よいこのQ&A

Q:『節子、それタイタニックやない!』ってなあに?
A:某客船映画みたいにお金かけてません。有名な俳優さんも出てません。でも、作り手の意気込みは負けちゃいないぜ! という知られざる優良エンタメ作品を貪欲に紹介していくコラムだよ。アクション、SF、ホラー、面白いものは何でもアリ! レンタル屋さんに行きたくなること請け合いだァ!

キャッチコピーは「この男たち、人類最強」だが、人類最強はヒョードルだけ。マドセンとハウアーが揃ったことで「男臭さ最強」と言い換えたくなる。アクション好きの男性を狙ったカッコいいジャケ写

今年の6月に引退を発表したロシア人総合格闘家エメリヤー・エンコ・ヒョードル。“ロシアン・ラストエンペラー”、“人類最強の男”、“氷の皇帝”といった異名をとる彼は、日本では今は無きPRIDEの第2代ヘビー級王者に輝き、セーム・シュルト、アントニオ・ホドリゴ・ノゲイラ、ミルコ・クロコップ、チェ・ホンマンら強豪外国人ファイターから小川直也、藤田和之、石井慧、永田裕志ら日本人ファイター&プロレスラーを次々と撃破し、わが国のプロレス格闘技ファンで知らない者はいないはずと言い切れるほどの人気ファイターである。そんな彼が、ついに俳優デビューを果たした。デビュー作となる未公開B級アクション映画『コマンド・フォース』を紹介する。

ロシア映画ではあるが、ルトガー・ハウアー、クエンティン・タランティーノ監督作品の常連としても知られるB級役者マイケル・マドセンがアメリカから参戦し、主にTVドラマをメインに活躍している韓国人俳優キム・ボスンも出演。

東南アジアの孤島に作られた秘密研究室でロシア人研究者が消息を絶つ。すでに除隊していたイワンらが招集され、特殊精鋭部隊としてロンマイ島へ送り込まれる。だが、彼らを待ち受けていたのは、国際軍事企業の陰謀とアメリカ傭兵部隊による罠であった……。

見どころは、言うまでもなくコマンド系、ミリタリー系らしいド派手なアクションシーンだ。ジャングルでの壮絶な銃撃戦に大爆破シーンといった見せ場が随所に散りばめられているため、B級ミリタリー・アクション作品がお好きな方なら面白さをしっかりと汲み取れるはず。

中でも1番注目したいのは、やはりヒョードルの活躍ぶりだ。パッケージ写真を見ると、明らかにヒョードルを主役に添えた作品のように思えるが、フェデイアという名の特殊精鋭部隊の一員という脇役。ヒョードルはもともとはロシア陸軍の消防隊と戦車隊に入隊経験のある軍人(階級は曹長)であったため、自身が演じるキャラクターに過去の経験を活かすことに成功している。機関銃やロケット・ランチャーをブッ放すといった格闘技のリングでは観られなかった銃器を駆使した攻撃を披露しており、リング上で闘う姿しか知らないというファンにとっては興味深いことだろう。

ターゲットを狙うヒョードル。銃の構え方もバッチリ。陸軍時代が懐かしかったのでは?

中盤には待ちに待ったヒョードルならではの格闘技で培った経験を活かしたファイトシーンがしっかり用意されている。銃を携えた敵連中は銃で射殺してしまえばすぐに手柄を立てられるのに、ヒョードルのファイトスタイルに合わせてなのか、銃を捨てて真っ向から肉弾戦に挑む。1対3のハンディキャツプマッチのような形式で、ヒョードルは3人の敵を難なく蹴散らす。ファイティングポーズも決まっているし、パンチ、投げ技といったリング上でもお馴染みの攻撃を繰り出し、スクリーンの中でも最強の男であることを十分にアピールすることに成功している。ヒョードルのファンなら、しっかりと注目してほしいシーンだ。

相手の背後から右手を回してスリーパーを仕掛けようとするヒョードル

ヒョードルだけでなく、マイケル・マドセン、ルトガー・ハウアーも印象深い敵キャラを好演している。マドセンは渋くイカツいルックスで、捕らえた特殊精鋭部隊員の腹部に容赦なく銃弾をブチ込むシーンは、彼が劇中で悪役ぶりを存分に発揮させた名シーンだ。ハウアーは国際軍事企業の社長役で、目立った活躍ぶりは見せないものの、事件の黒幕として暗躍し、チラホラ登場している。

肉体蘇生の研究の過程で発生した恐怖の絶滅ウィルスをめぐってのサスペンスということもあって、その背景も割とじっくり描かれている。サスペンスを加味したことによって、ドラマ展開が色々な方向へ寄り道してしまうため、観客に複雑さを感じさせてしまうのがウィークポイントだ。個人的には、ストーリーを簡素化させ、ミリタリー・アクションの描写に集中した方がより一層面白い作品に仕上がっていたと思う。アクション演出は本当に迫力満点で見応えがあるため、ストーリーを簡素化させ、上映時間が104分あるところを無駄な部分を削ぎ落として90分ぐらいでまとめ上げ、誰もが楽しめるような単純明快なB級アクションにするべきであった。

マイケル・マドセン。写真を観る限り、負傷した右腕にウィルスが入って腐食しかけているのでは? と思えそうだが、そうではありません。でも、かなり重症っぽい

映画スターとしてのヒョードルに早くも期待したいところだが、本作以降は出演作が途絶えてしまうのでは……という不安も正直ある。そういったことがないように、やるからにはしっかりと頑張ってもらいたい。次は、映画館のスクリーンで大暴れするヒョードルを観たい。もし、その日が来るなら、本作で披露した格闘シーンを超越するような迫力を追求したハードな肉弾戦を希望する。

『コマンド・フォース』作品概要

  • 2010年ロシア
  • 原題:「FIFTH EXECUTION」
  • 監督・脚本:アレクサンダー・ヤキムチャック
  • 出演:ルトガー・ハウアー、マイケル・マドセン、エメリヤー・エンコ・ヒョードル、ポール・デロング、キム・ボスン、アレクセイ・ゴルブノフ、オレグ・チェルノフ、バレリー・ニコラエフ
  • 上映時間:104分
  • DVD発売日:2012/10/03
  • 販売:アルバトロス
  • 価格:5,040円

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題字・イラスト:五月女ケイ子