これまで、ビジネスシーンにおける英語力の向上の必要性と、英会話スクールに通っているのに英語が上達しない理由についてお話してきました。今回からは2回に渡って、英語を上達させるために必要な具体的な内容についてお話していきたいと思います。
リスニングを制するものがスピーキングを制す
多くのビジネスパーソンとお話させて頂く中で、よく耳にするのが、「スピーキング力を向上させたい」「ミーティングでしっかり発言できるようになりたい」といったスピーキングに関する悩みです。
スピーキングに関してお悩みの方の多くは、英会話スクールやオンライン英会話などを活用し、「話す」練習に取り組んでおられるのではないでしょうか? しかしながら、スピーキングに悩む多くの人はスピーキング力が足りないのではなく、リスニングができていないことが多いです。相手の言っている事を100%理解できていないことが原因でスピーキングができないのです。
それでは、リスニング力を向上させるためには何をすれば良いか? ひとつはシャドーイング、2つ目は多読です。
ネットで検索するとシャドーイングがリスニングに良い! という記事も多く、多くの人がトライしたことがある方法かもしれません。 シャドーイングにトライしたが英語力が向上したのかわからない、という方が非常に多くいらっしゃいます。
シャドーイングをしても英語力が向上しない大きな原因は、なぜシャドーイングというトレーニングが英語力向上につながるのかを理解していないことです。
なんとなく、リスニング力が上がりそうと思って始めてはみるものの、続かないという人がほとんどです。
シャドーイングの目的は音声知覚の自動化
シャドーイングとは音声を聞きながら少し遅れて発音する練習です。シャドーイングの目的を理解するためには、まずリスニングというものを理解する必要があります。
リスニングをする時、脳の中では音声知覚と意味理解という2つの処理プロセスに分かれています。音声知覚とは英語の音を聞いて、自身の知識データベースと瞬時に照らし合わせ、それが何という単語かを知覚するプロセスです。意味理解とは知覚した単語を基に、文全体でそれがどういう意味かを理解するプロセスです。
リスニングができていない方の多くは音声知覚に脳のリソースを使い過ぎて、意味理解に頭を使えていない状況になっています。映画などを観ていて、「単語はなんとなく聞こえるけど、全体として何を言っているのかわからない」という経験をしたことがある方は、この状態がそれに当たります。
一方、日本語を聞いている時には音声知覚に脳のリソースはほとんど使わず、意味理解に頭を使っていると思います。
リスニングができるようになるためには、音声知覚に頭を使っている状態から、意味理解に頭を使っている状態(頭を使わなくても音声知覚ができる状態)にしなければなりません。
これを専門用語で「音声知覚の自動化」というのですが、シャドーイングはこの音声知覚の自動化を促すためのトレーニングです。ここまで理解して頂ければ、何も知らずにシャドーイングをするのとは成果が全く異なってくると思います。
シャドーイングの効果的練習法
では、どのようにシャドーイングをすれば効果的かをご説明します。シャドーイングをする場合、音声教材を用意する必要があります。どんな教材を使っても問題ないのですが、教材選びのポイントは2つです。
1. スクリプトが付いているもの
2. 難しすぎないもの
スクリプトはシャドーイングをする上で必須ですので、必ずスクリプト付の音声教材を選びましょう。また難し過ぎないというのもポイントです。多くの方が、背伸びをして難しすぎる教材を選んでしまうのですが、シャドーイングにおいては自分がギリギリ理解できる教材を選びましょう。最終的に「映画が理解できるようになりたい」という目標でも現状の英語力に合っていない教材を選んでしまうと、結果的に成長スピードが遅くなります。
目安として、TOEICスコアが400点程度あれば、TOEICの公式問題集は非常に良い教材です。スクリプトや日本語訳は当然載っていますし、ビジネスや日常会話で使うような内容になっているため、多くの人にとって有益です。
TOEICだと簡単すぎるという人はTEDに挑戦してみると良いでしょう。学術・エンターテインメント・デザインなど、様々な分野の第一線で活躍する人物のプレゼンテーションとなっています。スクリプトや音声データは簡単にダウンロードできますし、扱う分野が多岐に渡るため興味のある内容を選べば、非常に面白いと思います。
TOEICだと難しすぎるという人はVOA Learning Englishというものがオススメです。比較的ゆっくり発音しており、初心者の方にとっては使い勝手の良い教材です。
教材選びが終わったら、下記のステップでシャドーイングをしてください。
(1) スクリプトを見ずに音声を3回聞く
(2) スクリプトを見て聞き取れていない部分を確認
(3) スクリプトを見ながらシャドーイング
(4) 慣れてきたら、スクリプトを見ずにシャドーイング
(1)~(4)はシャドーイング準備です。(2)で自分はどこが聞き取れており、どこが聞き取れていないのか確認しておくことが重要です。(3)でスクリプトを見ながらシャドーイングを実施し、慣れてきたらスクリプトなしでのシャドーイングを行いましょう。
シャドーイングの回数ですが、ひとつの教材で少なくとも50~100回ぐらいは実施しましょう。シャドーイングは5回や10回で効果がでるものではありません。
もうひとつのポイントとしては、是非自分のシャドーイングをしている声を録音して、聞き直してみてください。自分の声を聞くことで、しっかり聞き取れ発音できている部分、どうしても飛ばしてしまう部分がよく分かると思います。
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次回は、リスニングの際に行われる意味理解の力を向上させる方法について具体的にお話していきたいと思います。
執筆者プロフィール:岡田 祥吾(おかだ しょうご)
株式会社GRIT 代表取締役社長
大阪大学工学部を卒業後、新卒でマッキンゼー・アンド・カンパニーに入社。日本企業の海外進出、海外企業の日本市場戦略立案等、数々のプロジェクトに従事。同社を退社後、株式会社GRITを創業。2カ月でビジネス英語を身につけるコーチングプログラム「TOKKUN ENGLISH」を運営。