の会社になら、今すぐ勤めたい。
ちなみに凌さんも契約社員だが、そこはハッキリ割り切って、契約のいいところを見つけて仕事に励んでいる。この作品の女性たちは、みんな仕事にまっすぐで言い訳をしないのがとてもかっこいいな。
そして面白いのは、登場人物の多くに、恋愛話が挟まれているにもかかわらず、小西さんにはまったく色っ気がないこと。あれだけかわいいなら、男の1人もいておかしくないだろうが、小西さん登場の意義は「自分の仕事と将来性」というところであろうから、恋愛ネタを差し込む隙間がなかったのだろう。やはり女にとって、恋愛と仕事は、どうしても一緒にできない、対極にあるもののようである。
<『リアル・クローズ』編 FIN>