東京2020はさまざまなスポーツをお子さんとともに楽しめるまたとないチャンスです。そこで、子どもの運動能力向上に詳しいスポーツトレーナー・遠山健太が各競技に精通した専門家とともにナビゲート! 全33競技の特徴や魅力を知って、今から東京2020を楽しみましょう。今回は「4×100mリレー/陸上競技」! 競技解説は、短距離走の経験者であり、現在、トレーナーとして活躍する筒井健裕さんです。

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4×100mリレーの特徴

4×100mリレーは「4×100mR」と表記されることが多く、日本では「4継(ヨンケイ)」と呼ばれたりします。その名のとおり、1チーム4人の選手がそれぞれ100mを走り、合計400mのタイムや着順を競う競技です。

国際大会のタイムは、男子で37~38秒(世界記録:36秒84,ジャマイカ@ロンドン,2012)、女子でも40~42秒(世界記録:40秒82,アメリカ@ロンドン,2012)と、1人で走る400m競争のタイム(世界記録:男子43秒03,ウェイド・バンニーキルク,2016/女子47秒60,マリタ・コッホ,1985)と比べてもわかるように、かなりのスピード感と迫力があります。

バトンパスの際は、100mごとに設けられたラインの前後30mの「テイクオーバーゾーン」の範囲内でバトンパスを完了させるルールがあり、この範囲を超えてパスした場合失格になります(2018年ルール改定)。

4×100mリレーを観戦するときのポイント

4×100mリレーの見所は、なんと言ってもバトンパスです。4名全員が100m走と同じように「全力疾走(スプリント)」をする中で、そのスピードをできるだけ落とさずにバトンパスをしていく場面は、まさに手に汗を握る瞬間です。

どんなに個々の走力が高くても、3か所のテイクオーバーゾーン内でスムーズなパスができなくては、タイムにもつながらず、ゴールも遅れてしまいます。長くスプリント王国として君臨してきたアメリカチームは、100mのメダリストを多く抱えているにも関わらず、バトンパスで失格してしまうということもたびたびありました。それに対して、100mや200mの個人種目での入賞者がいなくても、バトンパスが上手なチームがリレーで良い成績を残すことがよくあります。

そのバトンパスの瞬間を観ていただくとわかると思いますが、次の走者は前の走者を見ることなくバトンを受け取っています。それは、全力疾走中に後ろを振り向いてしまっては、トップスピードへとスムーズに加速することができず、バトンパスのスピードが落ちてしまうからです。また、バトンを受けるために手を後ろに出したまま長く走ることも、加速を鈍らせてしまう原因になります。そのため、しっかりと加速をしながら、いかに余分な動きをせずに、一瞬で確実にバトンパスを終わらせられるかが、好成績につながるバトンパスだと言えます。

バトンパスの方法には、手を大きく後ろに出した手に上、または後ろから渡す「オーバーハンドパス」と、お尻のあたりに出した手に下から渡す「アンダーハンドパス」があります。一般的なのは「オーバーハンドパス」ですが、1990年代にフランスチームが「アンダーハンドパス」を取り入れて世界記録を樹立したことから、日本も2000年代に入って取り入れ、今では"アンダーハンドパスといえば日本"というイメージが定着しました。

「アンダーハンドパス」は、上手くいけば高いスピードでのスムーズなパスが可能になりますが、「オーバーハンド」に比べると難しく、かなりの練習が必要です。すべてのチームが採用しているとは言えませんので、各チームがどんな方法でパスをしているかを観るのもリレー観戦の楽しみ方です。

高い走力と上手なバトンパスが兼ね備わっていること。これが4×100mリレーの絶対的な強さのポイントになりますので、各チームの走者のタイムだけではなく、バトンパスも観て楽しんでいただきたいと思います。

東京2020でのチームジャパンの展望

チームジャパンの強みは、観戦ポイントでも紹介したバトンパスの上手さです。さらに、ここ最近では9秒台の選手も出てきました。以前は「日本は走力では劣るけどバトンで上位にいける」と言われていましたが、今では個々のスピードも強化され、個人種目でも決勝進出の可能性が出てきています。東京2020では、リレーでの金メダルを念頭においた戦略も話題になりましたが、リレー決勝の日にメンバー全員がベストコンディションにあり、強みであるバトンパスがぴったりとハマれば、金メダルも決して夢ではないので、今からとても楽しみですね。

遠山健太からの運動子育てアドバイス

運動会の花形種目と言えば、やはり「紅白リレー」でしょう。五輪で日本代表チームがメダルを獲っていることも人気の要因になっている気がします。運動会では足が速い人だけがリレーチームに選出されるケースが多いでしょう。ただ、学校の体育授業でリレーを取り入れる学校も多く、その場合は全員参加なのでチームの走力が均等になるようにチーム分けされますが、バトンパスの技術次第で結果が毎回どうなるかわからない楽しさがあります。チームで走ることによって、協力しあうことの大切さを学べますので、リレーの要素を含む遊びはぜひ外遊びでやってもらいたいものです。

競技解説:筒井健裕(つついたけひろ)

SPRINT代表。小学校4年生から陸上競技を始め、中学からは短距離を専門に大学まで競技を続ける(100m自己ベスト10秒56)。大学卒業後は、母校の日本体育大学にて陸上競技短距離ブロックのアシスタントコーチをしながら大学院に通い、トレーニング科学を専攻。大学院修了後は、横浜の整形外科に併設のメディカルフィットネスに主任として勤務。その後、大学ラグビーチームのランニング・トレーニング指導などを経て、2014年度までの5年間、日本代表選手の科学的サポートを行う「国立スポーツ科学センター」の非常勤トレーニング指導員として勤務。独立後はトップアスリートへのトレーニング指導も行っており、現在は陸上競技やラグビー、オートバイレースやスノーボードの選手へのトレーニング指導を行っている。