親にとって、子供のむし歯は心配ごとの一つ。「むし歯菌をうつさないようにキスしない」「祖父や祖母、家族や友だちには口を近づけさせない」ようにしている方、いませんか?
実際に話を聞くと、子供がむし歯だらけになってしまうことを心配して、食事をさましたり、顔を近づけるのを避けたり、マスクをしたりして子供に関わっている方もいるようです。
前回、「3歳までにむし歯菌に感染していなくても、将来的にむし歯菌に感染する可能性はある」というお話をしました。今回は、子供にむし歯菌をうつさないために、育児に関わる大人が実践したいオーラルケアについて紹介します。
簡単! 大人のためのオーラルケア5つ
ミュータンス菌(代表的なむし歯菌)は、口腔細菌フローラの中で、歯の表面にくっついて砂糖を分解することで、最初にネバネバした物質(グルカン)を作ります。これが、むし歯の原因になります。
子供とコミュニケーションのある大人が気をつけることは、口の中のミュータンス菌を増やさないことです。日々の生活でできるちょっとしたコツをご紹介します(※1)。
1.お茶によるグルコシルトランスフェラーゼ(GFT)の阻害
緑茶やウーロン茶に含まれるカテキン系ポリフェノールは、ミュータンス菌のグルカンをつくる酵素「グルコシルトランスフェラーゼ(GFT)」の活性化を防ぎます。さらに抗菌作用でむし歯菌の働きを抑えます(※2)。
2.乳製品による口腔細菌フローラの改善
腸内フローラを整える善玉菌「プロバイオティクス」は、口腔細菌フローラも整えます。プロバイオティクスの代表格が乳酸菌。牛乳、チーズ、ヨーグルトなどの乳製品に含まれる乳酸菌(Lactobacillus属)が増えると、口腔細菌フローラの中でミュータンス菌が相対的に減少することがわかっています(※3)。しかし、むし歯が既にある方は要注意。乳酸菌は、ミュータンス菌のようにむし歯の初期の原因にはなれませんが、むし歯が既にあると、むし歯を悪化させる力があるからです。
3.フッ素で歯を強化し、砂糖の分解を阻害
フッ素は「エナメル質(歯の一番外側の部分)」に取り込まれ、むし歯菌の出す酸から歯を守ります。また、ミュータンス菌の糖の分解を防ぐため、活動できなくなります。フッ化物を局所に応用するとむし歯が30~70%減少します(※4)。
歯科医院でフッ素を歯に塗るほか、家庭でフッ素入りの歯磨き粉やフッ化物のうがい薬を使う方法があります。また、ほとんどの歯磨き粉には950ppmのフッ素が入っています。子供は歯磨き粉を3割程度飲み込んでしまうので、6~12カ月の子供には米粒大、それ以降の小児にはエンドウ豆大を目安にしてくださいね(※4)。
4.キシリトールガムでだ液を増やし、ミュータンス菌感染を予防
キシリトールなどに含まれる糖アルコールは、ミュータンス菌が分解できません。酸の産生が抑えられてエネルギーが不十分になるため、むし歯菌の働きを抑えます(※5)。また、キシリトールガムを噛むとだ液が増えます。だ液には抗菌作用、洗浄作用、中和作用があるため、むし歯予防にも有用です。
妊娠中からキシリトールガムをかむことで、子供のミュータンス菌の感染率を下げることができるという研究結果も報告されていて、静岡県立大学短期大学部 歯科衛生学科の仲井雪絵教授は、マイナス1歳からのう蝕予防を提唱されています(※3)。
5.ブラッシングやフロッシングによる口腔細菌フローラの改善
ブラッシングやフロッシングによるプラークコントロールが口腔細菌フローラを改善します。プラーク(口腔細菌フローラ)は時間がたつと成熟していくため、プラークを除去することで、だ液中のミュータンス菌の数を減少させることができます。
プラークコントロールで一番大切なのは、ブラッシングやフロッシングです。これらのやり方は動画などでも学ぶことができますが、自己流のセルフケアは個人差が大きいので、歯科医院でケアの仕方を継続的に教えてもらってもいいかもしれませんね。
子供のおやつに要注意
砂糖を含むジュースや、口の中に残りやすいチョコレートやキャラメルなどのおやつは、むし歯菌のエサになり、むし歯を引き起こします。おやつの時間が決まっていないのは、むし歯菌に何度もエサを与えているようなものです。
ただ、おやつの時間を決めていても、ときには機嫌の悪い子供を静かにさせるためにおやつを食べさせることがあるかもしれません。おやつの回数が減らせない子供には、前述のキシリトール商品などを与えるとむし歯菌予防に有効です。
子供は、1歳6カ月と3歳のときに歯科健康診査があります。むし歯のリスクに応じて、歯科医院に連れて行き、むし歯の早期発見だけでなく、食生活、フッ素塗布、ブラッシングについてアドバイスをもらうとよいでしょう。大人は、今回紹介したむし歯予防法をぜひ試してみてくださいね。
注釈
※1 『口腔微生物学・免疫学 第4版』(医歯薬出版 / 【編集】川端重忠、小松澤均、大原直也、寺尾豊、浜田茂幸)
※2 「Inhibition of Streptococcus mutans polysaccharide synthesis by molecules targeting glycosyltransferase activity」 (Zhi Ren, Lulu Chen, Jiyao Li, et al J Oral Microbiol. 2016; 8: 10.3402)
※3 「Probiotics reduce mutans streptococci counts in humans: a systematic review and meta-analysis.」 (Laleman I, Detailleur V, Slot DE, et al, Clin Oral Investig. 2014; 18: 1539-52)
※4「Early childhood caries update: A review of causes, diagnoses, and treatments」(Hakan Colak, Coruh T. Dulgergil et al, J Nat Sci Biol Med. 2013; 4: 29-38)
※5「Xylitol in preventing dental caries: A systematic review and meta-analyses.」 (Janakiram C, Deepan Kumar CV, Joseph J, J Nat Sci Biol Med. 2017; 8: 16-21)
※6「Xylitol Carryover Effects on Salivary Mutans Streptococci after 13 Months of Chewing Xylitol Gum」(C. Shinga-Ishihara, Y. Nakai et al, Caries Res 2012; 46: 519-522)
※画像と本文は関係ありません
著者: 古舘健(フルダテ・ケン)
健「口」長生き習慣の研究家。口腔外科医(歯科医師)。
1985年青森県十和田市出身。北海道大学卒業後、日本一短命の青森県に戻り、弘前大学医学部附属病院、脳卒中センター、腎研究所など地域医療に従事。バルセロナ・メルボルン・香港など国際学会でも研究成果を発表。口と身体を健康に保つ方法を体系化、啓蒙に尽力している。「マイナビニュース」の悩みを解決する「最強ドクター」コラムニスト。つがる総合病院歯科口腔外科医長。医学博士。趣味は読書(Amazon100万位中のトップ100レビュアー)と筋トレ(とくに大腿四頭筋)。KEN's blogはこちら。