今では当たり前のようにあるものもすべて、過去の誰かの発明やアイデアがルーツ。広く展開するチェーン店だって、スタートアップの機運に満ちた発祥の店・1号店があります。身近すぎて気にも留めなかった「おいしいもの」のはじめて物語に、食いしん坊目線で迫ります。

今回は、たい焼きを発明した老舗の「浪花家総本店(なにわやそうほんてん)」。こちらのたい焼きは、薄めでパリッとした皮の中に、あんこがぎっしり詰まっているのが特徴です。

  • 麻布十番商店街にある浪花家総本店

  • たい焼きの元祖の存在感

たい焼きを発明、あの歌のモデルにも?

個人的にも思い入れがあるので、ちょっと思い出話をさせてもらうと、筆者は独立する前に所属していた雑誌編集部で取材に訪れたことがあります。その時は、神戸将守さん(現社長・3代目)のお父様である神戸守一さんが社長でした。

取材当日は、派手なアロハシャツとたい焼きネックレスでキメて登場。インパクトのある写真が撮れた上、インタビューに深く感銘を受けました。

「人生、たい焼きひと筋。理想の味と形を追求して、毎日たい焼きを焼くだけ。こんな楽しいことでお客さんに喜ばれてお金をもらえるなんて、こんないい仕事他にあるかい!」と、仕事の本質を突くことをおっしゃったのを、今でも覚えています。

この3代目社長は、昭和の大ヒット曲『およげ!たいやきくん』のモデルにもなりました。レコードジャケットに描かれた白いコック帽のおじさんが、この方です。

4代目が浪花家総本店の暖簾を守る

3代目亡き後、現在は4代目の将守さんが浪花家総本店の技と暖簾を継承。薄皮のたい焼きは、味も製法も見事に受け継がれています。

たい焼きは持ち帰り用によく売れており、自宅や職場へのお土産にしても喜ばれます。また、店内にはカフェスペースがあり、お茶と一緒に頂くのもお勧めです。たい焼きだけでなく、セットのお茶までおいしいのが浪花家総本店の矜持。

  • 店内のカフェスペースで楽しむことも可能

築地の老舗から仕入れる上質のお茶を、丁寧に淹れて、鉄瓶で提供してくれます。2煎目からはセルフでどうぞ。甘いあんこを食べた後、お茶でさっぱりさせれば、何個でも食べられそうな気になってきます。

  • たい焼き一匹と、煎茶かほうじ茶がセットされた「たい焼きセット」(税抜600円)

  • 薄めのパリッとした皮に、あんこがぎっしり

改めて、浪花家総本店の歴史の話

麻布十番という東京屈指の人気タウンにありながら、「浪花家」の屋号が示す通り、ルーツは浪花(大阪)。正確には、その隣の兵庫県・神戸。

明治42年、現社長のご祖父様兄弟が上京し、日本橋と九段で商売をスタート。昭和23年に麻布十番店をはじめ、都内に100店以上のフランチャイズ店舗を展開するほどの成長を遂げました。

「鯛の形をしているのは、『めでたい』に通じる縁起物だからです。気取ったものというより、手っ取り早いエネルギー源となる労働者のための食べ物ですね。だから、たい焼きだけでなく、ボリュームたっぷりの焼きそばも隠れた人気商品です」と、4代目の将守さんが教えてくれました。

  • 3代目となる現社長の神戸将守さん

たい焼きのウンチクをついでにどうぞ

世の中には、熱狂的なたい焼きファンがおり、「1匹ずつ焼くものを『天然もの』、複数焼ける型で一度に焼くものを『養殖もの』と呼び分けているそうです。

浪花家総本店は天然ものに当たり、オペレーションに時間と手間がかかりますが、将守さんは味を決めるのはそれだけではないと言います。

  • 1匹ずつ焼く「天然もの」が浪花家のスタイル

  • 歴史ある店内で、店員さんがきびきびと働く

「たい焼きの皮は小麦粉と水だけ。月島のもんじゃ焼きの生地のようなものといえるかもしれません。皮がシンプルな分、あんこは、厳選した北海道産小豆を使い、毎日8時間かけて仕込みます」とのこと。

  • 厳選された北海道小豆のあんこがぎっしり詰められる

浪花家総本店の宝物ともいえる、このおいしいあんこを生かし、かき氷を通年で提供するのも伝統です。

さすがに最近はエアコンを使っているそうですが、先代は「夏は冷房を使わず室内を暑くして、かき氷をおいしく食べてもらうの!」と冗談を言っていました。

あんこが決め手のたい焼きとかき氷、「迷ったらどちらも」がツウの食べ方です!

浪花家総本店
東京都港区麻布十番1-8-14
営業時間:11~19時
休み:火曜、第3火曜と翌水曜は連休