東京2020オリンピック競技大会では、史上最多となる33競技339種目の開催が予定されている。本連載では、イラストを交えながら各競技の見どころとルールをご紹介。今回は「フェンシング」にフォーカスする。
駆け引きとテクニックを駆使した一瞬の攻防
2人の選手がセンターラインを挟んで向かい合い、片手に持った剣で互いの有効面を攻撃し合う競技「フェンシング」。ピストと呼ばれる細長い伝導性パネルの上で行われる。競技はフルーレ、エペ、サーブルの3種目。使用する剣の形状や、得点となる有効面、優先権の有無などが種目ごとに異なっている。
試合は、個人戦と団体戦が実施される。個人戦は、3分×3セットの9分間・15本勝負(15点先取)。団体戦は1チーム4名のうち3名による総当たり戦で、3分間・5本勝負(5点先取)を9試合行い、45点先取または9試合までの得点の多いほうが勝利する。
オリンピックでは、第1回アテネ1896大会で男子種目が正式採用されて以来、欠かすことなく現在に至っている。女子種目はパリ1924大会から実施。東京2020大会では、フルーレ、エペ、サーブルの3種目において、男女とも個人・団体の計12種目が実施される。
フェンシングの魅力は、瞬時の技と動作の応酬にある。頭脳的な駆け引きや、間合いを詰めた接近戦などスピーディーな試合運び、そして卓越したテクニックが生み出す精密で華麗な技が見どころだ。照明が落とされ、静寂に包まれた試合場で繰り広げられる激しい攻防は、瞬きも許されないほどの一瞬で勝負が決まる緊迫感に満ちている。
フルーレ、エペ、サーブルの最も大きな相違点は、有効面と呼ばれる、得点となる体のターゲット範囲だ。フルーレは背中を含む胴体、エペは全身、サーブルは頭や両腕を含む上半身が有効面となっている。
判定には電気審判機が用いられ、相手の有効面を剣先か剣身で触れることで通電してブザーが鳴り、有効な突きや斬りを決めた選手側のマスク上部やピスト外周の色ランプが点灯する。観客は、次々と繰り出される妙技に魅せられつつ、赤や緑のランプの発光によってポイントを明確に確認することができるのだ。
3種目それぞれの特徴や注目すべき点を意識すると、競技への理解が深まり、観戦の楽しみも増すだろう。フルーレの剣は細身で柔軟、重量500グラム以下と軽いのが特徴だ。よくしなる剣先の特性を活かして背中に振り込みを決めるなど、速く正確な剣さばきに注目だ。フルーレとサーブルは、先に腕を伸ばして剣先を相手に向けた選手が優先権を獲得する。相手は剣を払ったり叩いたりして防御することで優先権が移行し、すかさず反撃に転じる。
対してエペには優先権がなく、先に突いたほうの得点となる単純明快さが魅力だ。突きが両者同時である場合は、双方に得点が入る。足の裏までを含む全身が的であるため、つま先などへの意表を突く攻めといった、変化に富む試合が展開される。
フルーレとエペは「突き」だけの競技だが、加えて「斬り」の動作も有効なのがサーブルだ。スピードのある豪快かつ見事な剣さばきに、勝負のダイナミズムが感じられる。
イラスト:けん