よいこのQ&A
Q:『節子、それタイタニックやない!』ってなあに?
A:某客船映画みたいにお金かけてません。有名な俳優さんも出てません。でも、作り手の意気込みは負けちゃいないぜ! という知られざる優良エンタメ作品を貪欲に紹介していくコラムだよ。アクション、SF、ホラー、面白いものは何でもアリ! レンタル屋さんに行きたくなること請け合いだァ!
『ダイ・ハード』シリーズ、『リーサル・ウェポン』シリーズといった多くのハリウッド大作アクション映画を世に送り出してきた名プロデューサーのジョエル・シルバー製作によるB級アクション映画『トランジット』を紹介しよう。
監督はアントニオ・ネグレという方で、本作の前には『ザ・プロジェクト』という未公開B級ホラーを撮っている若手実力派。今後は壮大なカー・アクション大作が控えており、早くもアクション映画ファンに大きな期待を抱かせる。だが、まずは『トランジット』を観て彼がアクション映画を撮るには相応しいか否かを見極めてみよう。
ある夜、武装した4人組に現金輸送車が襲撃され、400万ドルが強奪される。犯人グループは奪った金を隠すにはもってこいのファミリー・ワゴンカーに目をつける。キャンプに向う途中で突然事件に巻き込まれてしまった4人家族。一家のオヤジであるネイト(ジェームズ・カヴィーゼル)は、実は不動産詐欺で18カ月間のムショ暮らしを送っていた仮釈放中の身分で、家族との絆を取り戻したいという思いからキャンプに向っていた。しかし、車中に隠された現金に気づいた妻ロビンは夫の仕業だと思い込んでブチ切れし、ネイトと現金を置き去りにして車で走り去ってしまう。ネイトは、執拗に追ってくる犯人グループから家族を守るべく激闘を繰り広げることに……というお話。
低予算である上に、見せ場のアクションシーンに関しても演出はド派手な感じではない。それでも、観る者が面白さを味わえるような作り方となっているのが何よりも素晴らしい。
ネイトが運転するワゴンカーを犯人グループが乗る漆黒のスポーツカーが追い、そこからハードなカーチェイスが繰り広げられるのが1発目の見せ場。カーチェイスが始まった瞬間からアップテンポに描いて観る者にスリルとハラハラドキドキを感じさせ、大いに盛り上げてくれる。
主人公ネイトは前科者ではあるが、不動産取引の際にドラッグのディーラーに資金洗浄されたことが原因で不動産詐欺の被告人となってしまった。要するに彼は根っからの悪人やアウトローではない。妻と2人の息子を愛していることがわかるし、家庭を修復したいという思いもかなり強い。前科者でなければ、実に良き父親なのである。そんな彼はもちろん武器も持っていなければ、格闘技や武術に長けているわけでもない。ただ、家族を守るという強い信念と根性だけで圧倒的に不利な状況を打破するべく敵と闘い続ける。妻ロビン、長男シェーンも敵の脅威に簡単に屈することなく抵抗する。
傷だらけの戦士となったネイトが凶悪犯相手にガチンコ勝負 |
中盤ではパトカーが火を噴きながら宙を大きく舞ってクラッシュするシーン、狙撃されたネイトの負傷箇所を犯人が踏みつけ、出刃包丁で斬りつけるといった残忍極まりないバイオレンスで圧倒させてくれる。後半からクライマックスにかけて見応え抜群のアクションが連続で描かれ、面白さはヒートアップする。ロビンとシェーン、次男ケニーがワニハンターの隠れ家に侵入し、そこで銃器をゲットしてからは追ってくる敵どもと豪快な銃撃戦を繰り広げる。続いて、ネイトと犯人グループのボス的存在であるマレックが殴る蹴るのハードな死闘をやってのける。これらのアクションシーンも先述したように派手さは感じられないものの、勢いよく見せ、観る者をとことん圧倒させるようなパワフルな映像に仕上がっているのである。
ネイト一家が味わう恐怖の旅行は、ネイトが愛する家族を守れるか否かを試された人生最大の試練とも捉えられる。父親として危険に晒された妻と2人の息子をしっかりと守りきれるのか? また、この最悪事態を乗り切ることによって家族の絆を取り戻し、家族の結束力をより強固なものにできるのか? このドラマを楽しむためのポイントでもあり、アクション映画を通して描かれた家族ドラマとしても興味深いのである。
上映時間は88分とお手頃。しかも、未公開B級アクション映画としては面白味を最大限に味わえる。個人的には、単館系の劇場で上映しても悪くはないと断言したいほどだ。低予算、ド派手ではなくても面白いアクション映画を作ることは可能だということをジョエル・シルバーとアントニオ・ネグレ監督は本作でしっかりと証明してくれたのである。これならネグレ監督の次回作であるカー・アクション大作は、面白い作品になりそうだ!
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『トランジット』作品概要
- 原題:「TRANSIT」
- 監督:アントニオ・ネグレ
- 出演:ジェームズ・カヴィーゼル、ジェームズ・フレイン、ディオラ・ベアード、エリザベス・ローム、ライアン・ドノフー、スターリング・ナイト
- 上映時間:88分
- DVD発売&レンタル開始日:2012/05/16
- 発売元(セル・レンタル):カルチュア・パブリッシャーズ
- 販売元(セル):ポニーキャニオン/(レンタル):カルチュア・パブリッシャーズ
- 価格:3,990円
ささき・たかゆき
「映画ライター。1982年、大阪府出身。アクション映画、任侠ヤクザ映画といった男泣き&男臭い作品が大のお気に入り。他にはホラー、コメディー、ミュージカルも……とにかくB級映画、おバカ映画をこよなく愛する
タイトルイラスト&題字:五月女ケイ子