最近、オーディオプレイヤーソフトをいろいろ試しています。OS Xでは、サンプリングレートの変換はCoreAudioを使用することが一般的ですが、世の中にはより高精度な変換を行うライブラリがいくつかありまして。高性能なUSB DACを使わなければ気付かないほどの差ですが、気にし出すとキリがありません。

さて、今回は「後方互換性」について。OS Xはときに後方互換性を維持し、ときに切り捨てることによって進化してきたわけだが、今週思わぬ"過去からのゲスト"が現れた。その事件をきっかけに、他の後方互換性を抱えるプロダクトについても考えようという趣旨だ。

いま「Rosetta」を使うには

今週、Adobeが旧製品群のシリアルコードを公開したことが話題となった(関連記事)。旧製品ではあるものの、Creative Suite 2(CS2)を筆頭に、Acrobat 8やPhotoShop CS2、InDesign CS2といった同社を代表するプロダクトが対象に含まれることから、TwitterなどSNSを通じて情報はまたたく間に伝播、アクセスが殺到したことを耳にした向きは多いことだろう。

関連記事にあるとおり、この措置は正規ライセンスを所有しているユーザーに対するもの。CS2はリリースから7年以上経過、すでに現行のOSにおけるサポートが終了していることから、Adobeはアクティベーションサーバを2012年12月に停止。それでも対象製品を使いたい、というユーザに対してのAdobeからのサービス(役務提供?)という理解が正解だ。

経緯はともあれ、今回の出来事は我々OS Xユーザに「PowerPCアプリは完全に過去のもの」であることを再認識させた。サーバ停止前にCS2製品群をダウンロードできたとしても、PowerPC→Intelトランスコーダ「Rosetta」はLion以降取り除かれたため、Snow Leopard以前のシステムがなければ動作しない。

方法として考えられるのは、Snow Leopard Serverを仮想化ソフトのゲストOSとして動作させることだ(もちろんWindows版の使用は想定していない)。Mac OS X Snow Leopard Server使用許諾契約書2-Aには、「お客様はその1部以外にもMac OS X Serverソフトウェアを同じAppleのブランドが付されたコンピュータにインストールし、使用することができます」とあり、実際Parallels Desktop 8ではSnow Leopard Serverのインストールを認めるダイアログが表示された(クライアント版は拒否)。仮想化ソフト上でRosettaという非効率な動かし方にはなるが、PowerPCアプリを利用する数少ない手段であることは確かだ。

Parallels Desktop 8でSnow Leopard(クライアント版)を導入しようとしたところ、警告が現れてインストールできなかった

仮想化ソフト上でSnow Leopard Serverを動作させれば、現行のMacでもPowerPCアプリを実行できるはず

「X11」はどうなる?

ムリにRosettaを動かそうとすると壮大な"リソースのムダ"が発生する、という事実に幻滅したところで、互換性の切り捨てがプラスに作用しそうな事例も紹介しておきたい。それは、Mountain LionからX Window System(X11)が提供されなくなったことだ。

X11ランタイム環境は引き続きXQuartzプロジェクトが提供するため、今後OS Xで利用できなくなるわけではないが、多くのユーザにとってますます縁遠い存在になることは確かだろう。

この(Appleによる)X11サポート終了は、GIMPやInkscapeといったOS Xユーザにも人気の高いX11ベースのアプリケーションの「OS Xネイティブ化」を後押しする。そもそも要望が多くあったところにX11のサポート終了とくれば、開発チームのマインドにも変化が生じるはず。他力本願な発言で恐縮だが、UIがAquaベースに変更されればユーザ層の拡大も見込まれるため、いちエンドユーザとして多いに期待したい。

可能性はある。それはX11で一般的なGUIフレームワーク「GTK+」のOS Xネイティブ版が登場し、完成度が高まっているからで、実際GIMP 2.8にはX11が不要のネイティブ版が存在する(リンク)。それに比べInkscapeは遅れているが、やはりGTK+ベースのソフトウェアであることから、ネイティブ化は開発チームのマインド次第といえる。

もっとも、OS XにはGCDrawKitなど高機能なベクターグラフィックフレームワークも存在するため、是が非でもInkscapeをOS Xネイティブで、という機運は盛り上がらないかもしれない。いずれにしても、システム非標準の機能となった以上、OS XユーザにとってX11の存在感が次第に低下することは確実だろう。

Mountain LionではじめてXクライアントを実行すると、このようなダイアログが現れて外部Webサイトに誘導される

OS Xネイティブで動作するグラフィックソフト「GIMP 2.8」。Inkscapeもいずれはネイティブ化される?