東京2020はさまざまなスポーツをお子さんとともに楽しめるまたとないチャンスです。そこで、子どもの運動能力向上に詳しいスポーツトレーナー・遠山健太が各競技に精通した専門家とともにナビゲート! 全33競技の特徴や魅力を知って、今から東京2020を楽しみましょう。今回は「長距離走(5000m、10000m)/陸上競技」! 競技解説は、陸上中長距離種目の指導者として実績のある山路和紀さんです。

  • 長距離走(5000m、10000m)/陸上競技の魅力とは?

長距離走(5000m、10000m)の特徴

この競技の特徴としては、陸上競技場1周400mのトラックを、5000mならば12周と半分、10000mならば25周をどれだけ速く走れるかを競う、とてもわかりやすい競技です。誰もが小学生の時に一度は経験した「持久走」を、世界で一番速く走れる人は誰かを決める祭典が五輪の陸上競技・長距離5000m、10000mという種目とも言えるのではないでしょうか。 近年は「長距離走」と言われつつも「高速化」が進んでおり、下記の一覧表を見ていただくとわかる通り、世界や日本のトップ選手達が100mや1㎞に換算すると、どれくらい速いペースで走り続けているかが想像でき、驚かれる人も多いのではないでしょうか。 「長距離走」と名付けられた種目ではありますが、その「速さ」と「持久力」の両方を併せ持つために、何万キロも走り鍛え抜いてきた選手達がそのパフォーマンスを発揮し、競い合うトラック競技最長種目となります。

  • 男子5000m種目(世界記録と日本記録 上位3名)※ペース換算

  • 女子5000m種目(世界記録と日本記録 上位3名)※ペース換算

  • 男子10000m種目(世界記録と日本記録 上位3名)※ペース換算

  • 女子10000m種目(世界記録と日本記録 上位3名)※ペース換算

長距離走(5000m、10000m)を観戦するときのポイント

私が思う陸上競技・長距離走種目の見どころは、「ペース変化」と「ラストスパート」の2つです。五輪では、「記録」を出すことよりも、「勝負」の部分がやはり強調されます。そのため、何mをどんなペースで走ろうと最後のゴールテープを一番に切った選手のみが勝者だと言わんばかりの駆け引きある激しいレース展開となります。 だからこそ、一番速いパーソナルタイムを持っている選手が必ず勝てるということはなく、それぞれの選手が「戦術」を持って、自分が勝つために得意なレース展開に持っていけるよう、レース中は何度も「ペース変化」が起きます。 ハイペースで何周も先頭で引っ張っていたと思ったら、急激にスローペースとなり牽制し合ったり、時に逃げ切りを狙って予想外のペースアップを行う選手がいたりなど、どんなレース展開になるのかは、そのレースごと、スタートしてみなければわかりません。そのため、そのレースごとにストーリーができ、ドラマが生まれます。 そして、そのドラマのクライマックスは、いつも「ラストスパート」という結末で終わりを迎えます。世界トップクラスの選手は、その前に4600mもしくは9600mという距離を走ってきているにも関わらず、男子はラスト1周(400m)を50秒台前半、女子は60秒前半というスピードでゴールライン直前までデットヒートを繰り広げます。 レース中の激しい駆け引きと、最後の最後まで目が離せない決着のラストスパートにご注目ください。

東京2020でのチームジャパンの展望

陸上競技長距離種目では、上の表の世界記録保持者を見ていただいてもわかる通り、アフリカ出身選手の力が強く、まだこの種目においては世界と日本の力の差は大きいと言えるでしょう。ですが、その中でも自国開催の五輪でメダル獲得、8位入賞を果たすため、「公益財団法人日本陸上競技連盟」は選手選考において今までで最も高いレベルの「参加標準記録」を設定しています。

<東京2020参加標準記録>
●5000m
男子 13分13秒50
女子 15分10秒00
●10000m
男子 27分28秒00
女子 31分25秒00

男子5000mでは、まだ「参加標準記録」突破者はいませんが、前回の第103回日本陸上競技選手権大会で優勝した松枝博輝選手(富士通)が、「参加標準記録」に迫る13分24秒18(2020年7月18日ホクレンディスタンス)、同大会で準優勝の田中秀幸選手(トヨタ)も13分22秒72(2019年7月20日Night of athletics)を記録しており、近年も自己ベストタイムを伸ばしています。若手選手で成長が著しいのが遠藤日向選手(住友電工)。2020年7月18日に行われたホクレンディスタンス大会にて13分18秒99の自己ベストをマークし、この記録は日本歴代7位の好記録であり好調がうかがえます。

女子5000mでは、すでに田中希実選手(豊田自動織機TC)が15分00秒01、廣仲璃梨佳選手(日本郵政グループ)が15分05秒40、新谷仁美選手(積水化学)が15分07秒02と、3名の選手が「参加標準記録」を突破しています。なかでも田中希実選手は、2019年世界陸上競技選手権大会(ドーハ)にて決勝レースに進み、結果は14位であったものの日本歴代2位の記録を出しており、本番での強さは証明済みです。2020年シーズンは、7月8日に開催されたホクレンディスタンス大会にて3000mを8分41秒35で走り、18年ぶりに日本記録(8分44秒40)を更新、その勢いは止まらず8月23日に開催されたセイコーゴールデングランプリ陸上2020東京では1500mを4分05秒27で走り、日本記録(4分07秒86)を14年ぶりに更新。活躍が大いに期待できます。

男子10000mではまだ「参加標準記録」突破者はいないものの、そのタイムに迫る日本歴代1位の記録を持つ村山紘太選手、歴代2位の鎧坂哲哉選手はもちろん、その他若手選手の東京2020に向けた急成長と好記録を期待したいものです。

女子10000mでは、5000mでも「参加標準記録」を突破している新谷仁美選手に期待が集まっています。過去、世界陸上競技選手権大会(韓国、モスクワ)、オリンピック(ロンドン)の出場経験もあり、大舞台での経験は十分。現役を一度引退し、復帰して臨んだ2019年世界陸上競技選手大会(ドーハ)でも入賞目前の11位という結果を残しています。経験と実力を兼ね備えた新谷選手に大いに期待したいです。

これまでの五輪の歴史を見てきても「自国開催」というキーワードは、選手に大きな力を与え、急成長を可能にしメダル獲得という成果を残してきています。チームジャパンの成長と活躍を心から期待し、応援しましょう。

遠山健太からの運動子育てアドバイス

個人差はありますが、全身の持久的能力は小学校高学年から中学生の間で向上すると言われています。昔から「走り込み」と呼ばれるようなトレーニングが今でも根強く現場では使われているようです。目的によっては「走り込み」も手段ではありますが、子どもにとってはつまらない運動かもしれませんね。とはいえ、長い時間運動することで持久的な能力はつきますので、ゲーム性を持たせた「走り込み」、サイクリングや水泳なども効果的だと思います。バリエーションを増やせば。子どもも飽きがこなくて楽しく運動ができると思いますので、ぜひいろんな工夫を加えてみてください。

競技解説:山路和紀(やまじ かずのり)

コーチ兼フィジカルトレーナー。主な担当分野は、陸上中長距離種目選手指導、球技系スポーツ選手へのスプリント&フィジカル指導、子ども達への運動能力向上&かけっこ指導。順天堂大学陸上競技部にて駅伝主務を経験後、実業団チームである「JR東日本ランニングチーム」にて、マネージャーとして就職し、その後コーチ兼スカウト担当を歴任。現在は、「出会った人、全ての足を速くする」、「出会った人の夢を全力でサポートする」を指導理念とし、ジュニアアスリート、市民ランナー、プロ選手までの指導やイベント講師を担当。
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