16番札所「観音寺」を出て約3.5kの道のりを歩き約1時間で17番札所「瑠璃山 井戸寺(るりざん いどじ)」に到着。赤い色に塗られた武家造りの立派な仁王門に迎えられる。雨が降って来たので傘をさす。門をくぐってすぐ左にある手を洗う所におばあさんが2人ちょこんと座っていた。私が手を洗っていると、「お接待です」と声を掛けられ、紙ナプキンにくるんだ黒飴と"ちょこれーと饅頭"をもらった。ひらがなで"ちょこれーと"と書かれた饅頭はなんだかかわいらしい。お接待を受けたらお札を渡すと本に書いてあったので、私は自分の名前と住所を書き込んだ白いお札をおばあさんに手渡した。
すると「所沢ってどこ?」とお札に書かれた私の住所を見ておばあさんが、聞いてきたので、「埼玉です」と答えた。
「そりゃ~えらい遠くからごくろうさんやね」とねぎらいの言葉をかけてもらった。おばあさんたちは、この寺に来るお遍路さんにお接待するためにここに座っているようで、他のお遍路さんにもお菓子を渡していた。私は、お接待されてなんだかほんわかした気持ちになり、本堂に向かった。
本堂の中に入ると、そこは売店になっていて先客に親子と思われる2人連れがいた。今度はその娘さんらしき方から「お接待です」と袋に入ったポケットティッシュをもらった。ここは、お接待が盛んな寺なのだろうか? 私は、またお礼にお札を渡した。すると「1人で雨の中ごくろうさんです」とニコニコしている。とっても感じが良かった。そこの売店では、本やお守り、日本てぬぐいなどいろんな種類の物が沢山売られていた。見ていると欲しくなり、仏具の形をした袈裟止めとお遍路の本と日本てぬぐいを買った。
すると売店の人が「車乗りはる?」と尋ねて来た。いったいなんだろう? と思いつつ、「はい、乗ります」と答えたら、「このお札をお守り代わりに車に乗せておいたら、事故に遭わへんよ」と言って金のお札を渡してくれた。金のお札は、50回以上四国八十八カ所を巡った人が持つお札。とっても貴重だ。今までもらったことなかったので、とっても嬉しかった。もらったお札をみると、名前と住所が書かれている。どうやらこの寺に修めたお札のようだ。そのお札を人に手渡してもいいのかな? 住所とか書いてあるし、個人情報保護法にひっかからないのかな……といろいろ疑問は残ったがありがたくいただいた。本堂には立派な薬師如来が、7体祀られている。7体も薬師如来が祀られているのはめずらしいので、じっくりと見学する。
本堂と大師堂でお経をあげてから、このお寺「井戸寺」の名前の由来にもなっている「面影の井戸」と呼ばれる井戸に向かった。なんでも昔、この地域は水不足で苦労していたので、この土地に訪れた弘法大師が錫杖で一夜のうちに井戸を掘られたといわれている。弘法大師が堀られたといわれる井戸の伝説は、他でもよく耳にする。また、井戸の伝説から寺号を井戸寺と改め、付近の村は井戸村という名称になった。
この面影の井戸を覗き込んで、水面に自分の姿が映れば無病息災で、映らない場合は3年以内に不幸が訪れると言われている。私は、おそるおそる井戸をのぞいて見ると、ちゃんと私の姿が映った。よかったぁ。弘法大師は、水に映った自分の姿を石に彫った。その像が「日限大師(ひかぎりだいし)」として、井戸のあるお堂に祀られている。何日までと日にちを限って願い事をすれば必ず願いを叶えてくれるので「日限大師」と言われているのだそうだ。井戸の横には井戸の水を汲んで持って帰れるように、容器が1個100円で売られていた。用意周到である。
井戸寺には、重要文化財の「11面観音立像」がある。以前に本に載っている写真を見たら、口が少し歪んで独特なお顔をされていたので、ぜひ実物を拝観したいと思って、お寺の方にお願いしてみた。だが、「今日は、雨降ってますでしょ。こういうお天気の日は湿気が入るのでお堂は開けられないんです」と言われてがっくりした。
それで今度晴れた日に来ようと思い、後日晴れた日にやってきたら「秘仏なんで、テレビとか特別な場合でしか開けられません」とピシャリ。だったら、はじめからそう言ってよ~~(涙)。なので、「先日、"雨だからお堂開けられません"とおっしゃってましたよ」と抗議すると「私そんな事言いましたか、それはすいません」と素直に謝られてしまったので、それ以上何も言えなかった。悲しさを胸に11面観音が納められてるお堂の前で手を合わせ、井戸寺を後にした。そして次の札所へ……と言いたいところだが、今回はいったんここでお遍路を"区切って"埼玉へ帰るため、最寄り駅の府中(こう)駅へ向かった。