国内だけでなく、世界各国で多くの人に愛されている「日本のアニメ」。そんなアニメを作り出す人々は一体どのような環境で働き、作品を生み出しているのか。
今回は大ヒットアニメ『おそ松さん』の制作チームにインタビュー取材を実施。第1回となる今回は、制作プロデューサーを務める富永禎彦さんにお話を聞いてきた。
■アニメ制作プロデューサーとは
ひとつのアニメが放送されるまでには、作品監督やシリーズ構成者、キャラクターデザイン担当者など、多くの人が携わっているという。そんななかで制作プロデューサーとは、一体どのような仕事をしているのだろうか。
「『どんな作品を作るのか』という企画の決定からスタッフの選定、スケジュールや予算の調整まで幅広い仕事をしています。ひとつの作品を作る上での"全工程に携わっている立場"と考えていただけるとわかりやすいかもしれません。
プロジェクトへ参加するタイミングは、原作がある場合と完全オリジナルの場合でも異なります。原作がある場合には、アニメ化が決定した時に仕事として降りてくることなんかもありますね」
「例えば現在放送されている『おそ松さん』の場合には、"『おそ松くん』の世界観でアニメ作品を作ること"が確定した段階から、制作チームに参加しました」
作品によって参加時期は異なるものの、基本的には放送確定から放送終了までの一連の指揮を執っていくことが仕事だという。そんな制作プロデューサーの仕事は、業界内でプロスポーツ界の"ゼネラルマネージャー"と比喩されることがあるらしい。
「そんな大層なものではないんですけどね(笑)。プロスポーツ界のゼネラルマネージャーは、チーム全体を構成していく仕事かと思います。『チームをどう動かしていくのか』を考えた上で、メンバーの選定やチームの方針を決定していきますよね。それをアニメ制作の場合には、制作プロデューサーになります」
プロスポーツにおいては、ゼネラルマネージャーの手腕がチームの勝敗に関わるとまでいわれることもあるようだ。
「それは制作プロデューサーの仕事でもいえることです。チームのメンバーに誰を選ぶかによって、スケジュールや作品の方向性、予算の割り振りさえも大きく変わっていきます。私たち制作プロデューサーは、実際にイラストを書くことや声をアフレコするようなことはありません。そのため、"チームをどう強くしていくのか"や"どうしたら作品がより良いものになるか"といったこと第一に、メンバーの選定やスケジュール調整を行っています」
現在放送されている『おそ松さん 第3期』では、「新キャラクターの導入」やこれまでにはなかった展開など、視聴者をマンネリさせない仕掛けを多数用意しているそう。この第3期の大きなポイントとなる「新キャラクター」についても、藤田監督・松原秀(脚本)に提案したのは富永プロデューサーだ。普段楽しんで視聴している作品の裏には、制作スタッフたちの機作が、無数に隠れているのかもしれない。
■人選でアニメ作品の全てが決まる
作品全体の司令塔といったような立場にいる制作プロデューサー富永さんが、仕事のなかで最も重要な業務は「人選び」だそうだ。
「アニメ現場に対する多くの人が持つイメージには、"短い作業期間のなかで仕事をこなすことが大変そう"というものがあります。それもそうですが、実際には"人選び"が最も重要で、苦労する点だと感じています。アニメ作品の出来を決定するのは『誰をどこに配置するか』、『またどういった人に仕事を頼むのか』だとまでいわれているんですよ」
続けてこう語る。
「アニメ業界では、作品制作の主軸となるスタッフのことを"メインスタッフ"と呼んでいるのですが、そのメンバーの選定が大切。監督と脚本、そしてキャラクターデザインは、そのなかでも特に重要ですね」
「この3名が誰になるかで、作品の方向性が大きく動いていきます。キャラクターデザインにいたっては、その方の個性が作品のベース部分を作っていくなと感じます」
アニメ作品とは人が作ったものであり、携わるスタッフの努力のもとに生まれていることを実感する。
■放送開始から6年目に突入 TVアニメ『おそ松さん』
富永さんが制作プロデューサーとして携わる『おそ松さん』は、深夜放送のギャグアニメとして多くの人に愛される大ヒット作だ。
赤塚不二夫が生んだ『おそ松くん』を原作としたアニメ作品。原作でおなじみのキャラクターたちが大人になった世界を描く、ギャグアニメとなっている。現在アニメの1期、2期、劇場版に続く、第3期が放送中だ。
1話、2話を振り返って
「『おそ松さん』第3期では、これまで作品では見られなかった、6つ子の「新しい側面」が見られるような仕掛けを施しています。1話、2話でもそれはいくつか見られます」
▼1話で登場する新6つ子たちが……
「時事ネタを取り入れたシーンが度々登場するので、そういったシーンはポイントですね。最後の最後に新6つ子が"◯◯"をやっていたことが発覚するシーンや、某作品を連想させるシーンなど。時期によってはやばいな、といったネタや最新のテーマまで入れ込んでいるので注目していただきたいです」
▼2話で登場する新キャラクターはなんと"AI"
「2話で登場する新キャラクターは、6つ子たちが「何だこりゃ」と思うようなキャラクターを考えて生まれました。昭和の人たち(おそ松さんたち)が、時代の最先端(AI)と交わっていく姿を楽しんで見てほしいと思います」
■コロナ禍で変化する仕事のウラガワ
新キャラクターの登場や時期的にぴったりなネタを生かしたストーリー展開など、さらに磨きがかかった今作だが、「制作のウラガワ」についてもお話を聞いてみた。
「劇場版も含めると、『おそ松さん』は今回の放送で第4回になるのですが、これまでにはない新たな出来事が多くあったと感じていますね。今回の大きな変更としては、"キャラクターデザインの変更"、"コロナ禍での制作進行"、"新キャラクターの登場"などがあげられます」
「キャラクターデザイナーの変更によって、これまでとは異なるスケジュール進行やコミュニケーションが生まれたり、コロナ禍の影響でアフレコの収録環境に大きな変更があったりしました。さらに新キャラクターを登場させるまでにも、あえて世界観に"なじまない"キャラクター設定を考えるなどの手順を踏んでいます。とにかくこれまでにない、新しい挑戦が多い仕事裏でした」
「アフレコに関しては俳優の方々が特に苦労した点になるかと思うのですが、キャラクターデザインの変更によって増えたコミュニケーションやリレーションを築く時間は、非常に良い時間だったなと感じています」
新しいメンバーが入ったなかで、「その人が最大限に力を発揮できる環境作り」を考えた軌道修正があったのだという。その先に生まれたコミュニケーションの時間などが、非常に良い経験だったと語ってくれた。
■面白くするために制作スケジュールはタイトに
また『おそ松さん』の制作では、他の作品とは異なるスケジュール進行が見られるという。
「『おそ松さん』はギャグアニメです。そのためには"今面白く見られる作品"にする必要があり、時事ネタなども多く取り入れています。これは監督がスタート時からいっていた、"笑いは時代によって変わっていく"という言葉を意識しているところですね」
本記事の掲載時点で配信されている第1話・第2話でも、某デリバリーサービスをオマージュしたストーリーや、さまざまな作品を連想させるようなシーンなどが放送されている。確かに、リアルタイムで流行していることが取り入れられていると親近感が湧いてくる。
「他作品よりも"時代感"や"タイムリー感"を意識した作品作りを行っているんです。なのでスケジュールに関しては、放送から逆算して、ギリギリ間に合うタイミングから制作を始めました」
本作をより面白いものにするためには製作期間を短くする必要がある。それでも業務が厳しくなることも厭わないというから驚きだ。
■結局は人間性が大切
いろいろとお話を聞いてきたが、富永さんの思う制作プロデューサーが最も大切にすべきこととは何なのだろうか。
「『コミュニケーション能力』や人との対話力ではないかなと感じています」
「制作プロデューサーの仕事というのは、自分ひとりで完結するものではありません。最終責任者として、スタッフさまざまな思いを集約させ、完成まで持っていく"潤滑油"のような役割となります。なので、一人ひとりの考えを正確に理解して次の工程につなげること、トラブル解決に向けた状況判断力を持つことが大切だと思っています」
大きな決定権を持っているからこそ、スタッフに納得してもらえるための交渉力や会話力が大切だという。
「あとは、結局は人間性だと感じますね。人が良い人の周りにはたくさん人が集まってきて、それに応じて仕事が集まっていくなと感じます。うまくいっている人は"いろいろな人に好かれているな"と」
作品のために時間を惜しまない熱意や制作プロデューサーとしての情熱、チームメンバーの思いに触れることが出来た。みなさんも今一度、第1期から『おそ松さん』を視聴してみてはいかがだろうか。
●information
TVアニメ「おそ松さん」2020年10月12日(月) 深夜1時30分~放送開始
おそ松さん第3話は10月31日より各プラットフォームにて配信開始!
・配信先一覧
・公式サイト
(C)赤塚不二夫/おそ松さん製作委員会