今は生活できているけれど、もし働けない状態になったら? 病気になっちゃったら? 貯金は足りるのかな!? 「おひとりさま」の心配ごとは、法律と制度を知っておくと備えられることもあるかもしれません。
弁護士の上谷さくらさんによる、マンガ家・類さんのイラストでわかりやすく解説した書籍『暮らし・お金・老後… おひとりさまの心配ごと、すべて解決してください! 法律と制度を味方につければ、1人でも自分を守れる!』(Gakken刊)より、気になる心配事を解決するヒントをご紹介します。
全5回の連載、第2回は「正社員との給与格差」のテーマです。
■正社員と同じ仕事をしているのに待遇に大きな差が。給与や待遇を改善してもらうことは可能?
10年以上契約社員として勤めています。仕事の内容や、勤務環境は正社員とまったく同じなのに、給与や待遇などに大きな差があります。これは不当ではないでしょうか? また、改善してもらえる余地はあるのでしょうか?
まずは状況を見てみよう
相談者:総務で備品管理や文書の整理、健康診断などの福利厚生の企画と実行、他部署間の調整などの仕事をしています。ほかの業務に駆り出されることも多いです。
弁護士:正社員でも年齢や勤務年数に応じて、業務には差があります。「正社員とまったく同じ」というのは、どのようなことだとお考えですか?
相談者:勤務年数ではないでしょうか。年齢は、転職組や新卒でずっと勤務している人もいるので、バラバラです。業務時間や業務内容については、ほぼ同じです。
弁護士:給与や待遇に大きな差があるそうですが、どのくらいの差があるのでしょうか?
相談者:給与等のことには関与していないので具体的なことはわからな いのですが、日常会話の中で、かなり差があることを実感しています。たとえば、私は通勤の費用が出ないのですが、正社員の人たちは全額出ています。
法に照らしてみると…
ライフスタイルに応じて働き方の多様化が進み、同一企業内における正社員と非正規雇用労働者との間の不合理な待遇差を解消することが求められています。そのため、「パートタイム・有期雇用労働法(短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律)」ができました。また、平等な待遇を実現するために、厚生労働省から「同一労働同一賃金ガイドライン」(同書P49で解説)が出されています。
ここで、「同一労働同一賃金」とは何か? ということが問題となります。非正規雇用労働者からすれば、「正社員と同じ仕事をしている」と感じる場合でも、正社員と非正規雇用の人とでは、責任の範囲などについて何らかの差異を設けていることが多いのも事実です。不合理な待遇を受けているのではないかと感じたときは、まずは厚生労働省の定めたガイドラインを確認しましょう。
また、会社には、非正規雇用労働者から正社員との待遇差について説明を求められた場合、回答する義務が課せられています。したがって、疑問や不満があった場合は、会社に対して積極的に説明を求めましょう。
同一労働同一賃金の原則は、非正規雇用労働者の労働意欲を向上させ、会社にとっても実績を上げるチャンスとなりますから、よく話し合いをすることが大事です。
あなたを守ってくれる法律
パートタイム労働法(労働条件に関する文書の交付等)
第六条 事業主は、短時間・有期雇用労働者を雇い入れたときは、速やかに、当該短時間・有期雇用労働者に対して、労働条件に関する事項のうち労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)第十五条第一項に規定する厚生労働省令で定める事項以外のものであって厚生労働省令で定めるもの(次項及び第十四条第一項において「特定事項」という。)を文書の交付その他厚生労働省令で定める方法(次項において「文書の交付等」という。)により明示しなければな
らない。
2事業主は、前項の規定に基づき特定事項を明示するときは、労働条件に関する事項のうち特定事項及び労働基準法第十五条第一項に規定する厚生労働省令で定める事項以外のものについても、文書の交付等により明示するように努めるものとする。
(相談のための体制の整備)
第十六条 事業主は、短時間・有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する事項に関し、その雇用する短時間・有期雇用労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制を整備しなければならない。
(過料)
第三十一条 第六条第一項の規定に違反した者は、十万円以下の過料に処する。
■『暮らし・お金・老後… おひとりさまの心配ごと、すべて解決してください! 法律と制度を味方につければ、1人でも自分を守れる!』
混沌とした先行きの見えない世の中で起こりうる、おひとりさまのトラブル事例を「仕事」「恋愛・結婚」「生活」「家族」「老後」といったテーマ別に紹介。解決のための法律や制度を、マンガイラストをまじえてわかりやすく紹介する
2022年9月29日発売、A5判・206ページ、定価1,540円(税込)。
著者:上谷さくら
弁護士(第一東京弁護士会所属)。桜みらい法律事務所所属。犯罪被害者支援弁護士フォーラム事務次長。福岡県出身。青山学院大学法学部卒。第一東京弁護士会犯罪被害者に関する委員会委員。元・青山学院大学法科大学院実務家教員。毎日新聞記者を経て、2007年弁護士登録。保護司。著書に『おとめ六法』(KADOKAWA)がある。
イラスト:類
新潟県在住のマンガ家。愛猫たちとのドタバタな日々を描いたマンガ『茶トラのやっちゃんシリーズ』や、パン屋さん応援コミック『がんばれ!コッペパンわに』(ともにKADOKAWA)が大人気。Twitter@ruuiruiruirui