世間における女子の興味の一番は、おそらく恋愛だろう。できればいい男と付き合いたい。学生のうちはイケメン高学歴と、結婚を意識するようになったら金持ちと。男のいない女を見れば「かわいそう」と言い、セレブ専用の合コンに足繁く通う。うまくいった後は一途なフリをしていればいいのだから、探す段階でいくら不誠実なことをしてもよいわけだ。それは『THE RULES』(ワニ文庫)という恋愛指南本にしっかり書いてある。とにかく、決まるまでは二股三股いっぱいかけて、とことん探せと。
自分が実践する分にはよいが、こういうことをする女は、非常に同性からの評価が低い。一方で「あの子ね~、美人だけど、なかなかうまくいかないみたいよ」なんていう話が、女にはたまらなく嬉しいのである。美人で金を持ってて、性格もいいから男にモテて、なんて言われたら、天から一物ももらってない一般人は、不愉快で仕方がない。でも、恋愛がうまくいかないというだけで、女は天からもらったほかのプレゼントを許してあげることができるようだ。なぜなら、恋愛こそが、女の求める一番のタカラモノだから。
『ヨコハマ物語』の万里子は、大店の娘さんで、父親から溺愛されている、たぐいまれなる美少女である。頭がよくてスポーツ万能、取り巻きができるほど男にモテモテで、もう非の打ち所がない。しかし多くの読者は、この万里子に味方をし、自分を投影するのだ。なぜなら、万里子は驚くほど恋愛下手なのである。
草食系の森太郎さまと、プライドが高く素直になれない万里子は、お互い好きあっていながらまったくうまくいかない。お卯野の計らいで、いったんは森太郎さまと婚約までこぎ着けたものの、あれやこれが起こり、万里子の実家が破産しそうになったところで、竜助と結婚させられる。
竜助は、3年も4年も会わずにいた女を一途に思い続け、思いっきり成り上がって大金持ちになり、万里子を迎えに来る。髪の毛は脂っぽそうだが、イケメン風である。女としては、断る理由がないだろう。しかし、万里子が出会うなり竜助に惹かれ、結婚できるんだ万歳となったら、話はまったく面白くない。恋がうまくいくには、あまりに万里子は恵まれているのだ。
竜助は、万里子にこう言う。「あんたは、最高の贅沢に慣らされ、それが一番よく似合う。それをあんたに与えられるのは俺だけだ」と。森太郎さまは人はいいけど、商売は得意ではないので、そこまで金持ちではない。一方で商社を営む竜助は、バブル到来って感じで、舶来品をバカスカ万里子に買い与えている。うらやましい限りである。
しかし! ここがまたこの話のうまいところであるが、万里子はその竜助の好意にどっぷり乗っかりはしないのだ。実家が危機になれば、自ら跡継ぎを買って出て、経営を立て直してしまう。少女漫画における経営や仕事のネタというのは、かなりおざなりなことが多く、「何いってんだか」というのがままあるのだが(少女漫画において仕事の話は悪者であったり伏線以下の扱いなので、それでいいらしい)、万里子の仕事っぷりは、かなり的を得ていて、興味深い。
万里子がやるのは、ブームを自ら作り出し、ものを売るという、プロデューサー的な作業である。そのために彼女は、アイデアをひねらせ、自分の足で営業に回り、クライアントを捕まえ、自分が広告塔となって商品を宣伝して歩く。商売には、フットワークと既存のものを新しいものに変える想像力が必要だが、彼女はその二つで、みるみるビジネスを成功させていくのだ。このあたりは、ぜひ社会人の皆様には参考にしてもらいたいものである。
美人で仕事ができて、お嬢様らしい優しさがある。これなら竜助が惚れてつけ回すのもごもっとも、ということで、読者も納得。万里子のハッピーエンドには、誰もが応援したに違いない。では一方で、万里子と対の主人公である、お卯野はどうか。それは次週に。
<つづく>