よいこのQ&A
Q:『節子、それタイタニックやない!』ってなあに?
A:某客船映画みたいにお金かけてません。有名な俳優さんも出てません。でも、作り手の意気込みは負けちゃいないぜ! という知られざる優良エンタメ作品を貪欲に紹介していくコラムだよ。アクション、SF、ホラー、面白いものは何でもアリ! レンタル屋さんに行きたくなること請け合いだァ!
今から約10年前に公開されたエロリー・エルカイェム監督によるB級モンスター・パニック作品『スパイダー・パニック!』。こちらはB級と言っても、ハリウッドのSF大作を世に送り出してきたヒット・メーカーとして知られるローランド・エメリッヒが製作総指揮を担当していた。今回ご紹介する『スパイダー・パニック! 2012』は、“B級映画の帝王”と称されるロジャー・コーマン御大が製作総指揮を担い、B級作品どころかZ級作品まで大量生産するジム・ウィノースキーが監督・脚本を務めた究極のB級モンスター・パニック作品だ。
ちなみに、『スパイダー・パニック!』の原題は「ARAC ATTACK」または「EIGHT LEGGED FREAKS」で、本作の原題は「Camel Spiders」。原題からもわかるように正式な続編やリメイク作品ではない。もちろん、ストーリーに繋がりは一切ない。だから、『スパイダー・パニック!』を観ていなくてもまったく問題ないのである。
アフガニスタンの砂漠でアメリカ軍とタリバン軍が銃撃戦の最中に“砂の悪魔”と称される巨大毒グモが突如出現し、タリバン軍が餌食となってしまう。帰国したスタージェス大尉は銃撃戦で死亡した伍長を乗せて軍用トラックを運転するが、追突事故による衝撃で荷台から棺桶が外に飛び出し、伍長の遺体に侵入していた毒グモたちが溢れ出してしまう。やがて、毒グモは無数に繁殖し、人々を次から次へと襲撃しては噛み殺し、街をパニックに陥れる。スタージェスは街の住人を率いて銃器を片手にクモ軍団へと立ち向かう……。
冒頭のアメリカ軍とタリバン軍の銃撃戦は、戦争映画のような迫力や緊迫感、重厚さは一切感じらない。ただひたすら銃を撃ちまくっているという単調なアクション演出ではあるが、景気良く銃をブッ放していることによって爽快感だけは味わえる。また、銃撃の際、すべての銃器が銃口から火を噴いているが、この火がCGであることが丸わかりというチープさ。開巻からB級映画ファンをニヤリとさせる。
見どころと言えば、やはりクモ軍団が人々を襲撃するシーンと、銃器で退治されるシーン。ただ、それだけ。このクモは襲撃の際、まずは人間の顔面に勢いよく飛びついて噛みつき、すぐさま胸部に移動して血みどろにし、死に至らしめる。この動きはなかなかスピーディーで、ダッシュで逃げる金髪美女を猛スピードで執拗に追いかけてそのまま食らいつく。また、立ち小便する大学生のお兄さんが股間をパクリと噛みつかれるというナンセンス極まりないシーンは、おバカ映画ファンにとっては嬉しくてたまらないだろう。
スタージェス大尉とC・トーマス・ハウエル扮する保安官が訪れたカフェにてクモが大量に発生。店内にいる客たちも銃器をブッ放して撃退し、別の場所へ移動してからはクモ軍団との激闘の日々がメインに描かれる。
だが、移動した一夜は、ただ話し込んでいるシーンがダラダラと描かれているだけで退屈させられるのが大きなマイナスポイントだ。また、スタージェスたちとは別に遊びほうけている大学生たちが迫り来るクモ軍団から逃げまわるシーンが交互に描かれていくが、このシーンは正直言って必要ないと言える。スタージェスたちとクモ軍団の攻防だけを徹底して描いていた方が観る者もしっかりと集中できるはずだ。寄り道をせずにムダを省いておれば良かったのに…そう思うとちょっと残念だ。
夜が明けた後半からはスタージェスたちとクモ軍団の攻防は本格化し、クライマックスに至るまで激闘はヒートアップしていく。とにかく銃を乱射しまくってクモ軍団を蹴散らす様子は単純に面白いと言えるし、最後はド派手な大爆破シーンも用意されているので、醍醐味だけはしっかりと味わえるのは素直によろしいと認めたい。
B級映画ならではのチープな雰囲気やマイナスポイントは観受けられるが、モンスター・パニック作品ならではの人が噛みつかれるシーンや撃退シーンで大いに盛り上げてくれた本作。上映時間は84分で、なおかつストーリーも簡素化されているので、気軽に楽しめる作品だと断言する。
『スパイダー・パニック! 2012』
- 2011年 アメリカ映画
- 原題:「Camel Spiders」
- 出演:ブライアン・クラウズ、C・トーマス・ハウエル、メリッサ・ブラッセリー、フランキー・カレン
- 監督・脚本:ジム・ウィノースキー
- 製作総指揮:ロジャー・コーマン
- 上映時間:84分
- 販売:ミッドシップ
- 発売日:2012年6月16日
- 価格:5,040円
ささき・たかゆき
映画ライター。1982年、大阪府出身。アクション映画、任侠ヤクザ映画といった男泣き&男臭い作品が大のお気に入り。他にはホラー、コメディー、ミュージカルも……とにかくB級映画、おバカ映画をこよなく愛する
タイトルイラスト&題字:五月女ケイ子
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