東京2020オリンピック競技大会では、史上最多となる33競技339種目の開催が予定されている。本連載では、イラストを交えながら各競技の見どころとルールをご紹介。今回は「自転車競技」にフォーカスする。

広がりを見せる種目のバリエーション

自転車は18世紀末にドイツで発明されたのちフランスで改良され、ほどなく貴族階級の間でスポーツとして楽しまれるようになった。その後ヨーロッパからアメリカにわたり、アメリカでも普及。オリンピック第1回大会のアテネ1896大会から正式競技として採用され、以来途切れることなく実施されている数少ない競技の一つだ。

自転車レースはプロの世界を中心として発展してきたため、オリンピックの舞台では比較的地味な存在であったが、バルセロナ1992大会からプロ選手の参加が可能になり、オリンピックでの注目度がアップした。

アトランタ1996大会からは「マウンテンバイク」が、シドニー2000大会からはトラック種目に日本で発祥した「ケイリン」が、北京2008大会からは「BMXレース」がそれぞれ種目に加わり、東京2020大会ではトラック種目で「マディソン」が、BMX種目で「フリースタイル」の追加が決定。

このように、自転車レースのバリエーションは近年ますます広がりを見せている。女子種目はロサンゼルス1984大会で初めて個人ロードレースが採用された後、種目を増やし、ロンドン2012大会以降男女種目同数実施が実現している。

競技は、使用する機材の違いで、すり鉢状の傾斜がついたトラック(オリンピックでは1周250m)で実施される「トラックレース」、道路で実施される「ロードレース」、起伏に富んだコースで実施される「マウンテンバイク」と「BMX」の4つに大別される。このうち最も種目数が多いのはトラックレースで、男女それぞれ6種目ずつ。

「スプリント」は、個人でゴールへの着順を競う種目。力を最大限に発揮するためには空気抵抗をいかに和らげるかが重要で、レース中は最も風圧を受ける先頭を避けるためにさまざまな駆け引きが行われる。そして最終周付近からは、それまでとは打って変わって爆発的な先頭争いが繰り広げられ、一気に勝負がつく。「いつ仕掛けるか」の判断もまた勝負のカギとなる、手に汗握る戦いだ。

「チームパシュート」は、4人1組の2チームが対面でスタートし、4kmで競われ、相手を追い抜く、またはタイムで勝ることで勝者となる。見どころは、空気抵抗から仲間を守り合うチームワークだ。

「ケイリン」は7人までの選手によってトラック8周で競われる種目。レース途中までは先頭誘導車が選手たちへの風よけをしながら段階的に速度を上げ、選手たちはその後ろで激しいポジション争いを繰り広げる。先頭誘導車が速度を時速50kmまで上げ、残り3周で離脱すると、レースは一気にヒートアップする。そこからの激しい流れが見どころだ。

男子が1チーム3人、女子が1チーム2人で行う「チームスプリント」は、1周ごとにそれまで先頭を走り風よけとなっていた選手がコースから外れていき、最後の選手がフィニッシュラインに達したタイムが記録となる。チームの力が問われる種目だ。

「オムニアム」は、トラックレースの複合種目。1日に4つのレースを行い、各レースの合計得点で順位を競う。4レースの内訳は、多数の選手が一斉にスタートして順位を争うスクラッチ、周回ごとに先頭の選手にポイントが入るテンポレース(オリンピックでは東京2020大会で初の実施)、2周回ごとに最下位の選手が脱落するエリミネーション、中間ポイントを獲得しながら30km前後を走破し、ポイントを競うポイントレース。

新種目「マディソン」は、2人1組のペアで、レース中に選手が交代しながら男子は50km、女子は30kmを走って競う。選手交代は、待機している選手と行うが、その際、選手の体に触れなくてはいけない。高速走行中の選手が交代時に、待機中だった選手を加速するために手を引いて放つ「ハンドスリング」が大きな見どころだ。ハンドスリングではなく、腰を押してもいい。

「個人ロードレース」は一般道路を使い、男子は250km超、女子は130km超のコースを一斉スタートしてゴールへの着順を競う。同じ国の選手のチームワークが光る種目でもある。「個人タイムトライアル」は一定の時間間隔を空けて1名ずつスタートし、男子は50km前後、女子は30km前後の距離の走行時間を競う。

1周4キロメートル~6キロメートルの未舗装の山道を走る「マウンテンバイク種目」(クロスカントリー・オリンピック)は、コースにさまざまな表情があり、体力と技術でいかにコースを征服するかが見どころ。

BMXはバイシクル・モトクロスのことで、オートバイのモトクロスの影響を受けてアメリカで誕生した競技。「BMXレース」は8メートルの高所にあるゲートから最大8人が一斉に坂を駆け下り、大きく起伏のあるコースで高々とジャンプを繰り返し、いくつかの傾斜のついたコーナー(バーム)を抜けてゴールを目指し、着順で順位が決まる。高いジャンプからの落下や接触などの危険がつきまとうため、フルフェイスヘルメットやゴーグルなど4種目中で最も多くの装備が必要だが、それだけにレースは迫力満点だ。

新種目「BMX・フリースタイル・パーク」は曲面やスロープを複雑に組み合わせた施設で行われる。1分間にトリック(ジャンプ、空中動作、回転などの技・テクニック)をいくつも行い、点数を競う採点競技。技の難易度や独創性、流れ、コントロール、着地などが採点の対象となる。これまで速さを競うことに主眼が置かれていた自転車競技に、新たな風が吹く。

イラスト:けん

出典:公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会