東京2020オリンピック競技大会では、史上最多となる33競技339種目の開催が予定されている。本連載では、イラストを交えながら各競技の見どころとルールをご紹介。今回は「ボート」にフォーカスする。

静かに、そして力強いリズムで真っすぐに進むボート。スタートからフィニッシュまで目が離せない

水上の直線コースでオールを使ってボートを漕ぎ、順位を競う競技、「ボート」。カヌーと逆で、進行方向に背中を向けて漕ぐ。ボートに足を固定し、レール上に設置されたシートが前後に動き、主に脚力を使って進む。オリンピックでは2,000メートルで行われる。

シングルスカルを除き、2人以上のチームで行うため一人ひとりの能力も必要だが、何よりチームワークが求められる。全員の息がぴったりと合ったときの美しさは、まさにボート観戦の醍醐味と言える。

オリンピックでは歴史が古く、第2回パリ1900大会から実施されており、女子はモントリオール1976大会から行われている。

種目は大きく分けて「スカル」と「スウィープ」の2つの種類がある。スカルはオールを右手と左手に1本ずつ、合わせて2本持って漕ぐ競技。一方スウィープは、オールを1人1本ずつ持って漕ぐ競技である。

漕ぎ手の人数で分けると、スカルにはシングル(1人)、ダブル(2人)、クオドルプル(4人)の3種類があり、スウィープにはペア(2人)、フォア(4人)エイト(8人)の3種類がある。

オリンピックでは、スウィープの「エイト」のみ漕手8人のほかに舵手(コックス)が乗る。また、種目により体重制限の設けられた「軽量級」がある。軽量級は、男子の漕手各人が72.5kg以下で平均体重が70.0kg以下、女子は漕手各人が59.0kg以下で平均体重が57.0kg以下となっている。

東京2020大会からは男女の種目数が同じ7種目ずつになることが決定している。軽量級があるのはダブルスカルだけになり、男子にあった軽量級舵手なしフォアがなくなる。また、女子に舵手なしフォアが新たに加わる。

ボート競技は、スタートからフィニッシュまで、艇がいかに速くたどり着くかを競うシンプルな競技。しかし、実は奥が深く、魅力、見どころは多い。

まずは鏡のように静かで穏やかな水面を滑るように進むスピード感。人間の力だけでこんなに速く進むのかと驚かされる速さだ。また、自然の中で競技する心地よさや開放感は見ている人にも伝わってくる。

そして、2人以上の種目では一糸乱れぬチームワークが魅力だ。全員が完全にシンクロした統一感は圧巻。エイトでは、唯一前を向いて状況を判断し、レース戦略やスパートのタイミングを指示する舵手の駆け引きも見ものである。

順に観戦ポイントを見ていこう。まずはスタート。固定されたスタートポンツーン(桟橋)に船尾をつけ、合図とともに一斉に飛び出す。序盤では各艇とも高いピッチで力を爆発させ、一気にトップスピードまでもっていく。ここではボートが加速する迫力や選手の熱気が伝わってくる。

中盤では各艇の特徴や戦略が見えてくる。序盤のスピードを維持すると体力が続かなくなるので、体力を温存しながら最大のスピードを出すための無駄のないリズミカルな動きとなる。エイトでは、コックスがほかの艇の位置や動きを見てペース配分を指示する重要な場面。勝負所でスパートを仕掛けることもある。各艇の駆け引きが見ものだ。

終盤になると、一気にスピードが上がる。気力、体力を振り絞ってのデッドヒートが繰り広げられるラストスパートだ。そして固唾を飲んで皆が見守るゴールでは、100分の1秒の差が勝敗を分ける。白熱したレースは最後まで一瞬も目が離せない。

エイトなどチーム種目が多い中、1人で漕ぐシングルスカルにも注目したい。バランスを保ち、まっすぐに進むのが難しいと言われる種目なので選手のテクニックをよく見よう。

イラスト:けん

出典:公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会