東京2020はさまざまなスポーツをお子さんとともに楽しめるまたとないチャンスです。そこで、子どもの運動能力向上に詳しいスポーツトレーナー・遠山健太が各競技に精通した専門家とともにナビゲート! 全33競技の特徴や魅力を知って、今から東京2020を楽しみましょう。今回は「走幅跳/陸上競技」! 競技解説は、走幅跳の競技経験者で元指導者、現在はスポーツ振興のために力を注ぐ安田竜さんです。

  • 走幅跳/陸上競技の魅力とは?

走幅跳の特徴

走幅跳は、陸上のフィールド競技の中の「跳躍」競技の一つ。その字のとおり、「跳」で競います。しかし、一言に「跳ぶ」といってもその流れの中には、約40mの助走で100mの選手にも負けないほどのスピードに乗り、片足一本でたった10㎝幅の決められた踏み切り線を1㎜もハミ出すことなく踏み切り、空中でその姿勢をコントロールしながら少しでも飛距離をロスしないように着地するという、一見しては捉えられない様々な「跳び」のテクニックが盛り込まれています。

2020年7月時点、日本男子の最高記録は8m40㎝ですが、この記録を例えるなら成人男性が大股で歩いて9~10歩、広めの駐車場の車3台分をラクラク跳び越える距離になります。さらに、世界記録となると、約9mの中型観光バスの全長に匹敵するほどの跳び幅です。 女子の日本記録は6m86㎝ですが、世界記録となると7m52㎝で、自転車の長さ4台分を飛び越えてしまうほどです。パッと想像しただけでも、我々のイメージの斜め上をいく距離を跳んでいる、そんな気になりませんか?

走幅跳を観戦するときのポイント

走幅跳は「誰よりも遠くへ跳んだ選手がチャンピオン」と、非常にシンプルかつ明確。選手たちはそのジャンプ1本1本に全身全霊を懸けます。

セルフトークといわれる一見独り言のようにも見える方法で自分を鼓舞しながらギラギラした目で砂場をにらんで走り出す選手や、スタンドにいる大勢の観客を巻き込んで大きな手拍子のリズムを作り、それに身を乗せるように手足を大きく振り出しながら実にダイナミックなフォームで助走路を駆け出す選手など、まさに十人十色のルーティーンが見られます。

また、テレビ中継ではスロー映像が見られることもあります。たった1㎝が勝敗を分ける熾烈な場面もあるため、着地場面に目がいきがちですが、踏切線のギリギリを攻める踏切テクニックにもきっと驚くことと思います。そのうえで、砂場の端まで届きそうなほどのビッグジャンプが出たときにはドキドキとともにハラハラを誘うほどです。

選手によっては踏切において、体重の10倍以上もの負荷が極めて一瞬のうちに、その脚へ衝撃として襲い掛かるといわれます。それに耐えるだけのトレーニングを幾度となく積み重ねてでき上がった選手たちの肉体美は、まさにスピードとバネで形成されたアートといえます。そのスタイルと、そこから発揮される実際の記録とを見比べるのもまた観戦の楽しみといえます。

東京2020でのチームジャパンの展望

男子の世界記録8m95㎝は、1991年にマイク・パウエル選手(アメリカ)が塗り替えて以来約30年、未だ破られずに残っていますが、それまでの世界記録であった8m90㎝もまた、1968年からの23年間にわたり破られなかった記録です。

そして日本でも、1992年に森長正樹氏(現日本大学教授)が当時樹立した日本最高の8m25㎝は、なんと27年もの間破られずにありました。しかし、東京2020を目前に控えた2019年夏、福井県で開催された大会において、ついに2人のビッグジャンプによってその記録は塗り替えられました。

前述の森長氏の指導を受け、その若さから、伸びしろはなお未知数といえる橋岡優輝選手(日大)が、いきなり1本目から8m32㎝の大ジャンプで日本記録を7㎝も更新。するとそのあとには、城山正太郎選手(ゼンリン)がそれまでの自己ベストをなんと39㎝も更新する8m40㎝の素晴らしいパフォーマンスを発揮。わずか数十分の間に、27年間も破られなかった記録が2度も更新される事態となったわけです。

この8m40㎝という記録は、過去五輪3大会の優勝記録をも上回るビッグジャンプです。しかも、この大会では東京五輪参加標準記録である8m22㎝をクリアするジャンプを3選手がマークしており、日本人ジャンパーの実力が十分推しはかれるものといえます。

現時点では、男女ともに代表選手は確定していない段階であり、まだまだ選考争いの中でビッグジャンパーあるいはさらにハイレベルな記録が誕生する可能性は十分にあります。 我々日本人にとって歴史的大会となるこの東京2020でこそ、感動を呼ぶビッグジャンプを見せてほしいという強い期待とともに、最後の最後まで選手たちへエールを送り続けたいですね。

遠山健太からの運動子育てアドバイス

立幅跳は測定項目として、走幅跳は運動として運動教室でよく取り入れています。立幅跳は全身のパワーを測るほか、体の使い方がうまくできているかの確認・観察のために実施しています。一方、走幅跳は跳躍するタイミングに加えて助走がかなり重要になってきます。子どもの走幅跳の記録を定期的につけることは、走力と跳躍力の両方の能力をみることができます。ぜひ、公園の砂場や芝生などで試してみてください。

競技解説:安田竜

小学生のころからクロスカントリースキー、野球、陸上競技(100m、400m、走高跳、走幅跳)などを経験。最終競技歴は走幅跳。2012年までは、秋田県のトレーニングアドバイザーとして県内の社会人からジュニアまでを対象にトレーニング指導を行いながら、個人としては県内外の企業チームや学校等へのトレーニング指導等のサポートを行う。現在は秋田県のスポーツ振興のために、民間団体やスポーツ行政、教育行政と連携しながらアスリートの発掘・育成・強化やセカンドキャリアの環境整備を目的に、競技ごとの現場環境の改善、各スポーツの普及・振興の土台整備等に努めている。