日本酒は近年、驚くほど味わいが良くなっているのを知っていますか? 国の機関だけでなく、各都道府県の試験場や研究所などが独自に、地域の気候にあわせた酒米を品種改良させたり、新しい酵母を培養したり、開発を進めています。かつて「米どころは酒どころ」と言われてきましたが、それはもう昔の話。全国各地においしい日本酒が存在しているのです。

そんな日本酒に「これからチャレンジしてみよう!」と思うものの、「あまり詳しくはないから……」と尻込みする人もいるはず。そこで、今までに複数の日本酒専門店で女将を務めた経験を持つ、日本酒ライター「関友美」が、居酒屋や日本酒BARなどで一目を置かれる「日本酒通」ならではの、パワーセンテンスをあなたにそっとお教えします。

■本日のパワーセンテンス

「フルーティだけど、キレのいい酒ありますか?」

類似ワード:「濃醇(のうじゅん)だけど、後ギレのいい酒ください」「華やかだけど何杯でも飲める、飲み疲れしない酒が好きです」

追加ワード:「スッとキレていくから、飲み疲れしないね」「これはキレ味がいいねぇ」

■その意味とは?

日本酒を飲む際、感じるべきタイミングが5つあると考えます。

飲む前 → 第一印象(アタック) → 広がり → 後味 → 余韻

プロはテイスティングの際、これらのタイミングで感じたことを言葉として表現しますが、実は誰しもが無意識に感じ取っているものなのです。

タイミング 解説
飲む前 香りや色など飲む前に得られる情報。この時感じる香りは、酵母由来のものと貯蔵の仕方によるものである可能性が高い
第一印象(アタック) 口に含んだ瞬間の印象。インパクトの強弱と、舌触りなどの質感を指す
広がり 旨味の印象、甘味・酸味・苦味・旨味のバランスなど、口に入れてからの変化のこと
余韻 酒を飲みこんだ後の印象。香りや味わいがすぐ消える酒もあれば、長く持続する酒もある

「フルーティだけど、キレのいい酒」という発言は、主に「飲む前」と「余韻」について注目しています。日本酒にこだわりがある飲食店でこのセンテンスを使えば、あなたは「味わいの構造と複雑さを知る、日本酒通だな」と思われるでしょう。

■解説

「辛口好き=通」と呼ばれる風潮がありますが、これは大きな誤りです。飲食店で「辛口」とひと口に言っても、定義は実にあいまいで「アルコールの強さ」「酸味の印象」「キレの良さ」など、何を辛口と感じるかは人により異なります。

本当に辛口好きなら良いのですが、多くの場合は、現在流通している日本酒の多様性を知らないだけ。あるいは、戦後の米不足によって、清酒を醸造アルコールで薄め、さらに食品添加物を加えて造る甘いお酒「三増酒(さんぞうしゅ)」に対するトラウマを抱えた60代以上の人でしょう。そのため安易に「辛口」と口にすると、かえって「素人まるだし」という印象を与えることも。

「フルーティだけど、キレのいい酒」というオーダーは一見矛盾するようですが、この味わいを両立する日本酒は存在します。プロの日本酒魂に火をつける、程良い難易度のリクエストとも言えるかもしれません。

ぜひ酒場で、パワーセンテンスを使ってみてくださいね。

■パワーセンテンスのほかにも使える語録集

「旨味はしっかりしているが、重たくない酒」
「飲み疲れしない酒」
「味わいのバランスが良い酒」
「酸が立っていて、軽やかな酒」
「香りが華やかすぎず、少し苦味を感じる酒」

■女将からひとこと

以前に女将経験もある著者から最後にひとこと……。

注文のバリエーションをいくつか持っておくと、最初に飲む酒を迷いません。「おすすめください」と注文するより、言葉で表現した方が、今後につながる知見が広がります。2杯目からは1杯目を基準に、「もう少し甘さが欲しい」「もっとサッパリしている方が好み」と伝えることができます。

同じセンテンスを使っても、お店の人によって味わいの感じ方が異なり、出す酒が大きく違うこともあるでしょう。感じ方に正否はありません。ぜひ相性の良い飲食店を見つけて、より一層深く日本酒を楽しんでくださいね。