2週間ほど前、初代MacBookのHDDが突然アクセス不能な状態に陥りました。いわゆる"物理障害"を起こしたようで、いまはデータ復旧が可能かどうか調査している段階です。あまり話題になることはありませんが、HDDはいつか寿命がやってくる消耗品、誰にでも起こりうる話なだけに、このスペースを使ってこの貴重な経験を皆さんにお伝えしようと思います。

HDDが"飛んだ"日

その"飛んだ"HDDは、初代MacBook 1.83GHz標準装備のFUJITSU MHV2060BHPL。スペックはSATA / 60GB / 5400RPM、執筆用マシンとして昨年5月以来ほぼ毎日利用してきた。1日あたりの利用時間は長めだったかもしれないが、HDDへのアクセスが特別多いわけではなく、使い方自体は至ってノーマルだと思う。在宅時は放熱シートに載せて使うなど、それなりの熱対策もしてきたつもりだ。

HDDが"飛ぶ"瞬間は、最悪のタイミングでやってきた。それまで折に触れfsckを実行し、最低でも月に一度は重要な書類をバックアップしてきたが、GW中に風邪でダウンしてしまい(その後こじらせ延べ3週間ほど体調不良に)、後回しにできることはすべて放置していたところ……なにかの拍子に突然カーソルの回転が始まり、制御不能に。タスクの切り替えは可能だが、Terminal(シェル)は無反応。他のマシンからSSHでログインすることもかなわず、やむなく電源ボタンの長押しで電源をOFFにした。

この時点では、ただのシステムクラッシュで、fsckを実行すれば治るだろう程度の考えだったが、予想より事態は深刻。電源をONにしても何も検出されず、カチッ…カチッとHDDのあたりから音がするばかり。2度ほど電源ON/OFFを繰り返したが事態は不変、PowerMac G5に繋ぎ換えディスクユーティリティやdiskutilなどのコマンドを実行してもHDDの存在は確認できず。一定の間隔で聞こえる異音と認識すらされない状況からして、HDDは物理障害を起こしたと判断した。

取材に協力してくれた「テクニカルステーションSKE」には、Macユーザ用にPowerMac G3とG4が置いてあった

ちなみに、FreeBSDのatacontrolコマンドを利用し、もっとも遅いPIOにモードに変更して(それで認識できれば)データを救出するという裏技があるらしい。筆者もその方法を検討したが、下手に粘って病状を悪化させてはマズい、ということで業者への持ち込みを検討開始。方々にヒアリングを重ねる過程で、豊富な実績を持ちMacにも対応している「テクニカルステーションSKE」の小金氏に話を聞くことができたので、ここに紹介してみよう。

その道のプロに話を訊いてきました

最初に話しておくが、筆者はHDDを分解した経験はあるが、修理の経験はない。ごく軽度の論理障害から復旧させたことは何度もあるが、購入から1年しないうちにHDDを(あるいはマシン自体を)替えてしまうことが多いため、HDDの物理障害による実害を受けたことはない。HDDの接続規格や論理構造についての知識はともかく、その物理構造に関してはズブの素人だと正直に告白しておく。

小金氏によれば、物理障害の原因は"音"である程度推測できるらしい。いわく、「グイッ、グイッ」という音はヘッドの吸着(磁性面について離れなくなる現象)、「カン、カン」という音が連続する場合はモーター軸の固着、無音の場合は基盤不良である可能性が高いとのこと。周期的に発生する「ジジッ、ジジッ」や「ウィーン…カタン、カタン」という音は、ヘッド周りの異常など重度の物理障害を疑うべきだという。

HDD内部は一切のホコリを受け付けない"聖域"だ(写真はイメージです)

ご存知のとおり、HDDの内部は"超"がつくほど精密な機器で構成されている。それが物理障害を起こしたとなれば、ホコリ舞う一般人の部屋で"開腹手術"できるわけもなく、技術と機材を持つ専門業者でなければ対応が難しいのは道理。プラッタ表面についた傷など、専門業者でさえ対応困難な物理障害があるのも当然といえば当然で、どうにもお手上げな事態は少なくないという。

一般的な対処療法が通用しないゆえに、悪徳業者も跋扈(ばっこ)しているらしい。小金氏から聞いた話のうち、これはヒドいと思う事例2つを、啓蒙のためにも紹介しておこう。

データの引っこ抜き

1つは「データの引っこ抜き」。HDDに障害が発生したA氏は、最初業者▲にデータ復旧目的の検査を依頼(その際データ復旧にかかわる料金の取り決めはなし)。その後データ復旧が可能だと業者▲から連絡があり、復旧できるファイル/フォルダのリストとともに約50万円を請求された。A氏個人では負担が大きいため一度引き取り、小金氏のもとへ持ち込んだのだが、その時点でリストにあったファイルが消去されていたというのだ。高額だから他社へというA氏の行為も決して褒められたものではないが、実はリストを提示した時点でデータの移動を完了していた業者のほうが悪質だ。

不明朗会計

もう1つは「不明朗会計」。見積もり段階で業者■から約25万円を請求されたB氏は、値引きを要求したところ、半額以下の約12万円を提示されたというのだ。業者■に不信感を覚えたB氏は小金氏のところへ持ち込んだところ、ごく軽度の物理障害と判明、基盤の交換だけで完了したため2万円ほどで済んだという。これはラッキーな事例だが、と前置きしたうえで小金氏は、「顧客が検証できないのをいいことに、論理障害や軽度の物理障害でも高額な料金を請求する業者が多い。またそういう業者にかぎって、重度の物理障害の事案は引き受けない」と鼻息荒くまくし立てた。

話によれば、このデータ復旧関連の市場は年数十億円規模だという。そのうちどれだけの割合が、"人の弱みにつけこんで不当に"得た金なのだろう? もう少し時間をかけてこのテーマを追いたいと思うので、HDDのデータ復旧にまつわる高額/不明朗な請求を受けた経験がある方は、情報提供をよろしくお願いします。