親知らずを抜こうかどうか迷っている人、いませんか? 親知らずを抜くのは、なんとなく大がかりに感じるので、仕事に影響が出たらと思って先延ばしにしてしまう人も多いはずです。
実は、親知らずを抜きたい患者さんが来たときに、私たち歯科医師がついチェックしてしまう数字があります。それは「年齢」です。今回は、親知らずを抜くべき年齢について解説していきましょう。
残していい親知らず、抜いた方がいい親知らず
残していい親知らずは、きちんとはえていて磨くことができ、かみ合っています。逆に、口の中に一部しか出てこれないならば、若いうちに抜くことを私はお勧めしています。
医学の世界では、出てこない(もしくは出てこれない)歯を「埋伏歯(まいふくし)」と言います。なぜ親知らずの埋伏歯を抜いたほうがいいかというと、むし歯になったり、感染して腫れたりするからです。まれですが、下あごをぶつけたときに埋伏した親知らずの近くで骨折する危険性もあります。
私の患者で、居酒屋で殴られて親知らずの部分で下あごが折れてしまった方がいました。診断名は「下顎骨(かがくこつ)骨折」で、全身麻酔の手術になりました。下顎骨骨折のうち、力が直接加わって折れやすいのは、親知らずの近く(下顎角部)が最も多く24.5%を占めます(※1)。この部分に多い理由は、下あごをぶつけたときに、埋伏した親知らずがくさびとなり、力が集中しやすいからです。薄い部分や力が集中する部分の骨が折れやすいようです。
ただし、次のうち2つ以上あてはまる場合は、急いで埋伏した親知らずを抜歯する必要はありません。
・歯を抜くと神経を傷つける危険性がかなり高い。
・骨の中に完全に埋伏していて、レントゲン写真で歯の周りに感染がない。
・今までに違和感や腫れなどの症状が全く出たことがない。
根が神経と接しているならば、無理に抜歯すると、神経麻痺が出るリスクがあります。埋伏した親知らずを抜歯したときに出る下唇の一時的な感覚麻痺は0.6~1.2%、永久に残る麻痺は0.2%、舌の症状は0.1%と言われています(※2)。親知らずの根が神経を包んでいる場合、根は抜かずに頭の部分だけ取るという歯冠分割術(コロネクトミー)という手術もあります。
親知らずの周りがレントゲン写真で黒くなっている場合や、症状が出たことがある場合は、むし歯や感染があるということです。繰り返し感染すると、周りの組織が硬くなって抜きにくくなってしまいます。親知らずの周りが腫れるのは、感染による症状です(歯冠周囲炎)。親知らずのそばにある内側翼突筋(ないそくよくとつきん)や咬筋(こうきん)に炎症が及ぶと、口が開かなくなる危険性もあります。
抜くなら「25歳まで」がイイ理由
親知らずの状態には個人差があるので一概には言えませんが、20歳頃までに親知らずが並ぶスペースがあるかどうかは判断できます。ですので、埋伏した親知らずは、25歳までに抜歯することを私はお勧めしています。
20代後半以降になると、次の3つのデメリットが出てきます。
1.あごの骨が硬くなって抜きにくくなる
あごの骨は20代後半から徐々に硬くなります。徐々に骨が緻密になり、さらに炎症があると、埋伏歯と骨との境界がわかりにくくなります。骨が硬くなると、抜歯のときに骨を削る量が増え、合併症が増えたり抜くのが大変になったりします。一方、20代前半までの骨は柔らかく、たわむことが多いです。
2.抜いた後の傷の治りが遅くなる
抜くのが大変なだけではありません。年齢を重ねると、若い人に比べて治りが遅くなります。18歳までは1~2日、50歳からは4~5日かかるというデータもあります(※3)。
3.複数の病気を抱え危険が増える
年齢を重ねると、病気が増えることがわかっています。心臓や脳の病気、糖尿病、高血圧などが重なってくると、全身管理が大切になります。体力や飲んでいる薬、病気の状態によっては抜歯ができないこともあります。
こんな風に書くと、25歳より上の年齢の方は焦ってしまいますよね。前述のとおり、25歳までは手術のリスクが少ないことが多いのですが、身体への負担が大きすぎなければ、何歳でも手術は可能です。不安が強い方のためや病気の状態に応じて、リラックスする鎮静麻酔や、全身麻酔で手術を行っている病院もありますよ。
親知らずの状態は、歯磨きのたびにチェックすることが大切です。親知らずをきちんとブラッシングできていれば、むし歯や感染の危険性は低いでしょう。しかし、部分的に歯肉に覆われていて、ブラッシングできない親知らずは感染するかもしれません。
特に、忙しいビジネスパーソンは注意しましょう。睡眠不足や栄養不足、疲れて抵抗力が落ちると、細菌に負けて腫れたり痛んだりするからです。症状のある方は自己判断で放置せず、お近くの歯科医院でご相談くださいね。
※画像は本文と関係ありません
注釈
※1 Olson RA et al: Fractures of the mandible: a review of 580 cases. J Oral Maxillofac Surg. 40(1):23-28, 1982 より。
※2 公益社団法人 日本口腔外科学会ホームページより。
※3 『現代口腔外科学 原著第5版』(James R.Hupp,Edward Ellis Ⅲ,Myron R.Tucker原著 / 里村一人、濱田良樹監訳 / わかば出版)より。
著者: 古舘健(フルダテ・ケン)
健「口」長生き習慣の研究家。口腔外科医(歯科医師)。
1985年青森県十和田市出身。北海道大学卒業後、日本一短命の青森県に戻り、弘前大学医学部附属病院、脳卒中センター、腎研究所など地域医療に従事。バルセロナ・メルボルン・香港など国際学会でも研究成果を発表。口と身体を健康に保つ方法を体系化、啓蒙に尽力している。「マイナビニュース」の悩みを解決する「最強ドクター」コラムニスト。つがる総合病院歯科口腔外科医長。医学博士。趣味は読書(Amazon100万位中のトップ100レビュアー)と筋トレ(とくに大腿四頭筋)。KEN's blogはこちら。