国内だけでなく、世界各国で多くの人に愛されている「日本のアニメ」。そんなアニメを作り出す人々は一体どのような環境で働き、魅力的な作品を生み出しているのだろうか。
本連載では大ヒットアニメ『おそ松さん』の制作チームにインタビュー取材を実施。「仕事のウラガワ」についてお話を聞いてきた。大ヒット作の裏側で働く人々の話から、明日の仕事につながる仕事術が見つかるだろうか。2回目となる今回は、キャラクターのコラボグッズやタイアップ企画の商品化窓口を担当する三輪拓也さんにお話を聞いてきた。
■商品化窓口の仕事とは
アニメ放送中などによく見かける「コラボ商品」や「キャンペーン企画」は、作中では見られないさまざまな衣装でキャラクターが登場するなど、本編とは異なる魅力が詰まっている。そんな「コラボ商品」や「キャンペーン企画」のコンテンツ数は、人気作品ではなんと数百にもなるのだという。そしてそのすべてに携わっているが、アニメーション制作会社の商品化窓口だ。
「僕の仕事は、商品化全体の進行担当といえばわかりやすいかもしれません。グッズを作らせてほしい、自社商品とタイアップしてほしいという企業様からのご相談に合わせた企画から商品化までの許諾管理や、コラボ商品のリスト管理、発生したお金の管理までを一括して行っています。
コラボグッズだけでなく、web上でのコラボキャンペーンやリアルイベントなど、作品が関わるすべての企画に携わる仕事だ。
「業務全体は、【打ち合わせ→企画確認→原作者との許諾確認→商品化】といった流れで進みます。ちなみに具体的な商品ビジュアルとなるイラスト作成は、"版権担当"がアニメーターと一緒に進行しています」
「現在も100社以上の企業と一緒に企画を進行していて、アイテム数でいうと『おそ松さん』の第3期だけで1,000以上、キャンペーンやイベントなどでは30以上を担当しています。忙しいときには自分がもうひとりほしいと思うこともありますね(笑)」
現在三輪さんは5つのタイトルを担当しており、その担当商品数は膨大だ。
社外の人とのコミュニケーションだけでなく、社内の版権担当者やアニメ作品への出資をしている制作委員会など、さまざまな人とのリレーションを図っていく商品化窓口の仕事。交渉力や対話力が重要な仕事であるということがわかる。
■過去の経験を生かした働き方
三輪さんは学生時代にお笑いサークルで活動した後、グッズメーカーに就職。その後現職であるぴえろにて商品化窓口の仕事をすることになったのだという。
「商品化窓口の仕事には、企画の提案などをする営業的側面と、メーカーの企画を判断し、商品化されるまでを行う開発担当者的側面があります。そこで、お笑いサークル時代に養った人前で"物怖じしない精神"とグッズメーカーに勤めていたときに培った"グッズを作る側の視点"、そのふたつを生かした働き方ができているように感じています」
さまざまな環境で過ごしてきた三輪さんだからこそ持てる視点から、多くのユーザーに満足される商品が生み出されているようだ。
「例えば、メーカーがグッズ制作に入る前には、ぴえろ社内や製作委員会の方々から実施の了承を得なければなりません。そこで、多くの人に企画の意図を明快に伝えなければならない。しかし業務の大前提には、グッズ化するまでの流れについての理解が必要になります。そんなふたつの業務に過去の経験を生かせるなんて、もう天職だな、って思っています(笑)」
■作品・キャラクター理解が仕事のキーに
驚いたことに、商品化窓口の担当者は、1タイトルにつきたったひとりなのだという。そこでは三輪さんの働きが非常に重要になってくるはずだ。
「企画内容を確定させる際には、打ち合わせを行ない企業様の商材にあった最適な企画にしていきます。キャラクターグッズにはさまざまなテーマを持ったものがありますが、アニメ作品や原作から明らかに異なるキャラクター設定が生まれてしまってはいけないんです。そこで商品化窓口では、"キャラクターたちがやりそうなこと"や"キャラクターが活きる最適な企画"を作ることが最も重要だといってもいいかもしれません」
作品やキャラクターを最大限に生かした企画を立案するにはより理解を深めることが重要だということがわかる。
「基本的にすべての作品を担当することになるため、作品の理解がとても重要になってきます。なので、アニメ作品はもちろん、原作がある場合にはそちらもしっかりと目を通しています。僕は元から漫画もアニメも好きなので、プライベートが仕事に活かせていると感じることも多いです」
「また、『おそ松さん』の商品化では"過去実施した企画とかぶらないこと"や"他のアニメ作品が実施していない企画を作ること"も非常に重要になってくるんです。既存の企画では面白みにかけてしまいますし、キャラクターたちの新しい姿をお客さんに届けられません。そんなときには改めてキャラクター理解の重要性を感じます。
『この企画ならキャラクターの魅力を伝えられるな』と、作品にのめり込んでいかないと多くの人が満足する商品作りができません。ひとつの作品について完全に理解するにはすごく時間がかかることだなと日頃から実感しています。
そんな時に注目を浴びている他作品の面白いコラボ企画を見ると、嫉妬することもちらほら(笑)。うちの6つ子が1番なんだぞ! ていう感情になったりします」
■アニメキャラクターの"マネージャー的存在"
商品化窓口の仕事は、他社持ち込みの企画を運用するだけでなく、自社から企業に対してコラボ提案をするというケースも結構あるのだという。
「こちらから提案をさせていただく場合には特に、キャラクターの魅力を知ってもらうために全力ですね。『うちの6つ子たちはこんなに魅力的なんです! 』『御社の商品とこんな風にコラボすれば、絶対にお客さんが満足してくれるはずです!』といったような感じで(笑)。それはもう芸能人でいうマネージャーみたいなものだと感じています」
「キャラクターの商品化というのは、キャラクターたちが普段よりも可愛かったりかっこよかったり、着飾っていたりするんですよ。しかしそれはちゃんとそのキャラクターのままだと思っています。僕たちはキャラクターに"お仕事をしてもらっている"という感覚といいますか。商品化されている姿はあくまで"一瞬"なわけで、その後はきっと普段のみんなに戻っているんだと思っています」
「例えば『おそ松さん』の6つ子は、本編ではめちゃくちゃをしているじゃないですか。ニートですし(笑)。なので"一瞬のかっこいい姿を切り取ったものがグッズ"なんだよ。というところを理解しているつもりです」
■3話を振り返って
三輪さんが商品化窓口として携わるアニメシリーズ『おそ松さん』。本作は赤塚不二夫が生んだ『おそ松くん』を原作とした作品。原作でおなじみのキャラクターたちが大人になった世界を描く、ギャグアニメとなっている。現在アニメの1期、2期、劇場版に続く、第3期が放送中だ。
▼6つ子がいないときのおそ松に注目
「これまでおそ松が6つ子や親しいキャラクター以外と、ひとりで会話をしているシーンは、意外となかったんですよね。これまではみられなかったおそ松の新たな一面が見られるので注目です! 」
▼マジック天使 マジヘライッチー
「とにかく作画のクオリティはもちろん、オープニングまで作られているのでぜひじっくり見てほしいです。あの歌いいなぁって。マジヘライッチーのグッズ出ないかな、なんて思ってます(笑)」
「マジヘライッチー」のオープニングテーマ曲は、挿入歌とは思えないクオリティとなっているので、じっくりと見てほしい。
■誰かのために全力を尽くせる仕事
商品化担当として働くなかでやりがいを感じるポイントについて聞いてみた。
「実際にグッズを購入してくださった方々の喜んでいる姿やコメントを見られることですかね。なのでTwitterで反応をチェックしたりしています。ファンのみなさんが心からほしいと思えるようなアイテムを作ることが大切だと思うので、より視聴者目線にたっていられるように心がけています。僕自身も長年の6つ子ファンなので、そこは少し自信を持っていますが(笑)!
キャラクターについてや作品自体の世界観など、グッズを作っていくなかで深まっていくこともたくさんあるなと感じています。だからこそ作品が長く愛され、放送が続いていくことは非常にありがたいことだと思っています。そして僕自身も、多くのファンの方々が喜んでくれるようなグッズを作れるよう、業務に努められればと思っています」
当たり前のように手にとっているアニメ作品のコラボグッズの裏には、作品とキャラクターを愛してやまない商品化担当の思いが込められていることを知った。「誰かが喜んでもらえるように全力を尽くすこと」、これはどんな仕事にも言える、とても大切なことではないだろうか。
次回はアニメ作品の版権担当者の仕事についてお話をうかがっていく。
(C)赤塚不二夫/おそ松さん製作委員会