東京2020はさまざまなスポーツをお子さんとともに楽しめるまたとないチャンスです。そこで、子どもの運動能力向上に詳しいスポーツトレーナー・遠山健太が各競技に精通した専門家とともにナビゲート! 全33競技の特徴や魅力を知って、今から東京2020を楽しみましょう。今回は「セーリング」! 競技解説は、日本セーリング連盟・広報担当であり、フリーランス記者としてセーリング競技を40年以上取材し続けている豊崎謙さんです。

  • セーリングの魅力とは?

セーリングの特徴

全長2mほどの小型一人乗りから10数人が乗り込む大型クルーザーまで、ヨットにはさまざまな種類があります。ここでは、五輪に採用されているクラス(1~2人乗り、10艇種)について話を進めます。

まず、五輪種目の名称から。以前、五輪では「ヨット競技」と称していましたが、2000年以降「セーリング競技」と呼ぶようになりました。ウインドサーフィンが種目に入ったため「ヨット競技」とするよりも「セーリング競技」と呼ぶほうが実態に則するために改称されました。

セーリングの一番の特徴は、帆に受ける風だけで艇体を推進させることです。風向によって帆の角度を調節し、最大限の速度を得るようにします。どこから風が吹いてくるのか、どこに強い風があるのかを波の色や立ち方、波の表面の様子、雲の動き、他艇の帆走する姿などを観察して風を探します。また、競技の舞台は海や大きな湖となります。波やウネリ、海ならば潮流も計算せねばなりません。あるいは河口近くで帆走するなら、河の流れも考慮します。

2人乗り艇の場合は、スキッパーとクルーが乗り込みますが、スキッパーは舵を握って船の進路を決め、クルーが帆の調整をすると大雑把に理解してください。一人乗り艇はこれを一人で行うことになります。よって一人乗り艇は操船がシンプルにできるように、帆が一枚しかついていません。

セーリングのコースレイアウトはいくつかの種類に分かれており、当日の風のコンディションによって選択されます。いずれもスタートしていくつかのマークブイを回り、フィニッシュでの順位を競います。1位1点、2位2点と順位と同じ点数が与えられ、競技によって11~13レースを競ったあとに、総合点がもっと低いチームが優勝となります(低得点方式)。

セーリングを観戦するときのポイント

セーリングの一番の観戦ポイントはスタートです。五輪の場合、艇種によって異なりますが、およそ20艇以上の艇がいっせいにスタートします。スタートのポイントは、①速度、②時間、③位置の3つです。スピードをつけて、スタート時刻にピタリと合わせて、行きたい方向に行ける位置を狙ってスタートします。その駆け引きを見ることがおもしろさの一つです。いいスタートを切った艇は、そのレースのほぼ70パーセントを制するともいわれます。

また、自艇だけが気持ちよく帆走していてもレースには勝てません。他艇とのコースの駆け引きもレースの重要な要素の一つです。他艇がどんな情報を得てコースを引いているのかをチェックし、自艇の得た情報を重ね合わせて、次のマークへ向かうベストなコースを引きます。ときにはコース上で相対し、風の取り合いをすることもあります。このコース取りをチェックすることも観戦の醍醐味の一つです。

次はマーク回航です。それぞれが考えているコース取りの結果がマークを回るときの回航順位として明らかになります。ここでは次のマークに向かって大きくコースを変えることになり、舵を切るスキッパー、セールを調整するクルーは大忙しです。特にクルーの仕事は多岐にわたるので、このマーク回航に注目してください。

ここで2人乗り艇のスキッパーやとクルーの身体能力に注目しましょう。スキッパーは艇の進路を決める舵取り、コース選択、全体の戦略考案などを担当するために、安定した基礎体力に裏付けられた冷静な判断力、集中力が必要になります。一方、クルーはスキッパーの要求に応え目まぐるしく変わるコース取りに合わせてレース艇を的確に操船するために体を目いっぱいに使います。船の傾きを抑え、前後に細かく移動し、レース艇の動きを安定させ、スピードアップに貢献するのです。その陸上におけるクルーのトレーニングの激しさは、海上の優雅な帆走シーンからは想像もできません。頭脳のスキッパー、体力のクルーという構図なのですが、2人のコミュニケーションが艇を操るうえの大きなポイントになることも付け加えておきます。

東京2020でのチームジャパンの展望

東京2020の競技艇種とその代表内定選手は下記のようになっています。

470級男子/岡田奎樹(けいじゅ)選手・外薗潤平選手
470級女子/吉田 愛選手・吉岡美帆選手
49er級男子/高橋 稜選手・小泉維吹(いぶき)選手
49erFX級女子/山崎アンナ選手・髙野芹奈(せな)選手
RS:X級男子/富澤 慎選手
RS:X級女子/須長由季選手
レーザー級男子/南里研二選手
レーザーラジアル級女子/土居愛実選手
NACRA17級 男女混合/飯束潮吹(いいつかしぶき)選手・畑山絵里選手
フィン級/未定

470級女子の吉田・吉岡組は2018年の世界選手権の優勝チームで、東京2020でも金メダル候補に名前が挙がっています。同じく470級男子の岡田・外薗平組もメダル候補の一角を占めています。レーザーラジアル級女子の土居愛実選手は世界選手権3位の実力者。RS:X級男子の富澤選手も入賞を狙える位置につけています。

過去、日本のセーリングはアトランタ五輪で銀メダル(470級女子)、アテネ五輪で銅メダル(470級男子)を獲得しています。東京2020では3つ目のメダルを目指して、さらなるトレーニングを重ねています。この1年の彼らの活動に注目してください。ちなみに、東京2020のセーリング競技は神奈川県藤沢市・江の島の沖合が競技会場となります。

遠山健太からの運動子育てアドバイス

東京2020で金メダル候補にも挙がる吉田愛選手は、15年前にトレーニング指導のアシスタントとしてサポートさせていただきました。それまでコンタクトスポーツを中心に指導してきた私にとって、自然相手に勝負する選手のトレーニング指導はかなり新鮮だった記憶があります。

子どもたちが「セーリング」という競技を体験できる環境はあまり多くないかもしれませんが、足場が不安定な船上で、予測できない風や波を相手にする競技と考えると、遊びであれば風の影響を受ける凧揚げやフリスビー、水上であれば子どもでもできるSUP(サップ)※1などがあります。自然の力を体験できる遊びでは、体力面だけではなく、子どもの思考能力も養われそうですね。

※1 SUPとは「Stand Up Paddleboard(スタンドアップパドルボード)」の略称。ボードの上に立ち、パドルを漕いで水面を進んでいくアクティビティ。

競技解説:豊崎謙

日本セーリング連盟・広報担当。1977年からセーリング競技を取材し続けているフリーランス記者でもある。「日本セーリング連盟」「日本セーリング連盟オリンピック強化委員会」