今は生活できているけれど、もし働けない状態になったら? 病気になっちゃったら? 貯金は足りるのかな!? 「おひとりさま」の心配ごとは、法律と制度を知っておくと備えられることもあるかもしれません。
弁護士の上谷さくらさんによる、マンガ家・類さんのイラストでわかりやすく解説した書籍『暮らし・お金・老後… おひとりさまの心配ごと、すべて解決してください! 法律と制度を味方につければ、1人でも自分を守れる!』(Gakken刊)より、気になる心配事の解決ヒントをご紹介します。
全5回の連載、第5回は「死後の問題」のテーマです。
■遺志はどうやって遺せばいいの?
私が死んだら、私の財産などはどうなってしまうのでしょうか? 私名義のマンションを持っているのですが、できれば姪に遺したいと思っています。誰に何を遺すかなど、自分の遺志をちゃんと伝えるにはどのようにしておけばいいのでしょうか?
まずは状況を見てみよう
弁護士:あなたが亡くなった場合、相続人になりそうな人はいますか? 現時点での親族関係を教えてください。
相談者:両親と兄、姪と甥がいます。私は独身で、子どももいません。
弁護士:年齢順からすると、ご両親が亡くなっている可能性が高いですね。その場合、法定相続人はお兄さんのみになります。お兄さんも亡くなっていた場合は、姪と甥が代襲相続します。
相談者:自動的に姪が私の自宅マンションを相続することにはならないでしょうか?
弁護士:そうですね。法定相続人にならない場合はもちろんのこと、法定相続人が複数いれば、相続割合に従って相続することが多いので、自動的に姪がマンションを相続することはなさそうです。
相談者:姪にマンションを遺したいのですが、遺言しておけば大丈夫でしょうか?
弁護士:遺言しておけば、あなたの遺志が明確になります。ただし、ほかに法定相続人がいる場合、遺留分といって、最低限の相続分を請求できる権利がありますので、それが行使される場合は、思い通りにいかないことになります。
法に照らしてみると…
遺言を遺さずに亡くなると、法定相続人が相続分に従って相続します。誰が法定相続人になるのかは、そのときの身分関係で左右されますので、一概には言えません。ある程度、財産についてこうしたいという意思が決まっているのであれば、遺言を遺すことをお勧めします。遺言には、普通方式遺言として、「自筆証書遺言」「公正証書遺言」「秘密証書遺言」の3種類があります(民法第967条)。どの方式がいいのかは、専門家に相談しましょう。
[自筆証書遺言]本人が全文を自筆したもので、作成年月日、書名、押印などが必要です。要件を満たしていないと無効となります。費用はかかりません。また、本人が悩み続けなければ時間もそれほどかかりません。
[公正証書遺言]公証役場にて証人2人の立ち合いのもと、本人が口述して公証人が筆記します。費用はかかりますがトラブルになりにくいです。
[秘密証書遺言]公証人と証人2人以上に遺言書があることを証明してもらいます。本人以外は内容を見ることができないので、遺言の内容を秘密にすることができます。
ただし、好きなように遺言したとしても、法定相続人には「遺留分」という最低限の遺産取得割合が法律で決まっていますので(民法第1042条)、被相続人の思い通りになるとは限りません。それでも、遺志が明確になりますので、相続人が遺志を尊重して遺留分を請求しない可能性もあります。そういう意味では、遺言は十分に効果があります。
あなたを守ってくれる法律
民法(普通の方式による遺言の種類)
第九百六十七条 遺言は、自筆証書、公正証書又は秘密証書によってしなければならない。ただし、特別の方式によることを許す場合は、この限りでない。
(遺留分の帰属及びその割合)
第千四十二条 兄弟姉妹以外の相続人は、遺留分として、次条第一項に規定する遺留分を算定するための財産の価額に、次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める割合を乗じた額を受ける。
一 直系尊属のみが相続人である場合 三分の一
二 前号に掲げる場合以外の場合 二分の一
2 相続人が数人ある場合には、前項各号に定める割合は、これらに第九百条及び第九百一条の規定により算定したその各自の相続分を乗じた割合とする。
■『暮らし・お金・老後… おひとりさまの心配ごと、すべて解決してください! 法律と制度を味方につければ、1人でも自分を守れる!』
混沌とした先行きの見えない世の中で起こりうる、おひとりさまのトラブル事例を「仕事」「恋愛・結婚」「生活」「家族」「老後」といったテーマ別に紹介。解決のための法律や制度を、マンガイラストをまじえてわかりやすく紹介する
2022年9月29日発売、A5判・206ページ、定価1,540円(税込)。
著者:上谷さくら
弁護士(第一東京弁護士会所属)。桜みらい法律事務所所属。犯罪被害者支援弁護士フォーラム事務次長。福岡県出身。青山学院大学法学部卒。第一東京弁護士会犯罪被害者に関する委員会委員。元・青山学院大学法科大学院実務家教員。毎日新聞記者を経て、2007年弁護士登録。保護司。著書に『おとめ六法』(KADOKAWA)がある。
イラスト:類
新潟県在住のマンガ家。愛猫たちとのドタバタな日々を描いたマンガ『茶トラのやっちゃんシリーズ』や、パン屋さん応援コミック『がんばれ!コッペパンわに』(ともにKADOKAWA)が大人気。Twitter@ruuiruiruirui