東京2020はさまざまなスポーツをお子さんとともに楽しめるまたとないチャンスです。そこで、子どもの運動能力向上に詳しいスポーツトレーナー・遠山健太が各競技に精通した専門家とともにナビゲート! 全33競技の特徴や魅力を知って、今から東京2020を楽しみましょう。今回は「短距離走(100m、200m)/陸上競技」! 競技解説は、12年間の陸上競技経験を持ち、子どもの運動指導者として活躍する山田義基さんです。

  • 「短距離走(100m、200m)/陸上競技」の魅力とは?

短距離走(100m、200m)の特徴

陸上競技の短距離走は名前のとおり、短い距離を競う種目です。100m、200m、400mの3種目があり、100mと200mはショートスプリント、400mはロングスプリントと言われています。

今回紹介するのは陸上競技の中でも人気が高い種目である100mと200mのショートスプリント種目です。どちらの種目も予選、準決勝を着順、またはタイム順で勝ち上がると決勝へコマを進めることができます。

100mといえば「人類最速」を決める花形種目ですね。直線100mを各レーンに分かれて走ります。現在の世界歴代記録は以下のとおりです。

【男子100m】
①ウサイン・ボルト選手(ジャマイカ)9秒58(風速+0.9)/2009年
②ウサイン・ボルト選手(ジャマイカ)9秒63(風速+1.5)/2012年
③ウサイン・ボルト選手(ジャマイカ)9秒69(風速±0.0)/2008年
③タイソン・ゲイ選手(アメリカ)9秒69(風速+2.0)/2009年
③ヨハン・ブレーク選手(ジャマイカ)9秒69(風速-0.1)/2012年

「人類最速」のウサイン・ボルト選手が歴代3傑までを独占しています。ちなみに100mを10秒で走ると秒速10m、時速だと36㎞となりますので、物凄いスピードです。しかも、これは平均時速なので、最高速度は40㎞以上ともいわれています。

【女子100m】
①フローレンス・グリフィス=ジョイナー選手(アメリカ)10秒49(風速±0.0)/1988年
②フローレンス・グリフィス=ジョイナー選手(アメリカ)10秒61(風速+1.2)/1988年
③フローレンス・グリフィス=ジョイナー選手(アメリカ)10秒62(風速+1.0)/1988年

こちらも同じ選手が歴代3傑までを独占しており、30年以上経った今でも破られていません。

200mはカーブを120m+直線80mの合計200mを各レーンに分かれて走ります。直線のみではなく、カーブが含まれることが特徴です。現在の世界歴代記録は以下のとおりです。

【男子200m】
①ウサイン・ボルト選手(ジャマイカ)19秒19(風速-0.3)/2009年
②ヨハン・ブレーク選手(ジャマイカ)19秒26(風速+0.7)/2011年
③ウサイン・ボルト選手(ジャマイカ)19秒30(風速-0.9)/2008年

こちらも最速はウサイン・ボルト選手。男子短距離種目はやはりジャマイカ勢が強いですね。

【女子200m】
①フローレンス・グリフィス=ジョイナー選手(アメリカ)21秒34(風速+1.3)/1988年
②フローレンス・グリフィス=ジョイナー選手(アメリカ)21秒56(風速+1.7)/1988年
③マリオン・ジョーンズ選手(アメリカ)21秒62(風速-0.6)/1998年 ※高地での記録

こちらも最速はフローレンス・グリフィス=ジョイナー選手。 100mと同様に30年以上破られていない記録です。

短距離走(100m、200m)を観戦するときのポイント

【100m】
100mではまずスタートが必見です。スタートでは「On your marks(位置について)」の指示の後にスターティングブロックにて片膝を着けて静止します。その後「Set(用意)」の指示で腰を上げて止まり、スターターが上方に向けて構えた信号機の発射音でスタートしなければいけません。わずか10秒ほどの中で勝敗が決まるため、0.01秒を争います。そのため、スタートの合図を聞いてからいかに速くスタートできるかが重要です。また、スタートで飛び出す角度もこの後の加速につながるため、スタートで勝敗が決まると言っても過言ではありません。

しかし、スタートは速ければ速いほど良いというものではありません。「Set(用意)」の姿勢をとった後、信号機の発射音が鳴る前にスタートしてしまうと、不正スタートとなり、その場で失格となってしまいます。

次のポイントは加速とフィニッシュです。スタートで走り出す際は身体を前に傾け、前傾姿勢のまま加速していきます。その後ゆっくりと身体を起こしていき、50m~70mのあたりで最高速度に達します。その後はいかに速度を落とさずに最後まで維持できるかがポイントに。

テレビなどで見ると1位の選手は最後まで速度が上がり続けてきているように見えますが、実は最後は速度を維持している状態です。速度の維持ができなくなってきた選手が遅れてくるので、1位の選手は最後まで加速しているように見えるのです。

最後のフィニッシュでは頭、腕、脚を除く「胴体部分」=「トルソー」がフィニッシュラインに到達した時点でゴールとなります。そのため少しでも速くゴールできるように選手はフィニッシュライン直前で胸を張るような姿勢をとります。そこで最終的な順位も決まるため、最後の0.01秒まで見逃せません。

【200m】
200mでは前半の120mはカーブとなるため、カーブを走るためのコーナリング(カーブを曲がる)の技術が必要になります。内側のレーンではカーブがきつくなり、外側のレーンでは緩やかになるため、どのレーンを走るかでコーナリングの走り方も少し変わってきます。しかし走るレーンは自分では選べません。予選の順位やタイムなどで次のレースのレーンが割り当てられます。

予選の順位が上の選手は、次のレースでは中央のレーン(3~6レーン)が割り当てられ、そのほかの選手は内側または外側のレーンとなります。中央のレーンはカーブも急すぎず、さらに外側レーンの選手を見て走れるので有利といえます。

200mではこのカーブの走りで勝負が決まるといわれるほど重要なポイント。カーブを抜けたら後半80mは直線勝負です。カーブが終わる前には最高速度になるので、その後は100mと同様にどこまで速度を維持できるかがポイントです。100mと同様に「トルソー」がフィニッシュラインに到達した時点でゴールとなります。

東京2020でのチームジャパンの展望

現時点(2020年4月5日)で、短距離の東京2020の内定選手は決まっていません。男子100mはここ数年でかなりレベルが上がってきました。20年もの間、日本記録は伊東浩司選手が作った10秒00(1998年)でしたが、2年ほど前、桐生祥秀選手が9秒98の日本新記録(当時)を出して10秒の壁を破りました。その後、2019年に日本人の母とガーナ人の父を両親に持つサニブラウン・アブデル・ハキーム選手が9秒97で日本新記録を更新。小池祐貴選手も9秒98の記録を出すなど、現在日本には9秒台の記録を持つ選手が3名います。そして10秒00の記録を持つ山縣亮太選手にも注目です。

女子100mでは、現在11秒21の日本記録保持者の福島千里選手はもちろん、11秒50の記録を持つ世古 和(せこ のどか)選手や11秒43の記録を持つ市川華菜(いちかわ かな)選手、同じく11秒43の記録を持つ土井杏南(どい あんな)選手も注目です。また、2019年の日本選手権100mで優勝した御家瀬緑(みかせ みどり)選手は現在18歳と若く、これからの活躍が楽しみです。

男子200mでは、末續慎吾選手が持つ20秒03の日本記録にあと0秒05まで迫っている、サニブラウン・アブデル・ハキーム選手や20秒11の記録を持つ飯塚翔太選手、100mでも注目されている桐生祥秀選手や小池祐貴選手に注目です。

女子200mでは22秒88の日本記録を保持者の福島千里選手が有力です。今のところ23秒の壁を破っている選手は福島選手しかいないため、今後22秒台までタイムを伸ばす選手がたくさん出てくることを期待しています。

短距離種目は依然として世界との記録の差は大きいですが、東京2020で日本代表選手が決勝の舞台で活躍してくれるのを期待しています!

遠山健太からの運動子育てアドバイス

運動会の花形種目といえば徒競走と紅白リレーで、まさに短距離走の力が問われます。「短距離走が速い」というのはいつの時代でも憧れる能力であり、保護者の皆さんも徒競走・リレーは観ていて熱くなる種目の1つではないでしょうか。短距離を走ることは「直線を速く走る」イメージが強いと思いますが、スポーツにおいてそれができれば良いというわけではありません。スポーツ種目によっては前後左右に走ることや、加速だけではなく減速の技術も必要となったりします。時にはボールを追いながら走ることもあるでしょう。運動会に向けて「走る」練習する風景をよく見かけますが、それよりも今後のスポーツにも生きる「走り」を考えると、小さいころから鬼ごっこなどで公園を縦横無尽に走りまわることのほうが重要だと思っています。

競技解説:山田義基

ウィンゲート所属。子どもの運動教室「リトルアスリートクラブ」トレーナー。健康運動実践指導者、幼児体育指導者検定二級を保有。12年間の陸上競技経験と幼児体育の専門的な知識を生かし、子どもへの運動指導を幅広く行っている。なかでも「走る」ことから運動神経を伸ばす指導を得意としている。