東京2020オリンピック競技大会では、史上最多となる33競技339種目の開催が予定されている。本連載では、イラストを交えながら各競技の見どころとルールをご紹介。今回は「セーリング」にフォーカスする。

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クルーがひとつになったとき、船に命が宿る

セーリングのオリンピックにおける歴史は古く、第2回パリ1900大会から実施され、アトランタ1996大会までは「ヨット」の呼称、シドニー2000大会から現在の「セーリング」が競技名となっている。

ヨットはオランダで発祥し、輸送や連絡などの実用目的で活用されていたが、1660年にイギリス国王とヨーク公が初めてヨットレースを行ったのがスポーツとしてのヨットの起源といわれている。その後ヨット競技はおもに上流階級のレジャーとしてヨーロッパ諸国に広まり、大陸を渡ってアメリカなどにも伝わった。20世紀半ばになるとアメリカでウィンドサーフィンが盛んになり、ロサンゼルス1984大会からヨット競技の一つとしてウィンドサーフィンが種目に加えられている。

自然環境との「共闘」が勝利を呼ぶ レースのダイナミックさは必見

海面で実施され、自然環境によって大きく試合展開を左右される競技の一つ。レースは、海面に設置されたマークと呼ばれるブイを決められた回数、決められた順序で回りながら、フィニッシュラインまでの着順を競うもの。種目は使用する艇(ヨット)の種類によって分けられ、どの種目もフィニッシュの順位の高いチームほど低い点数がつく。このレースを10~12回行い、その合計点数の低い10艇が「メダルレース」と呼ばれる最終レースを戦うことができる。このメダルレースで最終順位とメダリストが決まる。

大きな三角形を描くコースで、艇は3方向からの風を体験した後、フィニッシュラインに到達する。必ずしもコースに沿って艇をまっすぐに走らせるばかりではない。向かい風や横風の場合は、ジグザグに走ることによって風をつかむことになる。また、コースを回るには大胆な方向転換も必要で、いかに無駄なく曲がれるかも腕の見せどころ。こうしたヨットの操作を、クルーは自らの体の位置や向きを変えることで艇全体のバランスをコントロールしながら行う。

全員で一斉にスタートする試合方式のダイナミックさも魅力だ。一斉に海面を滑り出し、最初のマークへの一番乗りをめぐって激しくしのぎを削る山場は見逃せない。最初のマークを越えるとある程度の順位がつき、縦長に伸びた船団がフィニッシュラインに向かって抜きつ抜かれつの戦いを展開する。

環境の変化、他の船との位置関係、自分たちの艇のコンディションなど、刻々と変わるさまざまな条件を計算して臨機応変に戦術を組み立てられる頭脳と、実行に移す技術が必要だ。

セーリングは他の艇との戦いだけでなく、波の高さや潮の流れ、風の強さなど大自然との戦いでもある。その自然を味方につけるようなセッティングやテクニックで勝利をつかむのである。強靭な肉体と精神力を持った選手のダイナミックな戦いに注目しよう。

イラスト:けん

出典:公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会