近年、悪しき習慣と言われることも多い「飲みニケーション」。でも、お酒を飲みながら社内外の人と仲を深めることって、本当に良くないこと? ここでは、コミュニケーションに関する研究や執筆で知られる明治大学教授・堀田秀吾さんに、そのメリットやデメリットの解説をはじめ、新しい飲みのカタチ『飲みニケーション2.0』を紹介してもらいます。四回目のテーマは「今夜から使える、イマ風『飲みニケーション術』」。
飲み会で使えるテクニックと話し方
飲みニケーションに関する若者やオジサンの意識がどんな感じなのか、飲み会に参加するメリットはどのようなものなのかについてはなんとなくわかったものの、じゃあ、実際の飲み会ではどういう風に立ち回ればいいのかは悩んでしまうところです。
そこで、ここからは実践編として、人間関係を深め、飲み会をより充実したものとするために飲み会で使えるテクニックや話し方などを紹介します。
1.【共感を生み出す】
人間は社会的動物。進化の過程で、他者と繋がって社会を形成していくために人は「共感」という手段を選びました。初対面の人が同郷の人だとわかったとき、同じミュージシャンが好きとわかったとき、同じ味で感動したときなどなど、それまでは距離があった相手に共感する部分が見つかった瞬間に親近感を覚えたり、好意を持ったりしたことは誰しもが経験したことがあるのではないかと思います。
共感は人と人をつなぐ大事な要素なのです。ですから、飲みニケーションにおいても、共感すること、共感させることを意識した話題や話術を使うようにするといいでしょう。
具体的には、「おっしゃる通りだと思います」「たしかに」のように、相手の言っていることを肯定的に評価したり、同意するようなやりとりを心がけます。ただ、終始同意しているだけではただの調子の良いヤツと思われてしまうので、時折、相手の言った意見に乗ったうえで、プラスαとして自分の経験や意見も述べるのがいいでしょう。
たとえば、「おっしゃる通りだと思います。僕も、昔そういうことがあって結構苦労したんですよ。でも、最後はやっぱり◯◯でした」のような感じで話すと、ちゃんと相手の話も聞き、共感もしている感じが出せます。
2.【笑顔】
笑顔には様々な効果があることが実証されていますが、飲みニケーションで利用したい効果は3つ。①相手の警戒心を取り除く、②好感度を高める、③自分の脳を騙して楽しむことができるという点です。
笑顔は「自分はあなたの敵ではない」ことを示すサインです。ですから、まずは、笑顔で話を聞くことで相手に自分が好意的に接していることを示します。京都大学の大薗・吉川らの実験では、日本人もアメリカ人も笑顔の相手に好ましい印象を抱くことを確認しています。笑顔で接することは、(国境さえも超えて)相手に好印象を抱かせるのに効果的なのです。
また、脳は身体の動きをモニターして、現在の自分の感情を判断します。そのため、無理矢理にでも笑顔を作って話を聞くと、脳も楽しいと感じるようになるのです。ドイツのストラックらの実験では、無理矢理笑顔になるようにペンを横にした状態で口にくわえさせられて漫画を読んだ被験者は、タコの顔のように唇をすぼめてペンをくわえさせられたり、普通の表情で漫画を読んだりした人たちよりも漫画を楽しいと感じていました。笑顔になっている自分の表情筋からの信号を受信して、脳が「笑顔になっている=自分は今楽しいのだ」と勘違いしたわけです。このように、脳は自分の身体の動きに騙されやすいものなのです。
飲みの席ですから、笑顔は伝播しますし、みんなが楽しく話すためにも、そして自分自身が楽しむためにも、口角を上げて、笑顔を作って臨みましょう。
3.【3つの「あい」】
人は、自分の話をしているときに強い快感を感じるということが、ハーバード大学社会認知情動神経科学研究所のミッチェルとタミルによる脳科学の研究で明らかにされています。一所懸命話を聞いてくれる人と一緒にいれば、快感が得られるわけですから、聞き上手な人が好かれるのも納得がいきますね。
そして、聞き上手になるために必要なのが、3つの「あい」です。その1つ目は、「相づち」です。「相づち」というのは、「はい」とか「うん」とかいう返事や、頷きなどです。立正大学の川奈の実験によると、話し手は、相づちを適宜打ってくれる聞き手に対して、感情的、社交的魅力を感じ、話していて楽しいと感じていたそうです。相づちは相手の話を聞いているという合図ですから、それをちゃんと送るのはたしかに重要ですね。
2つ目は、「合いの手」です。ずっと「うん」や「はい」だけでは、ちゃんと理解して聞いてくれているのかわからないし、単調で面白くないですよね。そこで、気を遣っていただきたいのが「合いの手」、つまり「そうなんですか」「なるほど、面白いですね」などの言葉です。合いの手は多彩であるほうがいいでしょう。いわゆる「さ・し・す・せ・そ」(さすが、知らなかった、すごいですね、センスいいですね、そうなんですか)だけでなく、色々なものをあらかじめ用意して練習しておくといいでしょう。
3つ目は、「愛情」です。好意の返報性と言って、好意的に接してくれる相手に人は好意を抱きます。ですから、話を聞くときは、話し手のことを好きになったつもりで、真剣に話を聞きましょう。好きな人の話だと思えば、つまらない話でも多少は我慢できるはずです(!?)
4.【合わない人の対処法】
世の中、色々な人がいますから、どうしても相性が合わない人はいます。そんな時は、適当に話を合わせながらも、その人の観察に徹し、分析モードに入ってください。
心理学者にでもなったつもりで、「私はこの人のどこを好きになれないのだろう?」「どういう人生を送るとこんな考え方の人になるんだろう?」「どんなストレスを抱えてるとこんな発言になるのかな?」など、客観的に色々考えていると、結構気が紛れたり、逆に楽しめたりするものです。脳科学的には、分析することに脳の資源を使うと、その分、感情を司る脳の働きが鈍るので、感情が抑えられるのです。
数々のヒット番組を世に送り出してきた、とあるテレビ局のプロデューサーは、「つまらないと思うヤツこそがつまらない。面白さを見出せていないだけ」と言っていました。飲み会も同じです。面白くなければ、面白いところを探せば良いのです。
イラスト:佐藤ワカナ
筆者プロフィール: 堀田秀吾
明治大学法学部教授。専門は『司法コミュニケーション』。法というコンテキストにおけるコミュニケーションに関して、言語学、心理学、法学の知見を融合したアプローチで研究を展開している。研究活動において得られた知見を活かして、一般書・ビジネス書・語学書を刊行している。主な著書に『科学的に元気になる方法集めました』(文響社)、『飲みの席には這ってでも行け! 人づき合いが苦手な人のための「コミュ力」の身につけ方』(青春出版社)、『言葉通りすぎる男 深読みしすぎる女』(大和書房)など。