東京2020はさまざまなスポーツをお子さんとともに楽しめるまたとないチャンスです。そこで、子どもの運動能力向上に詳しいスポーツトレーナー・遠山健太が各競技に精通した専門家とともにナビゲート! 全33競技の特徴や魅力を知って、今から東京2020を楽しみましょう。今回は「カヌー(スラローム)」! 競技解説は日本オリンピック委員会強化スタッフとして五輪への帯同経験もある松岡 優さんです。
カヌー(スラローム)の特徴
19世紀のイギリスで近代競技化されたカヌーには、大きく分けてスラロームとスプリントの2種目があり、今回は急流の川のコースを、3.5mの小舟をパドルで漕いでゲートを通過するスラロームについてご紹介します。
夏季五輪には、1972年のミュンヘン大会で初めて採用され、本来は自然の激流で行われる競技でしたが、2000年のシドニー五輪からは人工コースで行われるようになりました。東京2020では葛西臨海公園に新設の国内初の人工コース「カヌー・スラロームセンター」が会場となります。
競技は2種目で、選手が艇の進行方向に向かって体育座りのように長座し、両端にブレード(水かき)の付いたダブルブレードパドルを左右交互に漕ぎながら艇を前に進めるカヤックと、選手が艇の進行方向に向かって正座の姿勢をとり、片方にブレード(水かき)の付いたシングルブレードパドルで左右交互に漕ぎながら前に進むカナディアンがあります。東京2020では女子のカナディアンが初採用され、男女それぞれシングルで計4種目が行われます。
競技は1艇ずつ行われ、コース(約250~400m)上に2本のポールでできたゲート(約18~25)が吊るされ、ゲートには上流から下流に通過するダウンゲート(緑白ポール)と下流から上流に通過するアップゲート(赤白ポール)があり、指定された方向から通過しなければならず、不通過となると50秒のペナルティ、ゲートに接触した場合は2秒のペナルティが課され、フィニッシュタイムにペナルティを加えて順位が決まります。
カヌー(スラローム)を観戦するときのポイント
カヌースラロームは近年、大会運営の関係で自然の激流ではなく、選手村に限りなく近い人工コースで行われるようになり、シドニー、北京、ロンドンは湾曲したパワーが必要なロングコース。リオ、東京は直線的でテクニックが必要な短いコースになっています。もちろん、静水(流れの無い川)と違って落差があり、強化プラスチックの障害物でコースを湾曲させ、ストッパー(渦巻)、滝を作って常に変化のある人工的コース設定にしています。 このようにわざと難しい激流とポールセッティングになっているので、艇をコントロールするバランス能力と上半身の筋力、ポールをかわす判断と柔軟性、敏捷性、特にアップゲートでは超スローモーションにポールのギリギリを通過していくので、上半身の前後左右の動きをじっくりと見てください。
また、本来はロール(転覆)すると、時間のロスと一時的に目の中に水が入って視界が悪くなって順位が大幅に下がりますが、五輪では入賞よりもメダルを狙ってくるため、上位の選手でもロールの可能性が高く、その瞬時の修復(一回転して元にもどる)も見ものです。
そして、選手がコース脇で目を閉じてコースライン取りを目に焼き付け、イメージトレーニングを何度も行っている真剣な姿には、国を代表して戦っている雄姿がうかがえます。
東京2020でのチームジャパンの展望
リオ五輪までの日本代表は、五輪前年度の世界選手権で日本の出場枠を獲得した選手が1回の大会でそのまま代表に選ばれていましたが、東京2020では全種目に1枠の開催国枠が確保されたので、ワールドカップ第2、第3、世界選手権、10月のNHK杯での総合ポイントでの最上位者で安定した実力を発揮できる選手を日本代表と決定しました。
カヌー日本代表は長らく五輪でメダルに近づけませんでしたが、羽根田卓也選手がリオ五輪スラローム男子カナディアンシングルで、ついに日本人初となる銅メダルを獲得し、一躍注目を浴びる種目となりました。東京2020の会場「カヌー・スラロームセンター」はリオ五輪のコースと同じく、直線的でテクニックを要するコースに設計してあるので、羽根田選手はメダル獲得の最有力候補と期待されています。
カヌースラローム女子カナディアシングルには、スロベニアを生活のベースにしている、佐藤彩乃選手が出場します。今回の代表の中では最年少ですが、代表レースをかけたシーズンは格段の成長をして大逆転で代表になりました。パリ五輪の最大の武器です。
カヌースラローム男子カヤックでは、ヨーロッパ勢と同等の身体能力を持つ足立和也選手が初出場します。2016ワールドカップでは日本人初の3位入賞を果たし、2017ワールドカップでも3位に入賞して安定感が増し、2019NHK杯ではオリンピック・コースで堂々4位に入賞する力を世界にアピールするまでに成長しています。
カヌースラローム女子カヤックは、国内の日本選手権では無敵の6回の優勝を誇る矢澤亜季選手がリオ五輪に次ぎ2回目の出場です。リオ五輪では、初出場のプレッシャーと狭い範囲での左右のポール設定に苦しめられてのタイムロスをした反省のもと、重心がぶれない体幹強化に努力して、体脂肪率が一桁までに鍛えた身体能力で、密かにメダル獲得を目論んでいます。
遠山健太からの運動子育てアドバイス
カヌー(スラローム)は、人工コースでのレースが一般的となって身近になり、安全性が高くなったことを含め、その体験もハードルが低くなった気がします。ただ、子ども一人でやってみるのはちょっと恐怖感もあると思いますので、まずは水上での遊びから始めてみてはいかがでしょうか。以前、セーリングの記事でご紹介したSUPのほか、ラフティングというレジャースポーツもおすすめです。複数でゴムボートに乗り、川下りを楽しむのですが、家族で一緒に体験が可能ですし、ボートを操作することはないですが、限りなくスラロームに近い体験はできると思います。