東京2020はさまざまなスポーツをお子さんとともに楽しめるまたとないチャンス! そこで、子どもの運動能力向上に詳しいスポーツトレーナー・遠山健太が各競技に精通した専門家とともにナビゲート! 全33競技の特徴や魅力を知って、今から東京2020を楽しみましょう。今回は「アーチェリー」。競技解説は、北京大会、ロンドン大会でアーチェリー日本代表トレーナーを務めた馬渕博行さんです。

  • 「アーチェリー」の魅力とは?

アーチェリーの特徴

アーチェリーは弓を引いて的を狙い射撃するスポーツです(厳密には弓ではなく、弦【つる=紐の部分】を引きますが、以下、弓を引くと表現)。同じく、弓を引く競技としては弓道もあり、アーチェリーを洋弓、弓道を和弓と表すことも。矢を放つため、危険と感じる方も多いと思いますが、「きちんとルールを守れば安全」という点では他のスポーツと同じです。

目標となる的は122cmで、狙う的までの距離はなんと70m! 腕を伸ばして親指を立てたときの爪の大きさほどになる的の中心に向かって矢を放ちます。70mの距離まで矢を届かせるために、弓を大きく引きますが、その弓や弦の強さが選手一人ひとりで調整されているのはご存知でしょうか。この「弓を引く」動作には筋力も必要ですが、力ずくではダメなのです。以前、話を聞いた代表チームのコーチによれば、ポイントは「骨で引く」。自分の骨格や筋力を自分自身で十分に把握して、自分に合った弓にルールの範囲内でカスタマイズし、「弓を引く」という動作で70mの的を狙う……。想像するだけも奥が深い。それがアーチェリーの特徴です。

アーチェリーを観戦するときのポイント

実際にアーチェリーを観戦するときは「天候(雨・風)」「静寂」「正確性」がポイントになります。アーチェリー競技は、よっぽどの悪天候でなければ競技を行います。「雨が降る」「風が吹く」という自然環境に応じて弓を引かなくてはなりません。ロンドン大会の際は、選手が立って的を狙う場所と70m先の的付近では風の流れが違うことが多く、どの選手も大苦戦。刻々と変化する状況に対応する能力も必要となります。東京2020の会場は海に近いため、浜風の影響が出ることが予想されます。日本は、"地の利"を生かしたいですね。

また、アーチェリー競技は、静かなスポーツのひとつ。弓を引くときの選手は、ものすごく集中しています。その姿を大観衆が固唾をのんで見守る。その会場の雰囲気は何とも言えません。そして、的に当たって「10点!」となると会場全体が盛り上がります。そのときは、声を出して応援してください。

選手たちは、簡単そうに淡々と70m先の的に向かって矢を放ちますが、素人だと5m先の的にさえ当てることができません。同じ動作の繰り返しに見えますが、風や雨によって、あるいは矢一本一本にも特性があるので、微妙に動作を変えています。会場で観戦するなら、ぜひ双眼鏡持参で出かけ、ご自身の目で選手や的を見て、その正確さを感じてください。

競技は、個人戦と団体戦があります。その対戦相手を決めるために出場選手全員が一同に矢を放つ予選の試合を行います。それは「ランキングラウンド」と呼ばれ、72射720点満点です。全選手64名が一列に並び、一斉に矢を放つ光景は圧巻です。矢を放つ音、的にあたったときの音に圧倒されます。ぜひ会場でこの雰囲気を感じてください。このランキングラウンドで決まった順位をもとに個人戦と団体戦、ミックス戦の対戦相手が決まります。

【個人戦】
1人1射ずつ3射行います。この3射が1セットとなり、最大5セット行います。各セットで勝敗を決めていき、勝ったほうが2ポイント、引き分けが1ポイント獲得となり、先に6ポイント獲得したほうがその対戦の勝者となります。5セットを終えた時点でポイント数が5対5の場合は"シュートオフ"という1射を放ち、中心に一番近いほうが勝者となります。

【団体戦】
1チーム3人で行います。1セットは各選手が2射、合計6射。6射の合計が高いチームが勝ちとなり2ポイントを獲得。同点の場合は両チームに1ポイントとなり、最大4セット行います。先に5ポイントを取ったほうが勝者となります。4セットを終えた時点でポイント数が4対4の場合は、個人戦同様"シュートオフ"となり3人が1射ずつ放ち、合計得点が高いほうが勝ち。合計得点が同じの場合は「10点」が多いほうが勝ち。「10点」の数も同じ場合は、的の中心に近い矢のほうが勝ちとなります。

【ミックス戦】
男女1人ずつの2人で1チーム。1セットは各選手が2射、合計4射で、団体戦とほぼ同様のルールで展開されます。

どの試合においても、矢を放つまでに"制限時間"が設定されており、その時間内に規定数の矢を放てないと、放っていない矢は無効になります。選手たちは、風や雨の状況を見ながら、少しでも条件の良いタイミングを見計らって矢を放ちますが、あまり待ちすぎると、制限時間が減っていくことに……。「早く矢を放ちたい」という気持ちと「もっと良い条件で!(風が少しでも弱くなれ!)」という選手の心の葛藤や極度の緊張感が観客にも伝わってきます。

東京2020でのチームジャパンの展望

2012年のロンドン大会では、男子個人で銀メダル、女子団体で銅メダルを獲得。日本国内のレベルはここ数年で確実に上がっています。この競技は年齢があまり関係ないため、若手・ベテランともに切磋琢磨し、群雄割拠状態。東京2020で、世界と闘うチームジャパンのメンバーに入ることが非常に難しくなってきています。その分、メダル獲得が大いに期待できます。東京2020では男女1名ずつの「ミックス戦」がオリンピック史上初めて行われます。チームワークが良いのもチームジャパンの特徴です。

遠山健太からの運動子育てアドバイス

私は、アメリカンスクールに通っていた高校3年生の体育の時間にアーチェリーを初体験しましたが、最近は、近所の公園や民間の施設でも体験できるところが増えてきたように思います。映画などでも『ロード・オブ・ザ・リング』のレゴラス、『アベンジャーズ』シリーズのホークアイなど、弓矢を扱うキャラが主役級の活躍をしているせいか(ゲームの影響もあると思いますが)、特別授業で小学校に行くと「アーチェリーをやってみたい」という子どもが増えてきているように思います。アーチェリーは上半身中心の種目に思えますが、矢の回収のために何度も的まで取りに行かないといけないため、ある程度の心肺機能も必要と聞いたことがあります。精神集中が必要な競技なので、運動以外の能力開発も期待できそうです。

競技解説:馬渕博行

「京都トレーニングセンター」センター長。2008年北京オリンピック、2012年ロンドンオリンピックで、アーチェリー日本代表トレーナーを務める。現在、幼児から高齢者まで幅広い年代を対象としたトレーニングやパラ選手の運動指導、競技力向上の医科学サポートを展開している。