「音」とMacは、切っても切れない関係。初代Mac(Macintosh 128K)には、当時としては高水準な22.5khz/モノラル8bitサンプルのサウンド機能が搭載されていたし、しばらくするとMIDIシーケンスソフト(Performerとか)も登場したから、音楽制作目的でMacを購入するサウンドクリエイターが現れたのも当然の成り行きだった。
いまやデジタルオーディオは当たり前、サンプリングレートもCD品質の44.1kHzどころか"ハイレゾ"が普通に扱われる時代。Macのサウンドも変わって然るべき、という背景があったのかなかったのかはわからないが、Big SurでMacの音はいろいろ変化を遂げている。今回は、その「音」に注目してみよう。
起動時のサウンドエフェクト
いつからか聞こえなくなっていた、Macに電源を入れたときの「ジャーン」という起動音。T1チップが採用されたMacBook Proの2016年モデル以降原則廃止と記憶しているが、T1/T2チップ搭載MacでもNVRAMに設定を書きくわえると復活することが報告されていた。
その設定とは、NVRAMの「StartupMute」という項目。そこに値として「%00」を持たせると起動音が鳴るようにできるのだ。具体的なコマンドラインは以下のとおり。Catalina v10.15.7が動作するMacBook Pro(13-inch, 2019, Two Thunderbolts 3 ports)で試したが、確かに耳慣れた起動音を聴くことができた。
$ sudo nvram StartupMute=%00
※:元どおり起動音をなくす場合は「sudo nvram StartupMute=%01」を実行
この面倒な起動音復活の呪文が、Big Surで不要になった。システム環境設定「サウンド」パネルにある「起動時にサウンドを設定」をチェックすればOK、それだけで起動音の有効/無効をトグルできる。なお、このパネルで起動音を無効にすると、NVRAMに「StartupMute %01」の項目が現れるため、Catalinaまでは隠されていた設定項目がBig SurでGUI化された、との理解が正しいようだ。
Big Surで変わった通知音
Big Surでは「通知音」が変更されている。筆者は長年、Terminalのオーディオベル(何かやらかしたときの警告/ビープ音)に「Sosumi」を利用していたのだが、Big Surでは姿を消してしまった。代わりに用意されているのは「Sonumi」、「訴えてみろ(So, sue me)」が「新しくしろ(So, new me)」に置き替えられたというわけだ。
通知音の変わりようを文章で表現するのはなかなか難しいが、単純な置き換え/リニューアルではなく、一新と考えたほうがいいらしい。「Pop」と「Boop」(ボタンを押すときの音を意味するオノマトペ)、「Glass」と「Crystal」など若干キャラがかぶるものもあるが、基本的には別モノだ。それに、音がいい。耳を澄まさなくても、広がりとか奥行きが感じられるのだ。
そういえば、WWDC 2020でBig Surの効果音について言及されたとき、より洗練された音にリマスタリングを施した、というコメントがあったような。だから、この音のよさはデータサイズの違いに現れているはず、と見当をつけて調べたところ、ビンゴ! 面白いことがわかった。
システムが使う通知音は「/System/Library/Sounds」に収録されているのだが、そこにあるサウンドファイルはCatalinaのときと同じ14種類、ファイル名も完全に同一。「Sosumi.aiff」はあるが「Sonumi.aiff」は見当たらない。しかし、afplayコマンドで再生すれば音は新しいもので、ファイルサイズはどれも2〜3倍に増えている。ファイル名は同じだが中身は別、という状態だ。
注目すべき点は2つ、サンプリングレートが44.1kHzから48kHzに増えていることと、ビットレートが若干アップしていること。再生時間(estimated duration)が長くなりデータサイズ(audio bytes)が増えているのはともかく、音質が向上しているようなのだ。
たとえば、Big Surのシステム環境設定で「Pebble」(サウンドファイルは「Bottle.aiff」)を再生してほしい。立体的な広がり・奥行きがあると思う。CatalinaのBottle.aiffと比べれば、はっきりと音質差を感じるはずだ。「Jump」(Frog.aiff)や「Submerge」(Submarine.aiff)もなかなか。たかが通知音されど通知音、細部のこだわりはAppleならではの美学なのかもしれない。