「乗り鉄」と観光のバランスは人それぞれ。鉄道だけで満足できる人、観光もしてみたい人。その差がはっきり現れる場所は終着駅だ。ローカル線だと、次の列車まで何時間も待たなくてはいけない。そこで、駅舎を眺める程度で満足し、到着した列車で折り返す人もいるし、折返し列車を見送って街歩きなどを楽しむ人もいる。バスなどに乗り継いで、別の駅へ向かっても楽しい。

鉄道を欲張るか、鉄道以外も欲張るか(写真はイメージ)

鉄道の旅そのものが目的だから、観光などで時間を使わず、効率よくたくさんの路線に乗りたい。あるいは、せっかく遠くまで来たからには、付近の有名観光地くらいは見ておきたい。どちらも正解だ。筆者はどちらも経験した。若い頃は前者、最近は後者の傾向が強い。

少年時代と中年時代(笑)で、欲張りの質が変わる!

人は欲張りな生き物だ。筆者が「乗り鉄」を始めた頃は、とにかく効率よく、たくさんの路線に乗りたかった。フリーきっぷの有効期間内に、乗降可能なすべての路線に乗りたい。だから綿密な行程表を作った。1日に数往復しか走らないローカル線の場合は、到着した列車で折り返した。駅員さんや乗務員に、「折り返します」と声をかけて、荷物は車内に置いたまま、さっさと駅舎を眺めて列車に戻る。そうしないと、次の列車まで何時間も待たされる。他の路線に乗れなくなってしまう。

それでも、たくさんの列車に乗れたから満足だった。金儲け目的で作られた観光地なんか要らないと思ったし、有名な城や寺があっても、歴史や信仰に興味がないのに行ってもしかたないと思っていた。

ところが、社会人になって忙しい時期を過ごし、「乗り鉄」に復帰してみると、別の欲が湧いてきた。「鉄道だけではなく、もっといろんなものを見たい」と思い始めた。無関心だった名刹や観光地にも興味が出てきた。社会経験を積み、ドラマや映画、読書などの影響が重なったせいもあるだろう。学生時代には苦手だった歴史も、ドラマやマンガをきっかけに興味を持った。

学生時代に比べると、お金にはちょっとだけ余裕が出てきた。鉄道以外にお金を使えるようになった。これも大きな理由だ。反対に旅の日数は短くなっていった。それだけに、短時間で、どれだけ観光できるか、という行程づくりの楽しさが増した。

終着駅の先にあるもの

いまとなっては、鉄道だけに終始する旅よりも、鉄道の周りにある町や名所を含めた旅のほうが楽しい。だから、これから「乗り鉄」を始める人には、鉄道だけに固執せず、沿線の観光も楽しんでほしい。その初歩として、「終着駅でいったん鉄道から離れる」という遊びをおすすめしたい。

終着駅からバスに乗り継ぐと、峠道や海岸線など、鉄道を建設できないような場所を走る。列車とバスでは景色がまったく異なる。鉄道の需要がない地域をバスが走るわけだから、人里離れた自然の豊かな車窓を楽しめる。

徒歩の街歩きも楽しい。土産物屋さんではなく、地元の人々が日常で利用する商店やスーパーマーケットを訪ねてみると、自宅の近くにはない食材やお菓子が見つかるかもしれない。終着駅の街の生活を思い浮かべて、ここに移り住んだらどんな毎日だろうと想像すると愉快だ。

電車とバスとロープウェイとリフトを乗り継いで樹氷の世界へ(御在所岳)

終着駅からの先の旅について、近年の筆者の旅からおすすめをふたつ紹介しよう。まずは近鉄湯の山線だ。終点の湯の山温泉駅からバスに乗ると、御在所ロープウェイに乗り継げる。ロープウェイの終点からさらにリフトに乗れば、なんと登山の苦労なしに御在所岳の頂上に行ける。見渡す風景もいいけれど、冬から早春の時期は樹氷を見られる。登山やスキーをしなくても、乗り物を乗り継いで歩いて行くだけで樹氷の世界だ。

バスで訪れた室戸岬。ふたつの路線の終着駅で列車を乗り継ぐ途中

こんな散歩道が整備されていた。迷路のようで楽しい

終着駅と終着駅をつなぐバスの旅も楽しい。土佐くろしお鉄道ごめん・なはり線の奈半利駅と、阿佐海岸鉄道阿佐東線の甲浦(かんのうら)駅を結ぶバス路線は室戸岬を経由する。室戸岬で途中下車してみたら、低木の樹海のような散歩道もあるし、眺望を楽しめるスポットも多い。列車ではたどり着けない風景に出会えた。

鉄道そのものも楽しいけれど、鉄道の周辺もまた楽しい。駅の周辺を歩くと、その街や人々と鉄道との関わりや歴史も垣間見える。飾り立てた観光地も、そうと割り切れば楽しいものだ。また、観光地に行かなくても、風景や食べ物など、新しい体験や発見があるかもしれない。いや、きっとあるぞ。終着駅で折り返すなんてモッタイナイ!