東京2020はさまざまなスポーツをお子さんとともに楽しめるまたとないチャンスです。そこで、子どもの運動能力向上に詳しいスポーツトレーナー・遠山健太が各競技に精通した専門家とともにナビゲート! 全33競技の特徴や魅力を知って、今から東京2020を楽しみましょう。今回は「カヌー(スプリント)」! 競技解説は日本カヌー連盟強化スタッフとして五輪への帯同経験もある、トレーナーの越智義之さんです。

  • カヌー(スプリント)の魅力とは?

カヌー(スプリント)の特徴

五輪で実施されるカヌーはスプリント、スラロームの2競技あります。どちらも水上の艇をパドルで漕いで前進する競技です。今回ご紹介するのはリオ五輪でメダルを獲得した急流を漕ぐカヌー(スラローム)ではなく、流れのない静水で一斉にスタートして着順を競うカヌー(スプリント)です。

2009年以前はフラットウォーターレーシングという名称で呼ばれていました。1936年のベルリン五輪から正式競技になっています。

カヌー(スプリント)の艇には、座って漕ぐカヤックと、甲板がなく片膝を立てて漕ぐカナディアンとがあります。カヤックは両側にブレードが付いたパドルを交互に漕いで進みますが、カナディアンは艇の片側だけを漕いで進みます。さらにカヤックは足元でラダーという舵を操作して進路をコントロールしますが、カナディアンはラダーがないため、漕ぎながら真っ直ぐ進まないといけません。レーンをはずれると失格になるため、まっすぐ進むこともレースを左右する重要な技術になります。カナディアンは、以前は男子のみ実施されていましたが、現在は女子も行われています。

種目は距離によって分かれます。五輪で実施されるのは200m、500m、1,000mですが、5,000mや10,000mといった長距離種目もあります。距離によってまったく異なる体力要素が必要になるので、選手はオールラウンドな体力が必要となります。 また、それぞれの種目で、1人乗り(シングル)と2人乗り(ペア)と4人乗り(フォア)の艇があります。

東京2020大会では下記の12種目が実施されます。
<カヤック>
●シングル
男子/女子200m(K1-200)
女子500m(K1-500)
男子1000m(K1-1000)
●ペア
女子500m(K2-500)
男子1000m(K2-1000)
●フォア
男子/女子500m(K4-500)

<カナディアン>
●シングル
女子200m(C1-200)
男子1000m(C1-1000)
●ペア
女子500m(C2-500)
男子1000m(C2-1000)

カヌー(スプリント)を観戦するときのポイント

注目してほしいのは、何といってもスタートです。静止状態から全力でパドルを漕いでダッシュする際の迫力が見所です。水しぶきをあげながら一気に加速する様子は、幻想的でもあり爽快感に包まれます。

2012年のロンドン五輪から実施されている200mは、男子カヤックで30秒あまりの勝負で、最速のスプリンターを決める短距離種目です。

500mと1,000mではペース配分や相手選手との駆け引きが必要になり、ゴール前まで目が離せません。ゴールラインを艇の先端が通過した時点でフィニッシュとなります。

また、ペアとフォアでは息を合わせたシンクロ率が勝利への鍵となります。完全にシンクロしたパドルさばきも見所です。人数が多くなると、艇のスピードも格段にアップするため迫力も桁違いです。ちなみに一番後ろの選手は水しぶきで前が見えていないそうです。 レースが始まるとあっという間に決着してしまいますが、選手の筋肉美にも注目してください。日ごろから水上と陸上でのトレーニングによって鍛え上げられた無駄のない肉体は芸術的でさえあります。なかでもカヌー選手の特徴は何といっても背中です。見た目はとにかく分厚いです。懸垂を50回連続で行っていた女子選手もいました。

東京2020でのチームジャパンの展望

カヌー(スプリント)は、リオ五輪には残念ながら出場できなかったのですが、東京2020では世界選手権の結果、男子K4-500mで出場枠を獲得しています。選考レースが延期となり、まだ出場枠が決まっていない種目も多くありますが(2020年7月16日現在)、男女K1とC1の4種目で開催国枠もあり、多くの日本人選手が五輪レースに挑みます。スプリントではまだ五輪でのメダル獲得がありません。海の森水上競技場が大会会場になっていますので、海風に吹かれながら日本人選手の熱い戦いを応援してください。

遠山健太からの運動子育てアドバイス

2004年、私が国立スポーツ科学センターで初めてトップアスリートの指導サポートに入ったのが女子カヤックフォアの代表チームでした。ベンチプレスの補助でしたが、自分の体重以上の重さをいとも簡単に挙げていたのには度肝を抜かれた記憶があります。フィジカルの強さは当然のことながら、水上で行う種目なので、競技を始めるにはまず泳げないといけないのかなと思います。漕ぐときに必要なエンジンとして筋力、そして長く漕ぎ続ける筋持久力と心肺機能が必要になってきますが、水上でボートを自力で漕ぐことから始めてみるといいかもしれませんね。

競技解説:越智義之(おち よしゆき)

1972年愛媛県生まれ。香川大学教育学部総合科学課程卒業。日本スポーツ協会公認アスレティックトレーナー、JATI-AATI、学校法人日本教育財団首都医校 アスレティックトレーナー学科教員。1998年~2008年日本カヌー連盟強化スタッフ(トレーナー)としてアジア競技大会、シドニー五輪などに帯同。現在は社会人バスケットボールリーグ大会等をサポートしている。