共同湯は地域の人々が朝夕、汗を流す生活の場であり、コミュニケーションの場でもあります。今回は、観光客でも入ることができる全国の共同湯をいくつかご紹介します。
共同湯に入浴するには、清掃協力金として100~300円程度や、寸志(気持ちを入れる)、無料などがあります。あくまでも地元の人のお風呂に入れさせていただいているもらい湯の精神で、マナーを守って入浴しましょう。例えば、熱い湯を薄めすぎない(出る時に蛇口の水を止める)、電気のスイッチを消す、ばか騒ぎをしないといったことです。
カラフルなステンドグラスが華やか
まずご紹介するのは、石川県・山代温泉の「古総湯」です。加賀温泉郷(石川県加賀市/小松市)の粟津・山代・山中・片山津温泉、和倉温泉などには「惣湯」と言われる共同湯があります。中世の日本は"惣村"という自治的・地縁的な共同体が村落を運営しており、この惣村が共同管理していたのが惣湯です。多くの温泉街は、共同湯を中心に温泉街が広がっていますので、今でも共同湯は温泉街のシンボルとして地元の人が集い、多くの人が訪れています。
「古総湯」は明治時代の総湯を復元したもので、青や赤、黄、緑など九谷五彩のカラフルなステンドグラスが鮮やかな光を湯船に映し込み、壁には拭き漆、九谷焼のタイルが使われた贅沢な共同湯です。洗い場は設けられていませんが、その分、お湯とこの雰囲気をたっぷりと楽しむことができるでしょう。
湯仲間が守る13の外湯
長野県の野沢温泉にも地元住民が管理する13の外湯があります。江戸時代から「湯仲間」という制度によって守られてきたもので、温泉は地域の人たちが管理していて、観光客もこの共同湯の恩恵にあずかることができます。
野沢温泉のシンボルである「大湯」は、江戸時代の湯屋を再現した唐破風の屋根が見事な三層の木造建築。泉質は単純硫黄泉で緑がかった透明のとても美しい温泉です。湯は熱めなので何度もかけ湯をしてから入るのがいいでしょう。13の湯の中には熱すぎて入れないところもありますが、それは源泉かけ流し、自然のままの温泉で加水など一切していないから。大湯は浴槽があつ湯とぬる湯の2つに仕切られていて、観光客も多く訪れます。
上の写真は湯仲間による清掃風景です。たまたま取材に行った日が清掃日に当たっていたことから撮影させていただきました。現代にあっても、このような惣村の制度が守られているのはとてもすごいことですね。ちなみに、共同湯を管理しているのは「地縁団体 野沢組」というそうで、村長が認可する地縁団体として法人化されているそうです。
蔵王温泉のフレッシュな源泉が楽しめる
続いては東北から。すのこ状の浴槽の足元から湧くフレッシュな源泉に入れるのが「川原湯共同浴場」です。山形県の蔵王温泉は、強酸性で硫黄分を含んだ皮膚病などに効果が高い温泉。宿の温泉は白濁していますが、ここの共同湯は湯船の底まで見える透明度があります。湧き出してすぐの源泉がもつ湯力を体感できます。
田舎の良さを感じるのどかな町の共同湯
東北からもうひとつ。福島県・金山町の「湯倉温泉共同浴場」は只見川沿いにある共同湯です。その立地から豪雨による増水によって被害を受けましたが、2014年12月に建て替えによって、新しくなりました。
以前は脱衣所は男女別だったものの、湯船はひとつというのどかな混浴の共同湯でした。リニューアルによって男女別々の湯船が設けられたことで、ひなびた湯治場の共同浴場のイメージではなくなりましたが、よく温まる質のよいお湯と、地元のおじちゃんおばちゃんの素朴さは健在。日本の田舎の良さがここにはあります。
全国には地元の人が通う素朴で湯の質のいい共同湯がたくさんあります。共同湯にその土地の良さが身近に感じられて、旅がもっと楽しくなりますよ!
筆者プロフィール: 野添ちかこ
全国の温泉地を旅する温泉と宿のライター。「宿のミカタプロジェクト」チーフアドバイザー。BIGLOBE温泉、「すこやか健保」(健康保険組合連合会)で「温泉de健康に」連載中。著書に『千葉の湯めぐり』(幹書房)がある。日本温泉協会理事、3つ星温泉ソムリエ、温泉入浴指導員、温泉利用指導者(厚生労働省認定)、温泉カリスマ(大阪観光大学)、温泉指南役(岡山・湯原温泉)。公式HP「野添ちかこのVia-spa」。