よいこのQ&A
Q:『節子、それタイタニックやない!』ってなあに?
A:某客船映画みたいにお金かけてません。有名な俳優さんも出てません。でも、作り手の意気込みは負けちゃいないぜ! という知られざる優良エンタメ作品を貪欲に紹介していくコラムだよ。アクション、SF、ホラー、面白いものは何でもアリ! レンタル屋さんに行きたくなること請け合いだァ!
近年、『キック・アス』(10)、『スーパー!』(10)といったお手製ヒーロー・アクション作品が注目されたことは記憶に新しい。そんなお手製ヒーロー作品が未公開作品群の中でも存在したので紹介する。
と言っても、製作国は欧米圏ではなく、南米チリで作られたということが驚き。要するに、未公開作品に相応しい小国の小品なのである。だからと言って、本作を簡単に侮ってはならない。
主演のマルコ・ザロールは日本人にとっては馴染みのない役者ではあるが、チリでは“ラテン・ドラゴン"と称される人気アクションスターである。さらには、ハリウッド映画界でもその活躍ぶりを注目され、2013年公開予定の格闘アクション映画『モータル・コンバット』に出演することが決定しているという有望株だ。監督、脚本、編集を手懸けたエルネスト・ディアス=エスピノーザは、「チリの映画文化を変えた!」と言わしめた娯楽映画職人で、彼もまたハリウッドからのオファーが続々と寄せられており、次回作は世界中の新進気鋭の映画作家を寄せ集めたオムニバス・ホラー『The ABC of DEATH』が決定している。
そんな2人がタッグを組んで手がけた本作は、未公開アクションや低予算の小品であることを忘れさせてくれるほどの面白さを存分に味わわせてくれる。
ストリップクラブの用心棒マルコ(マルコ・ザロール)は、強盗に襲撃された際に両親を殺害され、弟チトを性的暴行で苦しめられたという過去があった。チトは事件のショックで精神を病み、入院療養中。自身の生活費とチトの治療費を稼ぐべく働きながらも自宅では黙々と身体を鍛え上げている。ある夜、ジョギング中のマルコは邸宅に押し入る強盗団を発見。彼は一味を蹴散らし、強盗団のマスクを被ってその場から素早く身を引く。翌日、TVのニュース番組で取上げられ、番組を観ていたチトは元気を取り戻す。ちなみに、マルコが強盗団から救った人は、番組の女性レポーターのマリアだった。チトが覆面ヒーローの真似をする姿を見たマルコは、弟のためを思い、覆面ヒーロー“ミラージュマン"となって街の悪党どもを蹴散らすヒーローとして日々戦っていくのだが……。
見どころは、マルコ・ザロールの身体能力抜群の軽やかな身動きと格闘センスを遺憾なく発揮させたマーシャルアーツ仕込みの格闘肉弾戦である。ハイキックや回し蹴りだけでなく、プロレスでも使えそうなカポエラ風の飛び技やワルの1人を高々にリフトアップして投げ捨てるパワーファイトぶり、UFCや今は無きPRIDEでお馴染みの倒れた相手の馬乗りになって顔面に拳を叩きつけまくるといった格闘シーンの数々は、アクション映画ファンだけでなく、プロレス格闘技ファンの方にとっても存分に楽しめるはず。
また、お手製ヒーローということもあって、「少しだけカッコいいヒーローを期待した」という方にとっては少々見苦しく思えるようなトホホなツッコミどころも見受けられる。
まずは、バス停でオバサンのバッグをひったくった犯人をマルコが追いつめてその仲間もろとも蹴散らすシーンの前だ。犯人が仲間と合流したとき、マルコはミラージュマンに変身しようとする。だが、衣装は穿きにくそうだし、マスクも被りづらそう。私は思わず「その間に逃げられるぞ!」と大声でツッコミを入れそうになった。また、普段着を脱ぎ捨てた場所がゴミ箱前であったため、ひったくり犯グループを蹴散らした直後にはゴミ収集車に持っていかれてしまい……。ミラージュマンの格好のままで多くの人々が行き交う街のゴミ捨て場をうろつくシーンは、正直カッコ悪い。でも、このような見る者の笑いを誘うシーンを用意した点もご愛嬌だと言って良いだろう。
また、悪党どもが待ち受ける場所へ向う際の移動手段が市バスという点も面白い。普通、カッコいいデザインのバイクや車に乗って現れるのがヒーローのお決まりだが、それがあろうことか乗り合いバスなのだ。そのインパクトはかなり強い。
クライマックスは、少女誘拐を目的とする犯罪組織とのリベンジ・マッチ(1度目はミラージュマンが拳銃で撃たれて負傷し、殴る蹴るの暴行による顔面血まみれのノックアウト)。凶悪かつ残忍なヤツらを相手にミラージュマンは「目には目を!」と言わんばかりに持ち前のカンフー・ファイトに残酷バイオレンスを加味した攻撃で復讐に挑むと同時に少女を救出に向う。中でも、敵の1人が斬首されるシーンは、劇中で観られる残酷バイオレンスシーンの中でもピカイチだ。
本作はアクションやツッコミ所だけが面白さではない。ミラージュマンが正義のヒーローとして国民から支持される一方でその存在を冷ややかに否定する者も少なくはないという、ヒーローにとっての厳しい現実も描かれているのが印象深い。また、ミラージュマンを利用してヤラセ番組を製作・放映するシーンを通じてのマスコミ批判、児童虐待といった現代社会の病的な部分も浮き彫りにしている。単にエンタテインメント性を追求するだけでなく、視聴者に社会問題を気づかせるようなシーンを用意したことも評価できる。
とにかく派手なアクション演出はないものの、随所に散りばめられたマーシャルアーツ仕込みの格闘アクションが楽しめ、テンポよく描かれているため退屈しないのが最高。日本でも相変わらずアメコミ作品が流行っているし、『キック・アス』や『スーパー!』が話題になったので、そういった作品群がお好きな方には、強くオススメする。また、マルコ・ザロールがチリ発の世界に通用する新世代アクションスターになる兆しもあるため、全アクション映画ファンにも彼の素晴らしき身体能力と格闘センスを堪能していただきたい。
ちなみに、本作はハリウッドでのリメイクも決定済み。しかも、主演は同じくザロールで、なんと3D作品とのこと。リメイク版こそ日本での劇場公開を大いに期待する。もし実現したならば、いっそのこと本作も1週間限定レイトショーでも構わないので劇場公開しても良いと思う。その前に、ザロールとエスピノーザ監督が初めてタッグを組んで製作された第1弾作品「KILTRO」をDVDストレートにするのではなく、しっかりと劇場公開してほしい!
###『ミラージュ』作品概要
- 2007年 チリ、アメリカ
- 原題「MIRAGEMAN」
- 監督、脚本、編集:エルネスト・ディアス=エスピノーザ
- 出演:マルコ・ザロール、マリア・エレーナ・スウェット、アリエル・マテルーナ
- 上映時間:90分
- DVD発売日:2012/07/04
- 価格:4,300円
- 発売元:キュリオスコープ
- 販売元:アメイジングD.C.
(C)ALL RIGHTS RESERVED.