よいこのQ&A

Q:『節子、それタイタニックやない!』ってなあに?
A:某客船映画みたいにお金かけてません。有名な俳優さんも出てません。でも、作り手の意気込みは負けちゃいないぜ! という知られざる優良エンタメ作品を貪欲に紹介していくコラムだよ。アクション、SF、ホラー、面白いものは何でもアリ! レンタル屋さんに行きたくなること請け合いだァ!

B級映画ファンに「様々な動物たちが襲ってくる映画と言えば?」という質問を投げかければ、少なくとも劇場公開された『アニマル大戦争』('77)と『猛獣大脱走』('83)の2作品を挙げるだろう。だが、さらにコアなファンなら未だソフト化されていない『猛獣大脱走/全市民緊急避難せよ』('78)というTV映画を挙げると思うが、我が国に1人いるかいないかの確率だと考えるのが妥当だ。

「もう、餌はいらない!」というキャッチコピー。それにしても目玉を齧るリスに人の頭を角に刺した鹿って……

そんな様々な動物たちが突然狂い出して人々を恐怖に陥れる動物パニック映画が久々にリリースされた。それが、『猛獣WARS』という作品だ。邦題からして『猛獣大脱走』の“猛獣”をそのまま頂き、『アニマル大戦争』の“戦争”を英語化させてくっつけさせているような感じがB級ムードを高めているような気がしてたまらない。

ある日、野生動物をはじめ、ペットの猫や犬までもが突如凶暴化して人々を襲撃するという現象が世界中で起こる。ピザ配達人の青年ウルフ(グレッグ・フープル)と彼の友人であるジェイク(アダム・ショーンベルグ)、ジェイクの妹レイチェル(スティーブン・モッタ)の3人は、動物たちの脅威をかわしながらも逃避行を続けていく……というお話。

冒頭から凄まじいシーンのオンパレードだ。女性が額から流血しながらも牙を剥きながら飛びかかってくるペットの猫をフライパンで勢いよく叩きつけ、その勢いのままフライパンの柄の部分でメッタ突きに。続いて、息子から「ウサギに襲われているから助けて!」というSOSが入るや、車で現場に駆けつけて拳銃でウサギを撃ち殺す。だが、この女性はすぐさま犬にかみ殺されて死んでしまい……となかなか威勢の良いシーンがたたみかける。

前半部の大きな見せ場と言えば、なんと言っても鹿軍団による女子惨殺劇。ウルフとジェイクはピザ届け先の山小屋にて乱痴気パーティーで盛り上がっている女の子たちと一夜を過ごすことになる。翌朝、1人の女性が森にたたずむ鹿にエサをあげようと恐る恐る近寄ると、差し出した手首をパクッと噛みちぎられてしまう。気付けば森には鹿が集結。いつの間にか部屋にまで侵入していた鹿は壁を突き破ってティーンたちを次々と血祭りにあげる。凄惨なシーンではあるが、ウルフとジェイクが鹿に食われた女の返り血をバケツ一杯分ほど、真正面からドバッと被る。いくらなんでもそれはありえない。そこは画面に向って大声で「何でやねーん!」とツッコミをかまして大いに楽しんでほしい。

車の車体に乗っかったゴリラ。もちろん、ホンモノのゴリラではない

その後も様々な動物が登場し、ウルフたちは悪戦苦闘を強いられる。ただでさえツッコミどころが多いのに、動物たちの攻撃性や凶暴性はあまり感じられない上に意外とあっさりとやっつけられてしまうのだから、脱力感すら覚えてしまうのがウィークポイントだ。特に最も弱さを感じさせるのが馬だ。か弱い女性であるはずのレイチェルのパンチ3発とキック1発でバッタリと倒れてしまうシーンは、「この程度でくたばるわけがないだろ!」というツッコミをかます以前にただ呆然とさせられてしまう。でも、このようなユルユルな感じこそがB級映画ならではの味わいなのである。

凶暴さの中に、お茶目な魅力を秘めた動物もいる。それは、ゴリラだ。まず、頭部が赤毛がソフトモヒカン。人を襲う凶暴性が身についただけでなく、何故かオシャレにも目覚めてしまったようである。そんなオシャレゴリラはウルフたちとの攻防の末、片手首を切られてしまうが、自分の手首がないことを自分の目で確認してやっと気づき、心の底から驚いたと思うと酷く落ち込んだ表情をみせてくれる。この表情がなぜか可愛らしく見えてしまうのだ。本作を鑑賞する方は、このゴリラのシーンは目玉をかっ広げてしっかりとチェックしてほしい。

クライマックスは、ラスボスであるクマとのバトル。クライマックスならではの凄まじいバトルに期待したいところだが、逆に最後の最後に最大限まで発揮された脱力感を大いに楽しんでいただきたい。とにかく最後こそ観てのお楽しみなのである。「動物が凶暴化した理由」も明かになるが、こちらもある意味かなり衝撃的だ。

ウルフに襲いかかるクマ。一昔前のゲームでももうちょっと頑張ってると思う

上映時間は72分と短めでお手ごろなのが何よりも良い。暇つぶし目的で肩の力を抜いて頭を空っぽにして観るのも良いが、ツッコミどころをじっくりと探してTV画面に向ってツッコミをかますのが本作の正しい楽しみ方だと言っても良いだろう。できれば、友達を2人以上誘い、酒を飲みながら「ちょっと笑える映画があるから」とツッコミながら楽しめば結構盛り上がると思う。このような楽しみ方もできる作品は実にありがたい。本作のような作品を簡単に侮ってはならないし、色々な意味でなくてはならない作品であることを改めて思い知らされた。

『猛獣WARS』作品概要

  • 2012年 アメリカ映画
  • 原題:「RIZE OF THE ANIMALS」
  • 監督・脚本・編集:クリス・ウォジック
  • 出演:グレッグ・フープル、スティーヴン・モッタ、アダム・ショーンベルグ、ニコール・ソールズベリー、チャールズ・ビグロー
  • 上映時間:72分
  • DVDリリース日:2012/10/05
  • 発売元:アサルトワン
  • 販売元:ゼイリブ