「介護」と聞くと、まだまだピンとこない方もいれば、急に介護保険料を徴収されて、「うん?」となっている方もいるのではないかと思います。しかし、当然のように子どもに面倒を見てもらえると考えていた昔と違い、今は共働き世帯が増えているため、介護要員としてお嫁さんの手を当てにはできません。

また、「平成27年版厚生労働白書」によると、そもそも2020年の生涯未婚率(50歳時点で1度も結婚をしたことのない人の割合)が男性で26.6%、女性で17.8%になると予測されており、子ども自体がいないケースも増えていくと思われます。親の介護のために離職し、子ども世代の老後が貧困に陥ることも問題になっています。そのときになって考えるのでは遅く、介護は若いときから長期的な準備が必要なのです。

介護保険制度が登場した経緯

2000年に介護保険制度が導入された背景には、下記の2つの大きな要因があります。

(1)高齢化率の上昇に伴う、介護を必要とする高齢者の増加と介護期間の長期化

(2)核家族化の進行、介護する子ども世代の高齢化など家族形態の変化

今まで個々の家族に任されてきた介護を、社会全体で支える仕組みが必要となり、介護保険が誕生したわけです。40歳以上の健康保険加入者全員が所得に応じた介護保険料を支払い、介護が必要となったときに市区町村に介護認定を申請。認定の度合いに応じた様々なサービスを受けることができます。

介護保険の仕組みのイメージ

下図は介護保険の仕組みの概略のイメージですが、この中の「地域包括支援センター」が今後は重要な役割を果たしていくと思われます。平成30年4月施行の介護保険法の一部改正にも、地域包括支援センターの機能の深化・推進が盛り込まれています。

  • 介護保険の仕組み

    介護保険の仕組み

地域包括支援センターの趣旨は「地域住民の心身の健康の保持及び生活の安定のために必要な援助を行うことにより、地域住民の保険医療の向上及び福祉の推進を包括的に支援することを目的として、包括的支援事業等を地域において一体的に実施する役割を担う中核的機関」です。

その主な業務としては「介護予防ケアマネジメント」「総合相談・支援」「権利擁護」「包括的・継続的ケアマネジメント」「介護予防支援事業」「要支援者のケアマネジメント」などがあります。

世界の各国の介護意識と日本の課題

平成27年の内閣府による「高齢者の生活と意識に関する国際比較」では、下記のような調査結果が得られました。意外にも、日本人は近所とのつながりが薄いようです。

ふだん、近所の人とは、どのようなお付き合いをしているか尋ねたところ、日本、アメリカ、スウェーデンは「外でちょっと立ち話をする程度」、ドイツは「お茶や食事を一緒にする」と回答する割合が最も多い。「相談事があったとき、相談したり、相談されたりする」と回答する割合は、ドイツ48.3%、スウェーデン31.2%、アメリカ28.3%、日本18.6%となっており、また「病気の時に助け合う」と回答する割合は、ドイツ31.9%、アメリカ27.0%、スウェーデン16.9%、日本5.9%となっており、いずれも日本の割合が最も少ない。

介護は地域で考えることが、介護費用の負担面からも、高齢者の生活の質の確保の面からも望ましいはずですが、日本人はもっと地域とのつながりを高める必要がありそうです。

「隣りは何をする人ぞ」が気楽だとされた時代から、先の震災を受けて「絆」の大切さが認識されてはいます。高齢となってから近隣の住民とのコミュニケーションを取ろうと思っても、なかなかうまくはいかないでしょう。老後をどこで過ごすかを考え、若いときからつながりを深めていくことが大切になるように思います。

地域で見守る重要性を実感

一時期、友人たちからの年賀状の一言が、判を押したように「介護の日々です」というものでした。ほとんど例外ないその一言は、高齢になれば、誰しも介護を必要とすることを意味します。

私の世代は専業主婦だったり、設計事務所の自営だったりで、比較的時間が自由になる人が多かったと思います。しかし、これからの時代は夫婦で働く時代です。晩婚化が進み介護するほうも高齢になり、介護に必要な体力が伴わなくなるでしょう。独身者も増えていくと思われます。地域で見守る重要性を実感しています。

江戸時代、江戸は独身者の比率が多かったそうですが、介護はどうしていたのかと不思議に思うことがありました。介護が必要となるほど長生きしなかったのかもしれませんが、結局は長屋の住民が交代で面倒をみたり、町の有力者が支援したりだったようです。まさに身近な隣人とのつながりが実践されていたようです。

私の住むマンションでも、同年代で一斉に入居した住民は高齢化しつつあります。互いに助け合おうとサークルなどの活動もありますが、なかなか大きな活動とはなりません。今後の大きな課題でしょう。

■ 筆者プロフィール: 佐藤章子

一級建築士・ファイナンシャルプランナー(CFP(R)・一級FP技能士)。建設会社や住宅メーカーで設計・商品開発・不動産活用などに従事。2001年に住まいと暮らしのコンサルタント事務所を開業。技術面・経済面双方から住まいづくりをアドバイス。