東京2020オリンピック競技大会では、史上最多となる33競技339種目の開催が予定されている。本連載では、イラストを交えながら各競技の見どころとルールをご紹介。今回は「陸上競技」にフォーカスする。
人類最速を決める戦い
競技場内1周400mの走路「トラック」を使って実施される競技。オリンピックでは短距離走、中・長距離走、障害走、ハードル、リレーが行われ、距離、男女別に合計25種目が実施される。共通するのは「走って競う」ということ。生身の人間が「いかに速く走れるか」に挑戦するというシンプルな競技だけに体力が全てと思われがちだが、スタートをはじめ多くの技術も身につけないと世界の上位に食い込むことは難しい。0.1 秒、0.01 秒速く走るために、鍛え抜かれた選手たちが肉体の限界に挑む激烈な戦いが繰り広げられる。
短距離走では、100m・200m・400m走を実施。この男女6種目とハードル男女4種目だけは、スターティングブロックを使用したクラウチングスタートで行われる。「人類最速」を決める100mは直線路のみでレースが完結。アテネ1896大会で12秒0だった記録は、メキシコシティー1968大会で初めてジム・ハインズ(アメリカ)が10秒を切り、その後は主にアメリカ選手とジャマイカ選手によって記録が更新されてきた。
現在の男子100mの世界記録はウサイン・ボルト(ジャマイカ)が2009年の世界陸上で記録した9秒58。平均すると10mを1秒以内で走り抜けていることになる。100mではスタートの反応も重要だ。200mではスプリント力に加え、コーナリングの上手さが必要になる。400mはさらにスタミナも要求され、厳しいレースとなる。
中・長距離走では、800m・1,500m・3,000m障害・5,000m・10,000mが行われる。この距離では、スタンディングスタートでレースが開始される。
800mはスタートから100mだけセパレートレーンを走り、その後オープンレーンとなる。1,500m以上は弧状のスタートラインに立ち、始めからオープンレーンで行われる。800m、1,500mは最後までスタミナを維持する持久力に加えて、ラストスパートでは短距離選手に匹敵するスピードも求められる。
一方、5,000m以上は持久力の有無が勝つための大きな要素となり、エネルギー効率を考えた無駄のない走りが必要になる。また、トップ集団に位置するか、中盤か、あるいは後方から追い上げるかなどの戦略や、他の選手との駆け引きも重要だ。
中・長距離走に跳躍の要素が加わった種目が3,000m障害だ。トラック1周に5カ所設置された障害物を越え、記録と順位を競う。障害物の高さは男子91.4cm、女子76.2cmだが、5カ所のうち1カ所には、障害物の直後に水濠がある。距離が長いだけでなく、障害物を越えながら走らなくてはいけない。水濠で転倒して全身びしょ濡れになる選手も多く、たいへん過酷な種目だ。
ハードル走は、女子100m・男子110m・男女400mの4種目が行われ、コース上に置かれた10台のハードルを跳び越えながら走り、タイムを競う。このうち女子100mと男子110mは直線路で実施される。全種目、ハードルは故意でなければ倒しても失格にはならない。
4人の選手がバトンをつなぎながら走るリレーは、単に自己ベストが速い選手を4人集めれば勝てるという種目ではない。それを証明したのがリオデジャネイロ2016大会男子4×100mリレーの日本チームだ。100m9秒台の選手がひしめく中で、100m9秒台が1人もいない日本が強豪ジャマイカに次いで2位に入り銀メダルを獲得した。
日本が行ったバトンパスは、効率が良い一方で難易度が高い「アンダーハンドパス」。失敗しないよう徹底的に研究、何度も練習し成功させた。東京2020大会の新種目、男女混合4×400mリレーは、男女各2名の選手を何走に配置するかが重要な戦略となる。大逆転が起こりうる注目すべき新種目だ。