職場や取引先で見かける「残念なおじさん」。彼らはなぜ、若者から見て"残念"と思われる言動をとってしまうのでしょうか。
マイナビニュースでは、仕事を持つ20~30代のマイナビニュース会員500名を対象に「中高年男性が残念だと思う瞬間」について調査。この連載では漫画にてさまざまなタイプのおじさん像を紹介した上で、『<40男>はなぜ嫌われるのか』の著者で男性学の第一人者・田中俊之氏にその背景を解説してもらいます。
2回目は「エチケットレスおじさん」です。
アンケートでは、残念だと思う瞬間について、若手社員から以下のようなコメントが寄せられました。
・「紙をめくるとき、指をなめる」(男性/37歳/静岡県/医療・福祉・介護サービス)
・「フケが肩に落ちていたり、ヒゲがきれいにそれていなかったり、清潔感に欠けていた」(女性/36歳/神奈川県/サービス)
・「服装がだらしない、歩き方がだらしない、人に平気でぶつかってくる、トイレの利用の仕方が汚い」(男性/35歳/東京都/その他)
・「鼻毛が出たまま仕事をしている」(女性/27歳/流通・チェーンストア)
・「加齢臭と香水が混ざったような臭いが気持ち悪くて仕方ない」(男性/38歳/岐阜県/教育)
・「肩掛けカバンのストラップが異様に長い中年男性を多く見かけることがある。太ももないし、膝上くらいにカバンがくるほどのストラップの長さは、中高年男性特有だと思う。なぜそこまで長いままでカバンを肩に掛けているのか、使いづらくないのかなど一度聞いてみたい」(男性/34歳/千葉県/広告・出版・印刷)
・「シャツが出ている」(女性/22歳/宮城県/繊維・アパレル)
・「スーツに白靴下を履いている」(男性/38歳/東京都/医療・福祉・介護サービス)
・「いい年をされているはずなのに、なぜかドクロ柄のシャツとかを好んで着る」(男性/37歳/大阪府/医療用機器)
田中氏は、エチケットに無頓着なおじさんがいる理由について、以下のように解説してくれました。
「働き続けること」を使命とした結果……
鼻毛や耳毛が伸び放題、あるいは擦り切れていたり、色褪せていたりするスーツを平気で着る――。外見に無頓着すぎるおじさんが、職場にいるのは決してレアケースではありません。どこの職場にも一定数がいるため、気になりますよね。一部のおじさんは自分がどのように見えるのかが気にならないから、鼻毛が出ていても大丈夫なのです。
それに対し、女性は外見に敏感であることを要求されています。朝寝坊をして化粧をせずに出社したら、人から「ノーメイクだね」と指摘される前に「今日はノーメークだから」と自己申告し、それ以上の「攻撃」を「防御」した経験がある方もいるのではないでしょうか。最近では、若い男性にもそれなりの外見が期待されており、男女問わず、「おじさんは無頓着でいいなんてズルい!」と言いたくなるかもしれません。
でも、ちょっと待ってください。鼻毛や耳毛を伸び放題にすることが本当に羨ましいと思いますか? 自分がどのように見られているのかについて、意識しなくなることは人間として幸福でしょうか?
高度経済成長期以降の日本社会において、中高年の男性は「働いてさえいればいい」とされてきました。無職にさえならなければ、外見が悪かろうが、仕事ができなかろうが、毎日が充実していなかろうが、問題とされてこなかったのです。とにかく「働き続けること」。これがおじさんたちの使命であり、その結果、一部のおじさんは外見にすら気を使わなくなってしまったのです。
確かに、過剰に外見を意識させられている現状は問題です。でも、性別を問わず、おしゃれは自分のテンションを上げてくれるものでもありますよね。女性でも男性でも、「仕事ばかりの毎日」に飲み込まれずに自分を保つためには、「働き続けること」に特化してしまったおじさんたちを反面教師にして、おしゃれを忘れないようにするのもいいのではないでしょうか。
このように考えれば、気持ち悪い存在であった鼻毛が出ているおじさんにも、「むしろ鼻毛を出してくれてありがとう!」という感謝の心が芽生えるかもしれません。
解説: 田中俊之
大正大学 心理社会学部 人間科学科 准教授。
社会学・男性学を主な研究分野とし、男性がゆえの生きづらさについてメディア等で発信している。単著に『男性学の新展開』『<40男>はなぜ嫌われるか』『男がつらいよ』『男が働かない、いいじゃないか!』、共著に『不自由な男たち その生きづらさは、どこから来るのか』などがある。
漫画: 山本ゆうか
フリーランスのイラストレーター・漫画家として活動するワーキングマザー。
ウェブを中心に雑誌、書籍、広告の仕事で活躍している。情報処理学会会誌『IT日和』、チエネッタ『お隣さんの○○事情』イラスト担当中。