23番札所薬王寺でいったん札止めして家に帰った私。再び札所巡りをするために、徳島へやって来た。次の24番札所室戸山 最御崎寺(むろとざん ほつみさきじ)へ行くため、本来なら歩いて23番札所に戻ってから続きをはじめるのだが、今回は電車で移動する事にした。だって、23番札所から24番札所までの距離は約80kmもあり、徳島から高知へと移動することになる。歩くと20時間以上はかかるだろう。がんばって1日10時間歩いたとしても、24番札所へは2日間を費やすだろうし、私の足だと、たぶん3日はかかる……。そう考えると、時間的にも難しいので歩くのを断念したのだ。

徳島駅からJR牟岐(むぎ)線に約2時間30分乗って終点の海部(かいふ)駅まで行き、そこから第3セクターの阿佐海岸鉄道に乗り替える。阿佐海岸鉄道は、1両編成の単線で、約1時間に1本の割合で運行している。駅も、3駅しかなくて10分で終点の甲浦(かんのうら)駅に到着。そしてそこから、高知東部交通バスに1時間乗って室戸岬に向かう。バスでうとうとして目を覚ますと、窓から大きな室戸青年大師像が見えて来たので、大師像前でバスを降りた。

この弘法大使像は、弘法大師が19歳青年時代の姿。1984(昭和59)年に建立され、台座を含めると高さは21mもある巨大な像だ。大きな像も大好きなので、拝観する事にした。入り口にある売店で拝観料300円を払い、階段を上る。台座の壁面には大師の一生を表したレリーフがある。台座内には八十八カ所のお砂場めぐりや、木片に残されたという大師の手形も安置されていた。大きな大師像の後ろには、また大きな金色のお釈迦様が横たわる涅槃像(ねはんぞう)もあった。

(左)室戸青年大師像
(上)室戸青年大師像の後ろの涅槃像

そこから歩いてすぐのところに、御厨人窟(みろくど)と神明窟(しんめいくつ)のふたつの洞窟が並んであった。向かって左側の洞窟が、弘法大師が寝起きしたと言われる御厨人窟で、目の前には海が広がっている。ここから聞こえる波の音は、「残したい日本の音風景100選」にも選ばれているそうだ。向かって右の洞窟が、神明窟。この洞窟で修行していた時に、明けの明星が大師の口に飛び込んで来て自然と一体になり、悟りを開いたと言われる。そして大師(その時の名は真魚)はこの地で修行した後から、「空海」を名乗るようになったそうだ。

そんな謂われがあるので、本当は明けの明星が見える時間帯にこの洞窟に来て大師と同じ風景を見たかったのだけれども、時間帯も昼間だし雨だしで、思ったほどの感動は得られなかった。また、改めて来るぞ!

御厨人窟

御厨人窟の中から見た景色

神明窟

24番札所に向かう遍路道は山道なうえに、雨もザーザー降っているので雨水が上から川のように流れてきてとっても歩き辛い。歩いていると途中に、「捻(ねじ)り岩」という標識が立てられた洞窟があった。大師の身を案じて、大師の母である玉依御前が男装をしてやってきた際に嵐が起こったため、大師が念仏を唱えて風を鎮めて、岩を捻伏せたときに出来たと言われている。

「最御崎寺」大師堂(雨で写りが悪くてごめんなさい)

「最御崎寺」本堂(左と同じく雨で写りが……)

雨の中なんとか進み山門にたどり着いたが、霧でけむっている。山門をくぐるとすぐ右側に「岩見重太郎 薄田隼人(すすきだはやと)の塚」と書かれた小さな祠に入った五輪塔があった。岩見重太郎(後に薄田隼人を名乗る)は豊臣秀吉に仕え、剣の道を極めるために全国武者修行に出、数多くの伝説を残した。その伝説は講談や人形芝居、小説などに書かれている人物だ。慶長19年(1614)の大坂冬の陣で活躍。翌年の夏の陣で戦死したとされていて、なぜ縁もゆかりもない室戸岬の札所にその塚が存在するかは謎だ。

雨宿りしていた子猫

最御崎寺は、大同2年(807)に嵯峨天皇の勅願により、唐から帰朝した弘法大師がこの地を再訪し開基したそうだ。本尊は、大師が刻んだ虚空蔵菩薩で秘仏になっていて見る事はできない。境内に入ると「鐘石」叩くと鐘のような音がして、その音がこの響きは冥土まで届くといわれる石があった。叩いてみると確かに鐘のようないい音がした。本堂には、雨宿りしている子猫がいて、思わず写真を撮ってしまった。

捻り岩

鐘石

最御崎寺の宝物館には数々の寺宝が保管されていて、特に大師が唐から持ち帰ったという珍しい大理石の如意輪観音半伽像を拝観したくてたまらない。あと、藤原時代作の薬師如来坐像、月光菩薩立像も保管されていて、それら三体は国の重要文化財に指定されている。でも残念なことに、毎年7月の海の日と、灯台祭りの日(11月1日の灯台記念日に最も近い日曜日)の計2回しか公開されないそうだ。その日に、また来なければお会い出来ないなんて悲しいが、仕方ない。坂本龍馬と一緒に刺客に襲われ暗殺された中岡慎太郎の銅像も見たかったけれど、雨だし場所がよく分からなかったので見るのはあきらめた。

寺を出た後、「日本の灯台50選」の1つに選ばれている室戸岬灯台にも寄ってみた。こちらも中には入れず、灯台の全貌はよく見えなかった。見所があるエリアなのに、十分に堪能できず名残惜しいが、ゆっくりしていると今晩泊まる予定の26番札所までたどり着けない。次の25番札所の津照寺(しんしょうじ)へ雨でびしょぬれになりながら下った。