Cheetah(v10.0)から数えて9代目となる「OS X Mountain Lion」が発表された。2012年夏に予定されるリリースは、現行の8代目・Lion(2011年7月)から約1年という、ここ数年ほど見なかったペースでのメジャーアップデートとなる。

そのMountain Lionだが、筆者は「統合を加速する」ことに重点を置いたリリースと理解している。ここでいう統合とは、狭義では(Mac)OS XとiOSの、広義ではクラウドを介しデスクトップOSとモバイルOSの差異をなくしていく試みだ。Lionで打ち出したその方向性を、AppleはMountain Lionでさらに推し進めている。

ふだんはハウツー的な内容の当コラムだが、今回は趣向を変え、わずかな情報を頼りにMountain Lionの姿を思い描いてみたい。

「ファイル」の概念が変わる

いくつもの新機能があるなかで、もっとも期待すべきは「Documents in the Cloud」のサポートだろう。同機能は、iOS 5(で動作する一部のアプリ)ですでにサポートされていたが、Mountain Lionへの導入により、今後OSの標準機能として定着させる方針が明確となった。

iCloudの目玉機能「Documents in the Cloud」がOS Xでサポートされる

例を示して説明してみよう。iOSアプリのKeynoteは、新規作成書類のデフォルトの保存先はiCloudだ。iPadで作成したプレゼンテーションは、その直後に同じApple IDでヒモ付けられたiPhoneで閲覧/編集できる。変更は直接クラウド上の書類に対して自動的に行われるため、ファイルを能動的に「保存」する必要がない。これがDocuments in the Cloudであり、iCloudの特徴だ。

iOS版Keynoteで新規文書を作成したところ。デフォルトの保存場所がiCloudに設定されている

この機能がOS Xで実現されるとどうなるか。現状を踏まえて、ひとつの可能性を示してみよう。

Keynoteなどのアプリケーションが、書類を直接iCloudに保存できるようになることは確実として、注目すべきはLionで実装された「オートセーブ」(書類の自動保存機能)と「再開」(アプリケーションの状態を自動保存する機能)、「バージョン」(書類の変更履歴を保存する機能)の行方だ。この3つの機能が(Mountain Lion版)Documents in the Cloudでサポートされれば、作成開始から最新版までの変更履歴を含め、文書のあらゆる情報をどこからでも参照できるようになる。

データをクラウド上に保存する手段として、Lionでは2つの方法が用意された。1つは、NSDocumentやNSFileMangerクラスを利用する、"ファイル"を扱う従来型の方法。そしてもう1つが、文字列にオブジェクトを関連付けて保存する、key-Value型のデータ保存法だ。

これは筆者の推測だが、Mountain LionでAppleは後者のアプローチを選択するのではなかろうか。key-value型であれば、文書の差分情報を逐一転送するはずの「バージョン」にも対応できるだろう。NSUserDefaultsがクラウド対応したかのようなNSUbiquitousKeyValueStoreクラスなど、iCloud上の差分情報を扱うAPIもLionの時点で整備されている。ローカルに保存すれば「バージョン」に対応するがiCloudではダメ、では機能的にアンバランスということもある。

つまり、不可分なデータの連続体としての"静的ファイル"から、細かくスライスされたデータの集合体、言ってしまえば"DB的ファイル"へ、Mountain Lion以降文書のあり方が変わっていくのではなかろうか。クラウド上ではどのような形で保存されようが、ローカルに"静的ファイル"として取り出す手段を用意しておけば、従来型システムとも共存できるはずだからだ。このような世界観こそが、iCloudをOS標準の機能として用意したAppleの意図と考えるのだが……。

デベロッパー向けにプレビュー版が公開されたMountain Lion。ただし詳細情報はNDA(秘密保持契約)の向こう側だ

「AirPlayミラーリング」に見るAppleの思惑

Mountain Lionでは「AirPlayミラーリング」がサポートされる。従来もiTunesから映像/音声をApple TVへ転送できたが、Mountain Lionからは"ユーザがデスクトップで見たまま"を転送できるようになる。

デスクトップの見たままをテレビに転送できる「AirPlayミラーリング」(画面はiPhone 4S)

iOS 5では、このようにAirPlayミラーリングの機能をいつでもオン/オフできる

たびたび主張していることだが、AirPlayはAppleの戦略的な技術だ。登場当初こそ、転送できるのは音声のみだったが(名称も「AirTunes」)、その後映像を扱えるよう拡張され、iOSデバイスと他のApple製品をつなぐ重要なプロトコルとなった。現在ではAV機器メーカーにもライセンスされているが、許諾されているのはオーディオストリームのみで、映像/音声とも転送できるのはApple製品に限られている。

AirPlayミラーリングがOS Xでサポートされれば、いろいろなソフトをテレビの大画面で見られるから便利だな、ということになるが、我々エンドユーザが注目すべきは「AirPlayの出力先」だ。現在はApple TVのみだが、今後iOSデバイスのみならずOS Xもサポートするとなると、より"大きな器"の登場を感じてしまう。Apple TVのためだけにこのような機能が整備されるとは、考えにくいからだ。

単純に考えれば、新しいハードウェアが投入されるということなのだろうが……DLNAに対抗すべくライセンス提供範囲を拡大、という可能性もある。現在のMacには、他のApple製品とセットで使ってこその部分も多いため、当分目が離せないトピックといえるだろう。

KeynoteやiMovieを大画面で楽しめますよ、というのがAppleの説明だが……それだけなのか?

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