旅の楽しみは、「計画」「実行」「記録」それぞれにある。旅好きはひとつの旅を3回楽しむというわけだ。今回は「記録」について考えてみたい。写真や動画を撮っても未整理のままではもったいない。写真に文章を添えるだけで、もう一度旅する感覚になる。その記憶は何年経っても色あせない。「文章で残す」がおすすめだ。

旅から帰ったら、「旅の記録」を楽しもう

筆者は現在、別のコラムサイトで旅日記を連載している。文字通りの日記調で、見たまま、感じたまま、ときには思いのままに気持ちを書き続けている。行程表を書き写して情報を追加するというレベルだと、後で自分が読み返してもおもしろくない。かといってオススメ観光地を巡る旅行ガイドではないから、他の人が読んでも退屈かもしれない。

それでも、旅日記を書く作業は楽しい。じつは、いま書いている旅日記はちょうど1年前、2013年の3月18日の四国の旅だ。だらだらと書き続けていくうちに1年が経過してしまったけれど、写真を眺め、ボイスメモを聞き返し、当時のTwitterのログやメモ帳を眺めると、当時の旅が脳裏に蘇る。

素材を貯め込んだだけではこうはいかない。これらの材料を並べ、文章にまとめよう。すると、ときにはすらすらと、あるいはちょっと時間がかかりながらも、当時の自分の行動や感想が記憶の底から戻ってくる。それはまるで、また新たに同じ旅を繰り返しているような感覚だ。額に当たる日差し、さっと吹いた風の冷たさ、駅弁の味もよみがえる。記憶とは不思議なものだ。

旅日記の連載はもう11年目になる。以降は「後で旅日記を書く」という前提で旅をしているから、写真やメモなど素材の量を増やしている。素材が多ければ書きやすく、書けば旅の記憶がさらに強く焼き付けられる。今回の四国の旅日記も、書いている途中で、「前回の四国の旅はこうだったなあ」と、さらに過去の旅を想起した。今回の旅の3年前くらいだっけ? と思ったら、記録によれば前回の旅は2006年だった。これは正直なところびっくりした。

乗車路線の記録はエクセルにまとめる。駅名、乗車日などのデータの羅列も、記憶を呼び戻す材料になる

1年前の旅を再生する中で、さらに7年も前の旅が鮮明に呼び出された。高知駅で買った「かつおめし」の駅弁の味。徳島駅の鶏肉弁当の箱の裏に、小さく「阿波尾鶏」とあって、うまいしゃれだなあと思った。「アンパンマン弁当の中に、どうしてあんパンが入っていないんだ?」という素朴な疑問も思い出した。……なんだ、ぜんぶ駅弁ではないか。いや、他にも思い出せたことはたくさんある。

小学校の夏休みの日記では苦労したし、その後、親や先生に日記を書けと勧められても続かなかった。当時は自分の毎日やその感想に価値があるなんて思っていなかった。もしあの頃、日記を書いていたら、いまでも記憶の中で子供の頃に帰れたかもしれない。いまさら思い出したいことは少ないかもしれないけれど。

「記録」の仕上げは「文章」がおすすめ

旅に出れば、ほとんどの人が写真を撮るだろう。携帯電話にカメラ機能が付くようになって、写真はフィルム時代よりずっと手軽になった。ただ、それだけに扱いが雑になってしまっているかもしれない。旅先で撮った写真について、旅から帰ってからどうしているだろう? そのまま携帯電話やデジカメのメモリに残したままだろうか? あるいはメモリの記憶容量を空けるため、パソコンに転送してそのままかもしれない。

その写真データは次にいつ開けるだろう。ずっとそのままになっていないだろうか? 友達と旅に出て、一緒に撮った写真をプリントしてもらって、それも引き出しに閉まったまま。いつしか折れて汚れて、大掃除のときにゴミ箱行き。これはもったいない。その写真をもう一度眺めれば、楽しかった旅を再生できる。そうして反復すると、写真がなくても記憶の引き出しから取り出しやすくなる。そんな楽しみを放棄しているなんて!

写真データをフォルダに放り込んだままにしてはもったいない。気になる写真をピックアップして、ワープロソフトやアルバムソフトなどで文章を添えておこう

旅から帰って多忙な日常に戻り、記録を整理する時間などない。そんなときに無理して記録作業をやる必要はない。だんだん薄れていくとはいえ、写真などのきっかけがあれば記憶は取り戻せる。だから後日、いつでもいいから、「旅の記録」はしっかりと、楽しみながら取り組んでおこう。

そのときにおすすめしたい作業は「文章で残す」だ。なにも大作家の紀行文のような大作をめざす必要はない。初めはお気に入りの写真に説明書き(キャプション)を追加する程度でいい。次のステップは時系列の再生だ。乗った列車の時刻、訪れた場所、食べたもの、名前が付けられないような、それでも気になった情景など、思いつくままに追加していく。

そうするうちに、あら不思議、そのときに自分がどんな行動を取ったか、何を思ったか、暑かったか寒かったか、どんどん記憶が引っ張り出されてくるだろう。それをていねいに文章に残していく。ワープロソフトに写真と文章を並べていくだけでも、いつでも旅の記録は呼び出しやすくなる。そればかりか、ファイルを開かなくても、記憶の引き出しの手前にいてくれる。自分の楽しみのためにやることだから、気取った恥ずかしい文章だっていい。文章が下手だからと気に病む必要もない。

勇気を持って公開してみよう

さらにおすすめしたい楽しみは、旅の記録をブログサービスなどで公開することだ。SNSで限定公開でもいい。写真も文章も自信がない……と思うかもしれないけれど、誰かから感想をもらえるとうれしくなる。誰かに見せる、と思うだけで、記録作業がていねいに、詳しくなるはずだ。

そして、できれば相手を限定せずに公開してもらいたい。これは自分の楽しみのためだけではない。同じ場所に出かける「誰かのため」だ。どんな情報でもいい。「ガイドブックにある店に行ったら定休日だった」「この列車にはトイレがなかった」「ぶらりと入った店の料理がおいしかった」「直売所でイチゴが1パック100円だった」などなど、あなたの経験は、あなたが思っている以上に、誰かの参考になるかもしれない。もちろんそれだけに、個人情報を過度に露出しないように気を付けないといけないけれど。

あなたの旅の記録は、あなただけではなく、誰かの旅の楽しみにも貢献するのだ。