東京2020はさまざまなスポーツをお子さんとともに楽しめるまたとないチャンスです。そこで、子どもの運動能力向上に詳しいスポーツトレーナー・遠山健太が各競技に精通した専門家とともにナビゲート! 全33競技の特徴や魅力を知って、今から東京2020を楽しみましょう。今回は「フリースタイル(男子)/レスリング」! 競技解説はアスリートの指導に力を注ぐ、トレーナーの大宮司岳彦さんです。
男子フリースタイルの特徴
レスリングでは「フリースタイル」と「グレコローマンスタイル」という2つのスタイルが存在し、全身を駆使して戦うフリースタイルは、タックル中心に相手を倒し、相手の両肩をマットに着けてねじ伏せることを目指します。バリエーション豊富なグラウンドの攻防、男子ならではのスピードとパワーを楽しめます。
レスリングはなんと、紀元前3000年にはすでに競技として成立。古代ギリシャを中心に当時はメジャースポーツとして確立されていて、古代オリンピックでは花形競技でした。近代五輪の第1回大会で採用されると、ルールを変更することなく採用され続けています。 *1896年当初の種目は男子グレコローマンのみで、男子フリースタイルは1904年セントルイス五輪から採用。
試合は、マット上にある直径9mのサークル内で3分×2ピリオド合計6分で戦います。勝敗の決め方は、両肩をマットに1秒間つける「フォール勝ち」と、6分間の中で相手より多く得点を獲得することによる「判定勝ち」等があります。判定の際に同点の場合、相手より大きいポイントを獲得することで優勢になる「ビックポイント」や、最後に得点を獲得することで優勢になる「ラストポイント」などがあります。そのほか、10点差をつけるとその時点で勝敗が決まる「テクニカルフォール」もあります。東京2020では57kg、65kg、74kg、86kg、97kg、125kgの6階級で試合が行われます。
日本男子フリースタイルレスリングが、これまでに五輪で獲得したメダル数は金17、銀11、銅13の計41個。以前は柔道と並びメダルが期待できる日本のお家芸で、ソウル五輪の48kg級で金メダルを獲得した小林孝至選手などは未だに印象深いです。
男子フリースタイルを観戦するときのポイント
男子レスリングフリースタイルを観戦するときのポイントをご紹介しましょう。
①タックル&レスポンス!!
フリースタイルは全身を駆使しますが、勝敗を決めるのはバリエーションが多い素早いタックルとそれを防いでカウンターを仕掛ける場面が中心です。特に、軽中量級選手たちの「高速&低空タックル」に注目してください。リオ五輪・57㎏級銀メダリストの樋口黎(れい)選手、65㎏級元世界王者乙黒拓斗選手や86kg級の高谷惣亮選手のタックルは見物です。また、それを防いでカウンターでタックルや投げを打つ素早い攻防の連続も男子フリーならではの見所で、スピード感あふれる展開に目が離せません。
②大逆転も!?
ポイントで劣勢でも、スタンドの攻防で投げを成功させると4ポイント加点され、タックルの倍のビッグポイントが入ります。また、グラウンドの状態で相手の胴体や脚をホールドし横に一回転させると、ローリングで2ポイント入り、しかも連続でグルグル回すとその都度加点されるので一気にテクニカルフォールになることも多々あります。2019年の日本選手権で引退した元日本王者の中村倫也選手が得意としていた、相手の股に頭を突っ込んでローリングするオリジナル技「リンクル」で何度もテクニカルフォールを奪っているのを筆者は何度も見ています。
東京2020でのチームジャパンの展望
2018年の団体戦ワールドカップでは、強豪国相手に33年ぶりに銅メダルを獲得し、東京2020では軽~中量級は全員がメダルを期待できます。特に57kg級の樋口黎選手、65kg級の乙黒拓斗選手は金メダルが期待できます。
樋口黎選手は前回のリオで銀メダルを獲得したあと、男子の五輪階級削減や計量方式の変更(前日から当日計量)の影響で65kg級での戦いをしていましたが、2019年の日本選手権で57kg級に戻し、元世界チャンピオンの高橋侑希(ゆうき)選手に競り勝ち、代表の座に返り咲きました。
乙黒拓斗選手は10代前半でJOCエリートアカデミー(ジュニア期の優秀な競技者を育成するJOCの組織)に入校したあとは、中学・高校は無双で勝ちまくり、ケガを乗り越えたあとは19歳で日本人最年少世界チャンピオンの栄冠に輝いています。2019年12月の東京2020最終予選でも、元61kg級複数回日本チャンピオン中村倫也選手との死闘を制して代表になっており、軽量級2人は特に要チェックです。
遠山健太からの運動子育てアドバイス
レスリングと言うと力対力のイメージですが、それだけではなく、要所要所ではテクニックなどが見られ、体の使い方などがとてもうまくなる印象があります。私も自分の子どもが小さいときは(今でもたまにやりますが)、布団の上で寝技を仕掛けると、子どもはそこから脱出するために時には全力で、また脱力したりするので、スポーツに重要な要素が入っているなと思ったものです。その力のさじ加減をある程度コントロールしないと子どもが混乱するので遊びの延長線上でぜひやってみてください。