こんにちはみなさん、当講座へようこそ。
ここは女性向けのマンガを読み解いていくことで、日本の女たちが何を考え、何を求めているのかを知るコラムです。で、ヲトメ心をしっかり把握して、とりあえずモテとけということですわ。これから様々な女性向け漫画を取り上げていきます。そしてその栄えある第1作目は……誰もが少なくともタイトルくらいは知っている『ベルサイユのばら』(以下:
ベルばら)でいきましょう。アンドレ~!
『ベルばら』は、少女漫画が原作であるが、あまりの人気っぷりに宝塚、アニメ、舞台、果ては実写版映画なぞもできてしまうほどのマルチメディア作品である。最近では女性客を当て込んだベルばらパチンコが出ましたね。私はあれで舞踏会にも行けず3,000円ほど吸い取られました。
この漫画の主要登場人物は、オスカルさま、マリー・アントワネット、フェルゼンとアンドレ(そして嫌われ者のロザリー)。
この中で、一応、男の登場人物はフェルゼンとアンドレなんだけど、少女たちに爆発的な人気を得たのは、オスカルさまである。オスカルさまは、ジャルジェ家の末娘として生まれたが、男として育てられた男装の麗人。つまり中身は女なんだが、読者は猛烈にオスカルさまに熱を上げたんである。フェルゼンもアンドレも立つ瀬なし。
オスカルさま人気を物語るすごい話がある。『ベルばら』連載当時(1972~1974)、ある女子高校の先生が朝のホームルームのために教室に入ると、クラスの半数以上が泣いてたんだそうだ。どうしたのか聞いてみると、少女たちは「オスカルさまが死んじゃった~」と泣き崩れたそうな。
その日は『ベルばら』を連載していた週刊マーガレットの発売日で、連載を読んだ少女たちが、オスカルさまの死ぬシーンを読んで泣き出したらしい。ちなみにその学校では漫画持ち込み禁止であったが、おいおいと女子たちが泣き崩れる姿に、先生たちは注意どころじゃなかったそうな。
しかし、アンドレもマリー・アントワネットも漫画中で死ぬが、クラスが騒然とするほどの騒ぎはなく、フェルゼンの死ぬシーンに至っては、なんかどうでもいいちっちゃな絵で「民衆に殺された」くらいの紹介の仕方で、なんとも差別的である。
さて、そんな少女のアイドル、オスカルさまは、何故こんなにも少女たちに絶大な人気を誇ったのか? なぜ少女たちは、フェルゼンやアンドレといった男のキャラよりも、女性であるオスカルさまに恋をしたのか? それは、連載当時の時代背景が大きく関係しているのである。
さて連載していた1970年代というのは、どんな時代だったのか。沢田研二は自分の女に向かって「酒も少しくらいなら飲んでもいいさ」などと偉そうに歌い、女性の大学進学率は数%、進学してみたところで逆に職はなしという、男女雇用均等法なんてものが施行される10年以上も前のことである。
つまり当時の女たちは、将来幸せになるためには、就職なんか期待できないから誰かの嫁になるしかなく、かといって男がいい生き物かといえば、いばってて酒も飲ませてくれないし、「自立」「キャリア」なんて言葉はアンドロメダよりも遠く、「男に生まれれば良かった」と毎日呪文のように唱えていたような時代だったのである。
<つづく>